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境界守と九官鳥  作者: 俐月
間継屋敷編

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朝のオムライス、味噌汁恋し



 起きた瞬間、軽快な声が聞こえてきた。



「あーかるいあっさがきたーきぼーうのあさー!

 では、ラジオ体操第一! はーい、腕を前から上にあげてー! 大きく背伸び運動からー!」



 寝ているすぐ隣で、何故か冬吾がラジオ体操を始めている。

 間継は、布団を頭まで被った。


 怠くて体に力が入らない。怒鳴る気も起きない。放っておいたら、そのうち飽きるだろう。


 そう思っていたのに、いつまで経っても終わらないどころか、どんどんうるさくなっていった。



「あ、ヒイリさん。そうそう、ラジオ体操知ってたんですね! 上手です!」



 おい、ヒイリまで一緒に始めてんのかよ。妖怪が主の部屋で、ラジオ体操始めるってどういうことだよ。



「おい」



 間継はやっと目を開いて、上を仰いだ。



「そうそう、手をこっちにこうー伸ばしてー。いいですね!」



 冬吾がヒイリに体操指導をしている。ヒイリはそれに倣って、ゆっくりゆっくり体を伸ばしていた。

 こいつら……



「おい、冬吾。朝からうるさい」


「あ! 間継さん! おはようございます! いい朝ですよ! こんないい朝を逃すなんて、駄目人間ですよ! 俺が何時からここにいたと思ってるんですか!」



 は? 何時って……

 間継は壁賭け時計を見る。朝の七時を過ぎていた。なんでもう七時なんだ。



「ヒイリ。俺は六時前に起こしに来いって言った気がするんだが」



 老婆妖怪が、知らぬ顔で体操をしていた。こいっつ、また寝てたな。

 柱時計に憑いてる癖して、時間管理出来ないのは相変わらずだな。



「俺は起こしにきましたよ! 六時に! なのに、起きなかったのは間継さんですよ!

 ヒイリさんを責めるのは筋違いですよ!」


「は? お前、そんな前からいて――」



 すると秋臣がふふーんと顔をにやつかせて、スマホを見せてきた。



「律くんの寝顔は天使でしたねぇ。ほら」



 そこには俺の寝顔の画像。間継は飛び起きた。



「おっま、消せ! 今すぐ消せ」


「嫌ですよ、モモリさんに見せないといけないし」


「知ってるか、それ盗撮って言うんだぞ。お前の大好きな人世の法律だ」


「俺~、境界守の下でバイトしてて~、人世の法律ってよくわからないなぁ」



 さっとスマホをポケットに仕舞った冬吾がふいっと顔を逸らす。

 こいつ、減給してやる。



「大丈夫ですよ、モモリさんに見せたらすぐ消すんで。いいから早く起きてください。

 カマヒコさんがもう朝ごはん作ってくれてるんですから」



 彼が時計を見る。間継もそちらをもう一度見て、仕方なく起きることにした。







 居間に運ばれてきたのは――



「なんで、朝からオムライスなんだよ。というかカマヒコ、こんなの作れたのか」



 いつもなら食べやすい和食のはずだった。



「カマヒコさんって、実はなんでも作れるらしいですよ。間継さんが重いもの嫌がるから、和食で軽いものメインにしてるだけだって」


「なんでお前の方が屋敷の妖怪について把握してるんだ」


「そらぁ、俺は? 間継さんと違ってコミュ力ありますから」


「じゃあ、彼女も簡単に作れるんだろうな、そうかそうか」



 この朝食は冬吾の嫌がらせに違いなかった。

 嫌味を嫌味で返した間継が、スプーンを手に取る。


 はぁ、朝は味噌汁じゃないと胃が落ち着かないってのに。

 その間、珍しく今に居座っていたモモリが、冬吾のスマホとこちらを何度も目で往復していた。


 間継はその視線を堪えて、嫌々オムライスを食べ始める。

 一時間寝坊したからさっさと仕事に行かないと。とりあえず、今日は重世で大事な用が……



「おい、モモリ。いい加減やめろ。あと冬吾画像消せ」


「えー、せっかく上手く撮れたのに。まぁ約束ですし、勿体ないけど仕方ないですねー」



 冬吾は割とあっさり画像を消した。削除した項目からもしっかり、目の前で。

 こういう真面目なところはあるのに、なんで盗撮なんてするのかその矛盾は未だにわかってないが。わかる必要もねぇな。


 間継はオムライスを半分食べたところでスプーンを置いた。



「全部食べれないから、置いといてくれ。戻ってきたら残り食う」



 モモリに言うと「承知いたしました」とじっとこちらを見てきた。


 なんだ、この視線。

 間継は一連のことを思い出したあと、深い溜息を吐き出した。



「モモリ。明日からヒイリじゃなくて、お前が起こしに来てくれ」



 母親ってのは、息子の寝顔なんてものを見たいものなのか?

 まぁ、ヒイリよりモモリの方が確実に起きられる。


 何故かモモリは嬉しそうだった。



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