白き光と、重世の茶
「少し気になることがある」
ゲンジロウがそう言って、試験管のようなものを見せてきた。
採血の結果として、濁りはなく、全くの正常。刻印が体に何かしらの悪影響を与えていることはない。
「其の方、妖力は使えるか?」
そう尋ねてきた彼に、答えたのは間継だった。
「見ての通り、妖力は備え持ってはいますが小さく。外に出せる程度かの判断もしていません」
検査結果は問題がないというのに、何やら引っ掛かりを覚えているようなゲンジロウに秋臣が首を傾げる。間継が難しい顔で見てきた。
「冬吾。左手でこう印を組め」
フィクションなので陰陽師がよくする人差し指と中指を揃える、あの印だ。
内心ドキドキしながら、間継の真似をして胸の前で印を組んだ。
「いいか? 器はみぞおちのところにあるイメージで。左手は内、右手は外。
左手の印で妖力を器の外に押し出して、右手に注ぐ」
秋臣は想像力を最大限掻き立てて、イメージした。
簡単な奏上を間継に教えられ、そのままなぞる。
「冬吾秋臣、これに奏上す。顕れん」
右手右手右手。みぞおちから右手。
ぐぬぬぬぬぬ、と力を込めた時、右手からぽんっと何かが出た気がした。一瞬だった。
「……ん?」
微妙な沈黙が漂い、間継が小さな嘆息をこぼした。
「この通りなので」
言いかけた彼に、ゲンジロウがぷにぷにした指を立てた。
もう一度やってみてほしい。その要求に、恥ずかしい気持ちを抑えて、秋臣は試す。
奏上を口にする。先ほどよりも、ほんの少し目に見える形で白い光が出た途端、ゲンジロウの舌があっと言う速さで掬いとっていった。
蛙の捕食さながらの様子に、秋臣が唖然とする。
口の中で人の妖力を咀嚼したゲンジロウが、「ふむふむ」と何やら頷いていた。
「えっと……美味しいですか?」
何を聞いてるんだ俺は。隣で間継が小さく笑った。
「ゲンジロウ殿は、妖力に干渉出来る特殊な能力を持ってる妖怪だからな。
何か気になることがおありのようで」
彼が姿勢を正して、ゲンジロウと向き合う。
ゲンジロウは思考の中にいるようで、沈黙したまま、秋臣をスッと見つめた。
その舌が更に秋臣に伸びてきて、数度胸を叩いた。
すごい嫌な感触がした。こう、ゴムみたいなでもねっちょりしたみたいな。
されるがままになった秋臣が、そっと首を引いた時。
「ふむ、少し時間がほしい。妖狐の封印と共に、冬吾のことも調べておく」
そういった彼に、間継は怪訝そうな表情でさらに問う。
「と言いますと?」
「ワシは医者だ。不確かなことは口には出来ん。
わかり次第、こちらから伝えることにする」
「承知いたしました」
二人の会話を聞きながら、秋臣は右手を見た。白い光だった。間継さんの色とは違う。
ゲンジロウが何を気にしてるのか知らないけど、やっぱり俺には境界守の才能はないみたいだ。
ああ、ちょっと期待したのになぁ。
初回からばばーんと大きな力が出て、うおーってなるような展開。
まっ、現実そんなフィクションみたいに出来てないよな……はぁ。
「おい、何意気消沈してるのか知らねぇが」
さっと立ち上がった彼と目が合った。何故か気まずそうに逸らされた時――
ぎゅるるるるとお腹がなった。
「まっ……て」
まるで胃を捻られるような急激な腹痛が、秋臣を襲う。
「なんか、めっちゃ、やばい……」
「おい、お前。余計なもん食べたんじゃ」
あまりの痛さに蹲った時、入り口から何かを落とす音が聞こえてきた。
「私がさっき茶をお出ししたのだ。境界守のおつきなら慣れているかと思い――」
顔面蒼白の様子でネネコが駆け寄ってきた。間継が肩を落として、首を振る。
どうやら重世の食べ物は、人間の体には合わないらしい。
秋臣は、込み上がってきた吐き気を堪えるのに必死だった。




