↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界守と九官鳥  作者: 俐月
間継屋敷編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/47

止まりし境、封じられし衣

 


 秋臣の案内で蔵に行くと、たしかにそこには境裂けがあった。

 蔵の壁に近い位置の頑丈そうな箱の上だ。


 なんだ、これは?

 間継は奇妙な裂け目を見て、顎に手をあてる。



「お前、今日これ見つけたんだよな?」


「そうですよ。ついさっき」



 境裂けを結ぶ時のあの裂け目と縦の幅は、大体同じだ。問題は横だ。これは裂けようとしてるのではなく……



「塞がりかけてる? それともここで止まってんのか?」


「ちょ、間継さん!? 触って大丈夫なんですか?」



 触れようとすると、冬吾が止めてきた。


 本来、境裂けに境界守が触れるのは厳禁だった。さらに悪化させる原因となるからだ。

 だが、指先が触れても微動だにしない。完全に停止している。


 狭いのもあるが、あちらの景色の一端すら見えない。



「どうなってんだ。お前、妖怪とか見なかったよな?」


「見てませんよ。てか今間継さんに見えないんだったら、いないでしょ」



 辺りを見渡した秋臣に、間継に腕を組んで嘆息を吐き出した。


 このおかしな原因があるとすれば……

 境裂けの下の箱しかない。中からおかしな気配はしてこない。


 頑丈そうだが、木箱に変わりはないし、鍵もかかってない。すぐに開くだろう。



「開けるぞ」



 一言だけ告げて、手を伸ばす――が。

 上に蓋が乗っているだけの木箱なのに、どれだけ引っ張っても蓋はピクリともしなかった。



「あ、間継さん? 俺、やりましょうか?」



 数十秒悪戦苦闘した末、秋臣がおずおずと進み出てきた。

 あらゆるものがおかしい。



「おい、気をつけ――」



 最後まで言いかけた時、秋臣が蓋をいとも簡単に開けてしまった。

 二人の目が合う。



「えーと?」



 間継は、蓋を持った秋臣をじとりと睨んだ。







 中にあったのは、着物だった。

 ただの着物じゃない。



「重世のもんがなんでこんなところにあんだよ」



 男女一着ずつ、今日入れたばかりなのではと見まごうほどに、綺麗な状態で保存されていた。



「おい、お前。持って帰ってきたんじゃねぇだろうな?」


「そんなわけあるわけないでしょ! 俺、重世のお金もってませんからね!? しかも、こんな高そうな服」


「じゃあ、これは……」



 重世と交易があったのは約千年前。あの時代、つまり冬吾秋継がこれを買ったのかもしれない。そこまではいい。問題はこの保存状態だった。

 まるで……



「封印か」



 間継家の蔵を改めて漁り、冬吾秋継についてわかったことがある。

 境界守にもそれぞれ得意とする分野があった。浄化、結び、結界。封印は結界の更に上の技術で、冬吾家はその力に秀でた家だったのだ。



「封印? ああ、だって妖狐も封印してましたもんね」



 遅れて合点がいったらしい彼が、手を打って、箱の中身を見た。



「さっき境裂け見て、こわーい顔してましたけど。この封印となんか関係あるんですか?」


「わからん。とりあえず境裂けが裂けたまま止まってんだよ」


「え、何それ! 時間停止みたいな!」


「はしゃいでんじゃねぇよ。って、そうか。単純な話か」


「え?」



 間継は今一度、境裂けを注視する。

 もし、封印の余波で裂けようとしていた境ごと封印されていたのなら。

 案の定、境裂けの先に、ちらりと景色が見えてきた。



「とりあえず境を結ぶ。離れとけ」





 ◇◇◇





 間継はダイニングテーブルに座り、前でニコニコと笑う冬吾母に、ぎこちない笑みを返した。

 境裂けを結び、すぐに帰ろうとしたところを呼び止められたのだった。


 前には、豪華なご馳走が並んでいる。

 この短時間でどんな早業だよ……



「うわー、俺の好きなものばっかりじゃん。さすが母さん」


「家にあったものでしたから、色合いは悪くてごめんなさいねぇ」



 秋臣の言葉をスルーして、こちらへ言って来た秋臣母が「ささ」と手を差し伸べてくる。



「いただきます」



 間継は手を合わせて、そっと割りばしを取った。

 普段モモリの手配で、カマヒコの食事ばかりだったから、大皿にどんっと置かれたものは初めてといってよかった。



「あ、これ。母さんの唐揚げ美味しいんですよ。あとこれとこれとこれも!」



 秋臣が箸であれこれ指していく。



「おい、行儀が……」



 言いかけて、口を閉じる。母親の前で言うことじゃない。



「もう、秋。落ち着いて食べなさいよ。恥ずかしいでしょ」


「だって久しぶりの母さんのご飯で嬉しいんだもん」


「そういうところは子供のころから変わってないんだから」



 仲睦まじい母子のやりとりを間継は、ぼんやり眺めていた。



「そういえば、お父上は」



 と言った時、二人がハッとこちらを見てきて、同時に笑った。



「お父上だって。母さん」


「もう、笑っちゃ失礼でしょ。ごめんなさい。お父さんは今出張なの。出張が多いお仕事でね」


「父さんのあの顔でお父上はないでしょ」



 今度、俺も父さんに父上って呼んでみる。

 そんなことを言い出した秋臣がさらに笑う。



 知らない世界だった。


 俺はなんで人様の家族のことなんて知ろうとして……

 少し前に、よその家のことがそんな気になるか? と言った記憶があった。


 それになんで俺は、他人と食卓を囲んで……


 途端、ぽつんと自分が異物のように思えた。



 冬吾は、愛されて大きくなった普通の家庭の普通の大学生なのだ。

 いや、そんなことこいつを最初に見た時からわかっていた。だから、巻き込んだことを申し訳なく思ったし、事が済めばすぐに遠ざけようと考えていた。



「間継さん? え、ショック受けました? 悪い意味じゃないんですよ!?

 間継さんの普段の言葉選びがそれだって知ってるし! 父さんに似合わないから笑っただけで!」


「いや、気を悪くしたわけじゃなくてだな」



 どう言ったものかわからない。言葉を迷わせた時、秋臣母が柔らかく微笑んできた、



「さぁさぁ、お話は後にして、ゆっくり食べなさい。お母さんはお風呂掃除してくるから。りつくんも沢山食べて頂戴ね」



 それだけ言って、秋臣母が席を立った。


 また気を遣わせてしまったな。それを感じ取った間継は言われた通り、箸を進めることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。