蔵の幽霊、七つの記憶
「あのさ、母さん」
すぐに一緒にお茶に誘われ、買ってきたお菓子が出てきた。
「うちって、蔵あるじゃん?」
「え? ああ、あの蔵ねぇ」
母が頬に手をあて、視線を逸らす。田舎の昔ながらの家だ。庭もあるし蔵もあった。
俺も入ったことはあるらしいんだけど……
「ちょっと中見てみてもいい?」
記憶にある限り、開かずの蔵という扱いを受けていた。
「どうしていきなり蔵なんて気にするの?」
「ほら、えーと。大学とかでちょっと昔の感じの授業があって、うちってどうなのかなぁって」
そんな授業はない。口から出まかせだった。
「変な子ね。全然いいんだけれど、秋。あんたが幽霊が怖いって言い出したの、あの蔵が原因なの覚えてないのかしら」
「え」
幽……霊……?
「そんなことあったっけ……?」
「まだ七つくらいだったからねぇ。お母さんが蔵の掃除してたら秋もきて、一緒にしてくれたのよ。あの頃は毎日ハグさせてくれたのに、今じゃあ嫌がるんだから」
「いや、ハグはいいからその先教えてよ」
「幽霊といってもお昼だったのよ」
母が話してくれた。
七つほどの頃まで蔵は毎年掃除をしていたらしい。昼頃、早めの昼寝から起きた秋臣が、母を探して蔵までやってきた。
そこから一緒に掃除を手伝ってくれたのはよかったが、途中、いきなりどこかを見て固まったと思ったら、激しい悲鳴を上げて蔵の外へ逃げていったという。
「幽霊が出た! って。
それまでも幽霊とかそういうのは怖がってはいたけど、あそこまで怖がったのは初めてで、お母さんも気味が悪くなっちゃってね。掃除と言ってももう外に出すようなものはないし。閉めっぱなしにすることにしたのよ」
記憶を探ってみる。まったく思い出せなかった。
「幽霊なんて……いないよ! 俺もまだまだガキだったんだなぁ」
背に嫌な汗をかきながら、秋臣が首を振る。
幽霊はいない。いるのは残留思念だ。そう、そうに違いない。
「ちょっと俺、やっぱり気になるから見てくる」
今は昼だ。大丈夫。秋臣は意を決して立ち上がった。
ドーンという風に蔵があった。え、こんな大きかったっけ……
秋臣は上を仰いで呆然とする。古びた鍵を差し込んで錠を開けた。
立てつけが悪い上に、予想以上に重い扉を少し開く。
「あ、これ。幽霊出るわ、うん」
昼など関係なく、薄暗い上に埃がやばい。いくつかの窓から陽は差し込んでいるが、それが逆に不気味だった。
「幽霊さーん! 俺、敵じゃないんで、頼むので、息潜めて出てこないでください!
あ、お昼寝中ですか? 大丈夫、邪魔しないので、起きないでください」
よし。幽霊には挨拶した。大丈夫。
秋臣は鼻歌を歌いながら中にはいった。明るい人には寄ってこないっていうしね!
蔵の中には三輪車や一輪車、古い箪笥に食器、着物、五月人形、奥には古い箪笥があり、その上に木箱が二つ積まれている。
箪笥の脇には、いつから置かれているのか分からない火鉢。
天井近くには、使われなくなった提灯がいくつも吊るされていた。
更に奥に進むと――段ボールがあった。開くとかなり昔のアルバムなどが眠っていた。
「おじいちゃん? いや、おじいちゃんこんな顔じゃないし、誰だよ……」
まさかの先祖との遭遇に鼻歌を忘れた時、どこかからコツンと音がした。
背筋に怖気が走ってすぐ、なんだろ~風かなぁ~と鼻歌交じりでごちってみる。
「もう~こんな色々放置しちゃって~冬吾家は~……」
音のした方は、先ほど通過してきた箪笥あたりだった。数秒動きを止めた秋臣が、そっとそちらを覗き込む。
「幽霊さん、もう起きちゃっ――」
物々しい箱があった。その上の空間に、長細い裂け目が出来ていた。




