↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界守と九官鳥  作者: 俐月
出会い編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/47

礼儀正しき、不法侵入者

 



 最悪だ。



 バイトの面接に大遅刻した秋臣は、帰り道で、店長の表情を思い出していた。


 コンビニ弁当の入った袋をぶら下げ、一人暮らしをしてまだ日が浅いマンションに向かう。

 大学と提携しているマンションだった。



「全部あのイケメンの無駄遣い野郎のせいだ」



 ぶつぶつ文句を言いながら、玄関の施錠の番号を押す。

 機械的な窓の音に、更に苛立ちを覚えた秋臣は、エレベーターのボタンを無駄に強く押して、三階へ着いた。


 通り過ぎた一室に、まだ明かりはない。

 湊はまだ戻っていないらしい。愚痴でも聞いてもらおうと思ったのに。


 はぁ、と深い溜息をつき、差し込んだ鍵を回した。



「ただいま~」



 いつもの癖で伸ばした照明のスイッチに、違和感がした。そこで、部屋に電気がついていたことに気が付いた。


 あれ、消し忘れて出っちゃった? うわー、電気代、と眉を寄せたのも束の間、

「おかえりなさい」と声がはっきり聞こえた。



 は? 誰? こわっ、え?



 反射的に後ずさる。玄関扉に背と、手に下げた袋がぶつかった。


 おそるおそる首を伸ばして、奥を見る。1DKだ。見えたのは、黒っぽい布だった。

 口端が、ぴくぴくと引きつった。


 幽霊? いや、こんな明るい場所に、幽霊はさすがに出ないだろ。さっきの声は、どう考えても人間。

 ん? さっきの声……


 ハッと気が付いた秋臣は、靴を脱ぎ捨てて、六畳の部屋へ向かう。



「なんであんたが俺の家にいるんだよ!」



 そこには、面接大失敗の元凶となった男が、悠々と座っていた。


 その服装を見た瞬間、秋臣は首を引く。


 和装だった。濃藍の羽織の下には、細かな地紋の入った墨灰色の長着を合わせていた。

 羽織の左肩あたりには、太い線で描かれた、彼岸花の紋が入っている。


 こちらを見上げてきた彼が、おもむろに立ち上がった。



「先ほどの無礼な振る舞い、ご容赦ください」



 脚あたりに手を揃えて、綺麗に頭を下げてきた彼の髪は、外で見るよりも銀色に光る。



「ヤ、ヤ……」


「や?」



 姿勢をなおした男が、首を傾げる。赤みを帯びた琥珀色の瞳に、身が竦む。

 あちらの道の人に違いない。



「あ、あのワ、ワタシに何のご用か存じ上げませんが……おそらくヒトチガイかと……

 先ほども申し上げたと思うんですが、ワタシはひと様の恨みを買うようなことは決して……」



 言い終える前に、怪訝そうに目を細めた男が、ふと腰を屈めた。

 何事か、と体を強張らせると、正座しなおしただけだった。



「とりあえず落ち着いて座ったらいかがですか」


「あ、はい」



 反射的に従って、秋臣は、一瞬冷静に戻った。


 いや、ここ俺の家なんだけど。

 思わず正座してしまった自分に、向かい合った男が、また小さく頭を垂れた。



「改めて、夕刻の無礼をお詫び申し上げます」


「いえ……はい」



 いや、いきなりひと様の家に上がっていることも無礼ですよね。

 心の中で毒づく余裕は出来たが、さすがに口には出せない。



「確認したいことがと申し上げましたが、ひとつ、よろしいでしょうか?」


「俺に答えられることなら……」



 男は一度呼吸を置いて、スッと目を細めた。



「昨日(さくじつ)の夜半。どこかへお出かけになられませんでしたか?」


「え?」



 突然の事情聴取のような問いに、意味もなく心臓が跳ねる。

 いや、疑われるような後ろ暗いことは、一切ない。



「昨日は普通に大学終わって、ご飯作って、そのまま家にいましたけど。

 湊――数室隣の友人と少し話しはしたけど、マンションからは出てませんし」



 思わず、早口になった。



「近辺で何かあったんですか? その……騒ぎとか……」



 やばい人たち同士の抗争とか。



「何か勘違いされているようですが……ああ、名乗りが遅くなって申し訳ありません。

 間継律(あきつぎりち)と申します」


「あ、冬吾秋臣(とうごあきおみ)です」



 今更の自己紹介に、やはり反射的に秋臣は名乗り返した。男が一瞬、眉を潜める。



「冬吾?」


「え、はい」



 男は重い息を吐きだしてから、「鈴音」とどこかへ向けて、口にした。



「はいよ~。あ、また会ったね。いい匂いのする人間」



 空間から溶け出すように現れたのは、あの少女だった。

 同じ浴衣姿の後ろから出てるのは――



「尻尾!?」



 ふわふわの金色の尻尾だった。



「あ? やっぱり見えるのか」



 口調が変わりすぎて一瞬、誰かわからなかったが、前の男しかいない。



「鈴音。俺は暗くて見えなかったが、合ってるか?」


「うんっ、そうだね。この子の匂いは覚えてないけど、あの方の匂いがうっすら」



 二人の周りをくるくる回った少女は、秋臣の背に抱き着いてきた。



「あ、ここ。ここから匂いする」



 うなじあたりをくんくん嗅がれた末、Tシャツの後ろ襟を乱暴に引っ張られた。

 ぐえっと情けない声と共に、後ろに倒れそうになった時、手を掴まれた。



「ちょっと失礼」



 次は手を強く引っ張られて、前のめりになった秋臣は、自然と男の肩に顔が埋まった。



「冬吾、冬吾か」



 ぐいっと肩を掴まれて、引き離される。

 な、なんなの……!?



「あの、いい加減に……!」


「昨夜、この鈴音みたいな何かを見ませんでしたか」



 圧のかかった眼差しを向けられる。見たに違いない、そんな口調だった。


 少女のような何か……

 男の赤みがかった瞳を見て、秋臣の脳裏に、とある情景が蘇った。



「夢。そういえば、夢は……見た気がしますけど……」


「どこの夢?」


「なんかこう、長い階段があって、高い木があって、すごく暗くて、多分深夜で……」



 何度目か、わらないため息が返ってきた。



「どうやって誘われたのか知らねぇが……なんで俺じゃなくて、こいつの前に……」



 途端、胡坐を掻いてぶつぶつ言いだした男と、未だに部屋を駆けまわる少女。



 本当に意味がわからない。なんなんだこの人たちは……


 あちらの道の人じゃないなら、やばいカルト系か?

 どうにしろ、話が通じる気がしない。



 いい加減うんざりしてきた秋臣は、混乱で忘れていた怒りを思い出した。

 未だ何か考え続けている男を見て、立ち上がる。



「あのですね! いい加減にしてください! 何かわかりませんけど、不法侵入不法滞在ですよ!

 なんでもいいから、さっさと出て行ってください!」



 玄関を指差して、声を張り上げた。



「こっちは、試験の勉強しないとだし、あんたのせいでバイトの面接、大遅刻しましたからね!

 どうせ落ちるし、新しいバイトの面接先探しさないと。とりあえず、忙しいん――」


「お前、うちで働け」


「そうです、バイトしないと――」



 え?



「バイト探してるんだろう?なら、うちで働けばいい」


「――はい?」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。