独りよがりの、ガキ同士
その間にも冬吾がズカズカと足音を立てて、進み出てきた。
小上がりの畳の前で止まった彼は、酷く眉を寄せて見下ろしてきた。
「間継さん! あんたはいつもいつもいつも、どうして大事なこと言わないんですか!
俺がただのバイトだからですか!? 俺のことは心配して、過保護なくらい色々するのに、俺が間継さんを心配するのは鬱陶しいってことですか!?」
それともあれですか!? 悲劇のヒロイン――じゃないヒーローみたいな!?
いい加減にしてくださいよ! 俺がどんだけ間継さんのこと心配してると思ってるんですか! 俺のこと三歳児三歳児っていつも貶すけど、あんただって十分ひねくれた独りよがりのガキですよ!
あまりの怒り具合に間継は呆気に取られて、ゲンジロウを見る。
彼は水煙草を取り出して、ふいっと顔を背けてしまった。
「どこから聞いてたんだよ……」
「全部ですよ全部!
俺が近くに到着した時に、間継さんが入っていきなり採血しだしたから、これはなんかあると思ったんですよ! その前にもうネネコちゃんに色々教えてもらいましたからね!」
秋臣もネネコも妖力が小さいことが仇になったのか……ゲンジロウは気づいていて、放置していたのだろう。
ネネコは冬吾の後ろに隠れていた。この師弟は、揃いも揃って。
その間にも冬吾は捲し立てるように言葉を口にしていた。
佐京や陰陽師の妖力の話を聞いて、薄々察していたらしいが、命を削ってまで働くなんて正気じゃない、だとか。
もっと自分を大事にしろだとかから始まり、自分はそんなに頼りにならないか、間継と冬吾以前に友達だと思っていたのは自分だけなのかと、まで発展した。
「俺がいくらでも囮になって、妖狐おびき出しますよ! よくわからないけど、その妖狐さえどうにか出来たらどうにかなるかもしれないんでしょ!?」
頬を紅潮させて、息を荒くした彼。間継は更に呆気に取られた。
「あのな、たしかにお前は冬吾かもしれないが、巻き込まれただけの普通の人間だ。
こっちのことまで関与してくると――」
「黙ってください! 俺がどうするかは俺が決めるし、指図しないでください!」
「おまっ……俺は俺でお前のこと心配してんのに! 今までの妖怪相手とはわけが違うし、お前は妖力も使えねぇだろ!
もともと妖狐さえ現れて刻印だけ解除させたら、バイト辞めさせるつもりだったんだよ!」
「勝手に雇っておいて、いらなくなったら解雇とは労働基準法が許しませんよ!」
「そういう時だけ、人世の法律取り出してくるな! 境界守にそんなの適応されるわけないだろ!」
どれほど言い返しても、口が立つ秋臣は数倍にして返してくる。
「ああだこうだうるせぇな! 何いっても納得しねぇなら、今すぐにでも解雇して――」
思わず立ち上がった間継が秋臣の胸倉を掴もうとした――その時。
モォ~とひと鳴きして、巨大牛が二人の間に割って入ってきた。
「仲が良いのはまことに美しいことだが、間継様。院内での喧嘩は、間継様であっても、ご遠慮いただきたいのだ」
ネネコの声に牛がくしゃみをした。
唾のかかった二人が、顔を見合わせ、じとりとにらみ合う。
「ゲンジロウ殿。お伝えした件、お頼み申します。私は少し、外の空気を浴びてきます」
間継はふいっと顔を背け、病院の外に出ることにした。




