↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界守と九官鳥  作者: 俐月
間継屋敷編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
42/47

ハグ二つ、モモリ恋ひし

 


「で、だな。とりあえず、わかったことがある」


「難しい話はいいから、ジェンガしましょうよ。あ、トランプにします?

 でもトランプって二人でしても楽しくないから。あ、ウノもありますよ! あと人生ゲームも。

 でもやっぱり、二人でしても盛り上がらないかなぁ」



 部屋の棚からあらゆるものを引っ張り出してきた秋臣が、ひとつずつ前に並べていた。



「お前は修学旅行にきた小学生か。ってか、なんで俺がお前の家に泊ることになってるんだよ」


「母さんに押し切られたのは間継さんじゃないですかー。俺のせいじゃありませんよ」



 夕食後、風呂を沸かしたんだから風呂を入っていけと言われ、気が付けばパジャマが用意され、泊ることになっていた。


 この家にやってきて、秋臣母に主導権を握られっぱなしの間継は、ため息を吐きだした。



「言っておくが、俺はトランプ以外したことがない」


「出た! ぼっち発言!」


「殺すぞ」


「いやー、なんか最初はすごい怖くて遠い人なんだと思ってたけど、間継さんもこっちの人間だったんですねー。いや、俺は友達が少ないだけでぼっちじゃないけど!」



 じゃあトランプで、とトランプを箱から出し始めた秋臣。


 こっちの人間ってどっちの人間だよ。全然違うだろ。



 記憶の中の父を思い出していた。


 物心ついたころからすでに佐京は家にほとんど帰らず、たまに遊んでくれることもあったが、ほとんどモモリと一緒にいた。

 妖怪が見えるせいで、おかしな子扱いされ、妖怪と話す方が楽しかった。


 ようやく自分が普通とは違う世界を見ていると知ったのが、小学三年の頃だった。

 その頃はもう、扉を開けるようになっていた。



 普通は扉を開いて登校しないし、妖怪も見えない。境裂けも見えなければ、重世の存在なんて知らない。

 そこから間継は、さして仲いいとは言えなかった友達たちとも、距離を置くようになった。



 決定的な事件と言えば、学校で不審な出来事が発生した時だった。原因を突き止め浄化する時に、女子生徒を巻き込んでしまったのだ。

 稀に子供には、残留思念が見える子がいる。強烈なものなら特に見えやすい。


 四苦八苦しながら浄化した時、彼女に「化け物!」と叫ばれた。


 中学に上がり、正式に境界守を継いでからは……



「間継さん。神経衰弱とかします?」


「あ? ああ、なんでもいい」



 秋臣はわかってないんだろうな。妖狐の血を継ぐことで、境界守からも俺が疎まれてることを。


 人間の世界に俺の居場所はない。だからと言って、重世にあるわけでもない。

 どちらの血も流れているのに、どちらにも属せない。まだ近しいはずの境界守という集団にも、馴染めないし、嫌われる。



 ――全然そっちの人間じゃねぇだろ。



 いつしかトランプが裏返しで、綺麗に並べられていた。



「間継さんって遊ぶの苦手ですよね? 難しいこと考えるのはあとにして、遊びましょうよ。せっかくなんだし、今を楽しまないと損ですよ」


「お前はもうちょい先のこととか考えて、頭回した方がいいだろ」



 秋臣の指摘が図星だった間継はすぐに反駁して、先にトランプを開いた。








 朝に当然のように秋臣母が部屋まで起こしに来た。そして当然のように洗濯された服を渡され、当然のように朝ごはんが出てきた。


 母親ってここまでするのか。もう成人だぞ、子供。


 昨日と同じように流されに流された間継は、朝食までご馳走になって、ようやく帰る準備が出来た。



 よく眠れたせいか、頭はすっきりしている。とりあえず家に戻ったら、昨日後回しにした仕事を……

 いや、まて。色々大事なことを忘れてる気が……



「もう帰っちゃうの? 夏休みなんでしょ? 一週間くらいいたらいいのに」



 玄関に立ってからは、秋臣母がそんなことを言って来た。



「俺はいいとしても、間継さんは忙しい人なんだよ」


「あらそうねぇ。三回生なら、就職活動のことも考える時期なんでしたっけ?」



 さすがに止めてくれたらしい秋臣に、秋臣母が頬に手をあてた。



「はい。お世話になりました。食事もご馳走様でした。美味しかったです」



 間継が丁寧に頭を下げた。



「まぁまぁご丁寧に」


「俺も行くけど、今度は早めに帰ってくるから!」



 秋臣が付け足した時、秋臣母が来た時と同じように彼に両腕を広げた。

 何故か秋臣がこちらを気にしたあと、そっと母を抱きしめる。



「あらっ、珍しい」


「たまには、ね? いつもありがとう。母さん」



 恥ずかしそうにすぐに離れた秋臣が、頬を掻いて、先に出て行った。

 間継も会釈をして、踵を返そうとした時、秋臣母がこちらにまで両腕を広げてきた。



「いや、あの……」


「いいのいいの、ほらいらっしゃい」



 思わず足を止めると、ゆっくり詰め寄ってきた秋臣母が、遠慮げに抱きしめてきた。



「秋がすごく楽しそうで嬉しかったわ。りつくんのおかげね。いつでもいらっしゃい」



 硬直してしまった間に、離れていった彼女が破顔する。

 間継は離れていった体温を、今になって感じ取った。何故かモモリが浮かんだ。



「またお邪魔させていただきます」



 もう一度しっかり礼をする。後ろから秋臣の声がした。



「母さんと何か話してたんですか?」


「お前が嬉しそうでよかっただって」


「俺、家にまであんまり友達連れてきませんからね~」


「の割には、昨日はしゃいでただろ」



 神経衰弱で一度も勝ちを譲らせず、ムキになっていた彼を思い出して、間継は小さく笑う。



「あ! 色々持って来たんですよ! 屋敷でみんなと遊びましょう!」



 笑顔で言った彼の鞄がやけに膨らんでいると思ったら、家にあった遊び道具を詰めていたらしい。


 ふと屋敷の妖怪たちが遊んでいる姿が目に浮かんだ。

 最後に浮かんだのは、やはりモモリだった。


 間継は慣れない感覚を覚えた。



 なんだか、無性にモモリの顔が見たい。

 早く、帰ろう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。