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境界守と九官鳥  作者: 俐月
出会い編

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3/48

中庭にて、男とまみえる

 



「おーい、秋。秋臣」



 肩を揺さぶられて、秋臣はようやく目を覚ました。



「お前、授業中寝てただろ。クルリン髭が、やべぇ顔してたぞ」


「え、え、俺、寝てた!? まじで!?」


「どうせエロいもんでも見て、夜更かししたんだろ~、秋ちゃんってば、いやらしい~」


「湊と一緒にすんなよ。俺は、早寝早起きの天才なんだよ!」



 肩を組んできた友人が、ニヤニヤと笑いかけてきた。

 大学に入って仲良くなったこの男、水野湊のウザ絡みはいつものことだった……が。


 秋臣は首を捻る。昨日も早く寝たのに、今日はやたら、体が怠い。

 そういえば、おかしな夢を見たような……なんだっけ。



 最近、勉強を頑張りすぎたのかもしれない。

 未だ隣で、関係のない下世話な話題を続けている友人を放って、秋臣はスマホを見た。



「やば、バイトの面接!」


「あ、そうそう。秋がバイトだって言ってたから――」


「起こしてくれてありがと! 湊! じゃ、俺急ぐから!」



 教材とボイスレコーダーなどを凄まじい勢いで鞄に仕舞った秋臣は、即座に席を立って、校門へ駆けた。



 入学してから三か月。

 月末から夏休みだし、とりあえずバイトの確保だけでも、と考えていた。


 大学から一番近いスポーツ用品店。そこで働きたかった。面接に遅刻なんてすれば、印象は最悪だ。


 時間を気にした秋臣は一層、陸上で鍛えた足を早める。

 中庭の角を曲がろうとした時、どこからともなく現れた手に腕を掴まれ、強引に引っ張られた。



「っは……!?」



 振りほどく暇もなく、何者によって、後ろから口を防がれる。


 どうにか、首だけ振り返り返らせたところには――

 色素の薄い黒色明るい色が混じった髪と、琥珀色の瞳が見えた。



「騒ぐな」



 低い声色での命令口調。背筋に、嫌なものが走る。



「んんん!」



 助けて! 校内になんかやばい人がいる!



「騒ぐなって」



 力いっぱい振りほどいた秋臣は、ようやく男の全貌を見た。



「誰ですか。いきなりなんですか。ここの学生ですか? 不審者ですか? いますぐ通報しますよ!」



 中庭にこんな狭い道があったなんて。

 いや、なに!? 怖すぎる。俺、なんかした!?


 あと後ずさりながら言葉を重ねた途端、男はバツが悪そうな顔をしながら、腕を組んだ。


 後ろで束ねた長い髪と瞳の色以外に、整った顔立ちはどこか人離れしている。



「いきなりで申し訳なかった。危害を加えるつもりだったわけじゃない。ひとつ、そちらに確認したいことがあって、つい……」


「つい?」


「姿が見えたから、つい引っ張ってしまった」



 一瞬、沈黙が浮かんだ。



「いやいやいや、どう考えても言うこと聞かないと今すぐ殺すぞ、みたいな感じでしたよね!?」


「普段の癖で」



 どんな癖なんだ……人を脅す趣味でもあるのか? このおかしな男は。


 一旦、呼吸を置いた秋臣は、冷静を努め、尋ねた。



「で、その確認したいってことは? 俺、誰かに恨まれるようなことしてませんよ?」



 ……してないはず。

 そもそも、この男が誰なのかも知らない。名前から聞くべきだった。



 どう言うべきか、と言った風に、男は口元に手をあてた。


 その間にも秋臣が、そっと一歩を引く。

 足音に重なるように、ちりん、と涼しげな音が通り過ぎた。



「律。遅いよ」


「鈴音」



 いつしか男の後ろに、浴衣姿の少女がいた。

 金髪の柔らかい髪が、肩にかかっている。愛らしい琥珀色の瞳は、前の男と似ていた。



「許可なくこちらに来るなと、何度言いつければ」


「不可抗力というものだよ、ほら、時間」



 彼女が、懐から取り出した丸い時計のようなものを見た男は、ため息だけを返していた。



「って、あれ? どちら様?」



 少女が男の隣をすり抜け、軽い足取りで、こちらへ来ると、物珍しそうに見上げてきた。


 くんっと、その鼻が動く。

 可愛らしく首を傾げた彼女は、「ん?」と言いながら、更に秋臣の全身を嗅いできた。



「ちょ、ちょ、なに。というかこんな女の子が、なんで校内に」



 女の子は可愛い。

 でも状況がマジでわからないし、何よりこの男は、やばい匂いしかしない。


 確認したいことが何なのかわからないけど、ここは逃げるが勝ちだ!


 そう悟った秋臣が足を蹴ろうとした瞬間、少女が脚にしがみついてきた。



「律(りち)。この子、いい匂いがする。知ってる匂い」


「やっぱりそうだったか。昨日のあれはこいつか」



 脚から離れず、くんくんと嗅ぎ出した少女、こちらを見て深く納得したような男。


 意味不明のやりとりで思考を停止した秋臣の頭の中に、ひとつだけ最重要案件が浮かび上がった。



「あああ! バイトの面接!」





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