王道修行、師は佐京
すぐに重世に戻ると思っていたゲンジロウは、今日一泊していくらしい。
間継が、重世の扉を一日一往復分しか開けないからと思ったが。
「久しぶりに人世の酒が飲みたくてな。佐京殿の診察もある。一日くらい構わん」
とだけ言って、佐京と鈴音を伴い、離れへ行ってしまった。
「で」
三人を見送った間継が、モモリを呼び、湯呑と座布団を片付けさせた後に、こちらを見る。
正座に疲れたのか、胡坐になっていた。
「どうする?」
「どうするっていうのは?」
「俺はお前が妖力なんて使えなくていいと思ってる」
「あ、はい」
陰陽師デビューの話だったようだが。
じゃあ、なんでどうするって聞いてきたんだよ。
「この時代に妖力を扱えるってわかると、境界守の仕事に強引に誘われるからな」
「間継さんは前言ったみたいに、妖狐の問題が解決したら、もうバイトいらない感じなんですもんね」
秋臣は預かっている彼岸花のペンダントを思い出した。
気が済むまで持っていていいとも言われたし、就職したら返せとも言われた。
四年の間に妖狐が現れてくれればいいけど、もし俺が就職したら、あとは一人でするつもりなのかな?
「別にいらないとかじゃないんだが、俺にも色々思うところがあるんだよ」
「思うところって?」
思ったままなぞると、間継が睨んできた。なんで!?
「色々は色々だ。まぁ、でもこれからの自衛のために使えておいて、損はないとも思う」
「じゃあ、修行ってやつですね!」
これはあれだ。制約を持った主人公が、素晴らしい師匠に出会い、あらゆる困難の末、最強の力を手に入れる。
紆余曲折を経て、それほど弟子のことが好きじゃなかった師匠が弟子と師弟愛を深める! あの、王道展開だ!
秋臣の頭の中で、崖に激突する荒波を見下ろした男二人が再生されていた。
勿論、ひとりが秋臣で、隣には間継である。
聞こえてきた深い溜息で、秋臣の意識が現実に引き戻された。
間継が眉を寄せ、こちらを見ていた。
え? 違うの? 修行で合ってるよね?
「いいんだな?」
何故かそう聞かれた。
「え、はい。どうせなら使えた方が安全そうだし」
「もう一度聞くが、本当にいいんだな?」
「え?」
ゲンジロウを間継が重世まで送っていった後、佐京がやってきた。
「じゃあ、修行初日といこうか」
俺の師匠が佐京さんとか……
二度も確認された後で、「いや、佐京さんはちょっと」とは言えなかった。
佐京から教わったはずの間継のあの反応。嫌な予感がした。
「よろしくお願いします」
秋臣は内心怯えながら、師匠もどきに頭を下げる。
「そんな畏まることはないよ。大丈夫、僕は今まで数人教えてきたから、秋臣くんに合わせて教えていくことにするよ」
佐京が肩に手を置いてきた。
「それは有難いんですけど。佐京さん、妖力使うと駄目なんじゃ」
「僕のことを心配してくれるんだね。それも問題ないよ。基礎は妖力を使わないからね」
「基礎って……」
「とりあえず、庭へ出ようか」
佐京が悠然と庭へ出て行く。その立ち姿は、病人とは思えなかった。
ゲンジロウさんが診てくれてちょっとは良くなったのかな?
少し気持ちが軽くなった秋臣が庭に出ると、連れて行かれたのは、何故か大きめの平石の上だった。
「じゃあ、ここで座禅をしようか」
「え、座禅?」
「あれ、知らないかな?」
座禅ってあれだよね、あれ。お寺さんとかでお坊さんがしてるイメージのあれ。
「心を鎮める修行で、座禅と言うものがあってね」
秋臣は苦笑いする。
知らない。知らないことにした。だって俺、じっとしておくの無理だもん!




