起こす秋臣、眠る時計
早寝早起きの天才の俺は、いつも目覚めが良い。
でも、今日は特に素晴らしかった。
昨日母さんの手作り料理を食べたおかげかもしれない。ゲームで言うところのエリクサーみたいな。
と、朝から元気溌剌な秋臣は、上機嫌だった。
昨日、あれから間継は不可解そうな顔をしたまま、仕事に行き、俺が寝ようとしたところに帰ってきた。彼にしては、早い帰宅だった。
何か言いたげな顔をしてたけど、結局言ってこず、俺も眠かったし、ああいう顔をしている時は難しい話だから寝ることにした。
で! 何度でも言うが、今日の目覚めが素晴らしい! 難しい話でもなんでも聞けそうだ!
「今日もお早いご起床ですね、冬吾様」
居間に行くと、モモリが迎えてくれた。
「おはよう、モモリさん。間継さんは?」
「主様でしたら、ヒイリが毎朝時間をお知らせにいくのですが……予定ですともう起きていないといけない頃ですのに」
「あ、ヒイリさんだったんだ。間継さんの目覚まし時計」
屋敷の柱時計についている老婆姿の妖怪だった。秋臣からすると、ほとんど顔を合わせない希少妖怪である。
時計を見る。そろそろ六時になろうとしている。
「んー、よし」
そういえば、間継さんの部屋に入ったことがない。
「俺が起こしにいってくるよ!」
「主様は、朝あまりご機嫌が……」
「大丈夫大丈夫、なんたって俺たち友達だから」
そう思ってるのは俺だけかもしれないけど。言ったもん勝ちだし~
モモリが目を瞬かせていた。彼女はそれ以上、止めてこなかった。
間継の部屋のふすまをそっと開いた。
カチコチと秒針の音が聞こえてくる。壁掛け時計の音ではない。これは、ヒイリがいるときに聞こえてくる音だった。
入ったすぐそこでは、老婆が正座していた。眠っている。
おい、ヒイリさん。あんた間継さんを起こしにきたんじゃないのかよ。
一緒に寝ててどうするんだよ。
間継が朝起きれない理由のひとつを知った秋臣が、そっと足音を殺して、布団へ近づいた。
薄い掛け布団が膨らんでいる。間継が頭まで被っている。完全に朝を拒絶した人間の寝方だった。
「間継さーん、朝ですよー、いい朝ですよー、素晴らしい朝が来たー」
布団越しに言ってみるが……一ミリも反応しない。
「間継さーん! 起きて起きて! 起きないと、朝お化けが出て間継さんを食べにきますよー!」
秋臣も昔は朝が弱かった。母にこう言われていつも起こされていた。それをそのまま言ってみるが……
まぁ、効果ないよね。うん。だって間継さんお化け怖くないもんね。むしろお化けの方が間継さん怖がるもんね。
この人が怖がるものってなんだ。
「間継さん! お仕事あるんじゃないんですか!」
考えるのが面倒だった秋臣が、掛け布団を剥がす――はずだった。
ばさーっというイメージをしていたのに、がっちりホールドされた掛け布団に、逆に秋臣が引っ張られる。
「ん……」
間継が一ミリ動いて、眉を寄せた。この調子だ!
「ほらー律くん。起きなよー、秋臣ちゃんが退屈してるんだよ~」
鈴音バージョンならどうだ。
「んー……」
間継が寝返りを打った。布団から剝がされた顔がこちらに向く。
長めの髪が頬にかかり、剣の取れた顔が見えた。
「寝顔は天使って言葉、この人のためにある気がしてきた」
何故か無性に腹が立ってきて、大声を上げることにした。
「間継さん! 早く起きろやごらぁぁぁ! 友達の俺がこうやって起こしにきてやってるんでしょうが! 有難く起床せよ!」
その時、パチリと間継の目が開いた。お? 起きた? 友達効果?
と思ったのも束の間、ぼーっとこちらを見た彼は「……納豆」とだけぼやいて、寝返りを打つと寝息を立て始めた。
秋臣は沈黙する。
納豆? 俺が納豆に見えたの?
あんなに大声出したのに、間継どころかヒイリも起きない。この家どうなってんだ。
秋臣は勢いよく立ち上がった。




