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境界守と九官鳥  作者: 俐月
序章

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還ふ道、南西にあり

 



 この仕事を手伝い初めて、半月。

 まだ半月? もう数か月は経っている気がしていた。


 秋臣は、白い蛇と会話している間継を眺め、思った。

 ふいに、蛇がこちらへと佇まいを直す。



「ああ、そちらの若い方もありがとうねぇ。助けてくれて」


「いえ。お力になれてよかったです」



 ちろりと赤い舌を出した蛇に、秋臣が答える。


 ――蛇の妖怪。妖怪、か。


 存在すら知らなかった彼らの存在は、もう身近なものとなっていた。



 蛇の前で片膝をついた間継が、丁寧な物言いで告げる。



「では、カガチノヲ様。あちらにお戻りになるということで、よろしいでしょうか?

 私もそうすることを強くお勧めします。ここにいては、また同じようなことになりかねません」


「ああ、ああ。そうすることにするよ。元はといえば、こちらに迷い込んでしまっただけだからねえ」



 間継は持ってきていた巻物を開き、カガチノヲと呼ばれた蛇の妖怪に見せた。



「ここから南西の方角に、小さな滝があります。

 その裏に洞窟があるのですが、奥に進めば、扉が用意されています。妖力に反応して道を開きますので、ご自身でお開けください」



 南西、と言った時に、何故か間継がこちらを見てきた。

 秋臣は方向を見失ったことへの当てつけを察して、思わず彼をじとりと睨む。



「扉は必ず、お閉めくださるようお願い申し上げます。開いたままだと、人間があちらへ迷い込むという惨事に繋がりかねません」


「あい、わかった。肝に銘じておくことにするよ」



 白い蛇が一度地図をじっくり覗き込み、大きく頷いた。



 背を向けたその妖怪が見えなくなるまで、間継は小さく頭を垂れたまま、動かなかった。


 林に生ぬるい風が吹き抜ける。ふぅと、長い息が聞こえてきた。



「お疲れ」



 羽織の汚れを叩いた後、彼がこちらを見てきた。

 差し込んできた陽光に、その薄い黒髪が銀色に光る。


 懐から、彼が取り出した小さなメモ用紙を見て、ようやくひと仕事が終わった実感を得た秋臣は、途端、大きな息を吐き出した。



「あの蛇の妖怪、こっちの言葉すごく上手でしたね」


「カガチノヲ様、な。随分長い間、こっちに迷い込んでたんだろうな」



 すぐに訂正してきた彼に、秋臣は口の中で呟いてみる。三秒後には忘れていた。



「とりあえず帰りましょう。走りすぎて、くたくたなんですけど。

 というか、俺が追い詰める意味ありました!? 毎回毎回俺、襲われかけてません!?」



 帰路へと先に踵を返した秋臣が、くわっと目を見開いて、振り返る。



「お前が追い詰めてくれるようになってから、断然浄化が楽になった」


「俺の命と引き換えに、楽さを手に入れたのか」



 秋臣は、白い蛇に憑いた黒い靄を思い出して、今更ながらに身震いを覚えた。


 あれは妖怪だけではなく、人間にも憑いて、最悪自我を乗っ取る。

 最初こそ幽霊だと思ったが、間継に残留思念だと何度も訂正されて、ようやく覚えたのだった。



「なんか言ったか?」


「俺がもし憑りつかれたら、浄化してくださいよね」


「あ? 悪いな。俺は妖専門だから、他を当たってくれ」


「ちょ! 酷い! 見捨てる気か! この薄情者!」



 俺だって好きで、この仕事手伝ってるわけじゃないんだぞ!


 腹の底から訴えた秋臣の隣を、さらりとすり抜けていった間継が振り返る。



「早くこないと置いていくぞ。あと何回も言うけど、静かに話せ、静かに」



 静かに、を強調した彼の声色に、秋臣は、この陰陽師の末裔だと名乗る男との出会いを思い出した。



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