手土産の悩み、母の歓迎
「ということがありまして……」
「盆にも帰省しなかったくせにいきなりなんだと思ったら。境裂けはわかったけど、家系図は?」
「あ、忘れた」
母に友達に会ってくると言い訳して、すぐに戻った秋臣が間継に報告した。
どうして蔵に境裂けがあったのかわからない。たしかに人が寄り付かない場所ではあるけど。
間継が何か考えるようにしたあと、ため息と共に肩を落とした。
「……手土産何がいい?」
「え? いいですよ。今日も俺がお菓子持っていってるし」
「むしろ、顔合わせない方法とか……」
突然、ぎこちない挙動になった彼に、秋臣が心の中でほくそ笑む。
間継さん、こういうこと慣れてないのか。そっか、友達いたことないって……
これは、面白いものが見れそうだ。
「手土産とかいいんでいいんで。とりあえず行きましょうよ。境裂けが大きくなったら困るじゃないですか。あ、今日この後仕事大丈夫ですか?」
夕方からの仕事を明日以降に回し、秋臣家の境裂けを優先してくれた間継は、普段とは違う洋服に着替えてきていた。
「あら、あら、あら~、いらっしゃい」
「ただいま。こっち俺の友達の」
「初めまして。間継律と申します」
本日二度目。玄関ですぐさまハグをしてこようとした母を交わしながら、秋臣が間継を示した。
「まぁまぁまぁ、随分綺麗なお顔の礼儀正しい子ね。見かけないけど大学のお友達? なんで、さっき一緒に来なかったの、もう」
「色々事情があるんだよ。とりあえず――」
「お茶にしましょう」
本日二度目、母がお茶を誘って来た。
「いや、俺らやることがあって」
「いいじゃないの。大学でどうしてるのか気になってたのよ~。あんたったら、帰ってきたらすぐ幽霊の話なんて始めるんだから」
「蔵の話ね。間継さんどうしま――」
振り向くと、間継が硬直していた。
「え、あ、そうですね、はい」
片言になりかけている。秋臣は笑いを堪えながら、リビングへと進むことにした。
間継は借りてきた猫のように大人しく後についてきて、お茶が出されても、正座したまま硬直していた。
「そう、二つも上の先輩なのね。広い大学でどうして仲良くなったの? 気になるわ~」
頬に手をあてた母は、美男子前にテンションが上がっていた。
あまりの緊張のしように一瞬は、間継さんが可哀想だと思ったけど、気のせいだ。ふん、イケメンの無駄遣いめ。
「私が少し、冬吾さんに用があって、呼び止めたのがキッカケで……」
どうにか絞り出したような返答だった。用。まぁ、うん。間違ってはない。
「あらまぁ、こう見えて秋臣が家まで連れてくる友達って珍しいのよ~。なのに、まだ苗字呼びなのね。秋も間継さんって呼んでたし、最近の若者はそんなものなのかしら」
母さん。間継さんは友達以前に俺の雇い主なんだ。名前で呼べるわけがない。
喉まで這い上がってきた言葉を秋臣は、ぐっと飲み込む。
「学生時代の友達で大人になってまで残る人は少ないのよ。ほら、今のうちにもっと仲良くなるしかないわ。こんな綺麗な子が再々遊びにきてくれたら、お母さんも嬉しいし」
「心の声駄々洩れなんだけど……」
親が自分の友達を見た目で判断していることに、げんなりした秋臣がそっと隣を見る。
間継は何故か目を瞬かせていた。
ん? なんだ、この反応。
その間にも母は「りつくんは羊羹好きかしら? とっておきがあるのよ」と席を立った。
「なんか、母がすみません。思ったよりテンション上がってるみたいんで」
あんたの顔が無駄に綺麗なせいだけどな。
「いや、こっちこそ。なんか気を遣わせてるみたいで悪いな」
「え?」
「あ? あれ、どう見ても気遣ってるだろ」
「え?」
秋臣が母の背を見た。
「予想外のことが起きるとテンションおかしくなったり、感情表現が表に出やすいのは遺伝みたいだな」
隣で間継が苦笑する。
この人、緊張してたくせにそんなところ見てたのか。
でもそっか。俺って母さんとそんなところ似てたんだ。
なんか、意外だったかも。
秋臣は毎回ハグをしようとしてくる母を思い出す。ずっと冗談じみた嫌がらせのように感じてたけど……
感情表現。秋臣は間継と母を順に見た。




