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境界守と九官鳥  作者: 俐月
序章

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1/49

数百年の夢、蛇を追ふ

 



 高くまで伸びる、巨大な大木。空を覆う葉たちが忙しなく揺れ、葉ずれの音が闇に溶け込んでいく。


 ここは、どこ……?


 深夜の神社。長い階段の先には、鳥居がある。

 ちりん。鈴の音が、どこかで鳴った。


 体は、境内へ向かっていく。足が一段一段、歩を刻む。


 階段が上がるたび、鈴の音が増えていき――赤い鳥居を仰いだ瞬間、四方八方より鈴の音が、激しく鳴り響いた。


 裂くような急激な風が、前から吹き抜けた。

 何かがやってきた。そう思ったのも束の間、前にいたのは……



「さて、数百年ぶりであったな」



 巨大な狐。


 真っ赤な血を連想させる、大きな瞳が視界を覆う。鋭い牙が光もない中で、怪しく光る。



「冬吾秋継(とうごのあきつぐ)よ、あの日の仇を返しにきた」







 ◇◇◇







 ――右。左……いや、右!?



 林の中、ぼうぼうと伸びた草を掻き分け、疾走する標的を目で追っていた秋臣は、ついにそれを見失った。



『何やってんだ、あっちだ。南西の方だ』



 南西、ってどっち!? どこを見ても木、木、木。目印になるようなものもない。



『どっちですか! 間継(あきつぐ)さん!』



 秋臣(あきおみ)は、耳につけたイヤホンマイクに訴えた。



『お前……南西っていったら、あっちだろ。さっき教えたのに』



 だからどっちだよ。


 秋臣は、間継がいる方へ振り返る。黒い着物の装いの、小さな輪郭だけが見えた。

 その首が、左奥に振られる。あっちか!


 指示通りに駆けた先で、見失った気配が途端、濃くなった。

 事前に木々に下げてあった紙垂が、標的の逃げ道を確実に減らしていた。


 足の速さにだけは、自身がある。

 正面に、紙垂を下げた大木が見えた。



 結界の行き止まりだ。追い詰めた……!



 かさかさとした音が止んだ。草の間から見えたのは――白い綺麗な蛇だった。


 これなら、簡単に捕まえられそう……

 そっと手を伸ばした秋臣の頬を、不穏な風が撫でていく。


 途端、両手に収まりそうだった蛇が、巨大な黒い蛇へと変容した。

 おどろおどろしい黒い靄の塊が、歪な蛇の形を成した。



「――あ、これはやば」



 秋臣は、残(・)留(・)思(・)念(・)に憑かれた蛇(・)の(・)妖(・)怪(・)を硬直した体で見上げた。


 靄で出来た長い舌がちろりと動き、あるはずのない黒い瞳が、こちらを捉えた気がした。

 胴体が持ち上げられる。口がカッと開かれ、直線状に降りてきた。



 肩を引っ張られた。

 今まさに、秋臣が立っていたところに、靄が激しくぶつかり、四散する。



「よくやった。退避」



 いつしか前に立っていたのは、間継だった。

 濃紺の羽織の裾が揺れる。髪を束ねている銀のリングが昏く光る。


 ようやく自力で数歩退いた秋臣は、それでも前方から目を離せずにいた。


 黒い靄が姿を立ち上げ直し、臨戦態勢に入る。

 その隙に、間継が左手で印を組み、唱えた。



「間継律、これに謹んで奏上す。念は念として、ここに形を成すことなし。鎮まり、散れ」



 襲って来た靄へ、彼が右手を伸ばした瞬間、ぶつかったところから赤と黄の混じる光が辺りへと広がった。


 気が付いた時には――その手の中には、白い蛇が一匹いるだけだった。




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