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境界守と九官鳥  作者: 俐月
間継屋敷編

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32/49

間継家の縁、道すがら聞く

 


 大通りを通り過ぎていった災いを見送って、間継は途方に暮れた。

 重世には妖怪だらけ。秋臣の小さな妖力の気配を追うのは、至難の業である。



「あいっつ……トラブルメーカーすぎるんだよ。なんでこんな……」



 暴走牛に乗っていたあの妖怪、どこかで見覚えがある気がするが……

 迷った末、間継は懐から一枚の紙を取り出して、簡単に筆をしたためる。



「命を賜う。我が命に従え」



 印を組み、右手に乗せた紙に息を吹きかける。紙は鳥の形を成し、飛んでいった。

 役所への迷い報せは、これでいいとして……



「鈴音、いるか?」


「いるよ~」



 呼びかけると、どこからともなく鈴音が現れた。



「悪いが、あの馬鹿追ってくれ」


「律はどうするんだよ?」


「俺は先に老のところへ向かっておく。手土産もいるしな」


「じゃあ、見つけたら連れていくね~」



 狐に戻って早速駆け出した彼女を見送り、間継は嘆息をこぼす。

 鈴音に追わせた方が確実だった。妖狐の中ではまだ若いが、それなりに位の高い妖怪だ。



「冬吾がいたら出来ない話もあったしな。丁度いいか」



 あの和装にはいくつか術をかけておいたが、人間だとバレても彼岸花の紋を身に着ける相手に、粗相をしでかそうとする妖怪はいない。


 何せ境界守で彼岸花を掲げるといえば、間継家である、と重世の妖怪はしっかり認識している。

 境界守に連なる者に害を与えれば、重罪。それがこの重世の中で、古くから浸透した法律のひとつだった。






 §§§





「すまん、うちの牛汰が粗相をしたのだ。今日はご機嫌だと思って、街に連れてきたのに」



 とある廃屋で、秋臣は呆然としたまま、今にも崩れそうな天井の隙間から見える空を眺めていた。

 俺、この短期間で、何回死にかけたんだろう。もう、なんかなんでもできる気がしてきた。



「本当にすまん。まさか君が境界守だなんて、この子もわかってなかったと思うんだ」



 今にも土下座をしそうな猫耳の女の子の隣で、牛が弱弱しく鳴いた。

 猫耳だ、可愛い。いや、それよりも。



「あ、もしかしてこの紋?」



 彼女が、やたらペンダントを見てきたので気づいた。

 ペンダントを手に取ると、彼女が目を見開いて、ついに土下座した。



「知らなかったですまないのは重々承知してる! 知らないで通せたら法律はない!

 だがどうか、命だけは!」


「いや、落ち着いてくださいよ。何か知らないけど、とりあえずそんな物騒なことしないし。俺もちょっと擦りむいただけだし」



 なるほど。何かあったことを想定して、間継さんはこれを俺に身に着けさせたのか。

 前から思ってたけど、境界守ってすごいんだな。


 しかし、彼女は聞く耳を持たなかった。むしろ逆効果だったらしい。



「擦りむいた!? いかん! 言い訳の余地がない! 打ち首になるしか……!」


「いや、あの、だから」


「あの間継の御方に血を流させるなどという大罪を……」



 最初こそ大げさな謝罪なだけだと思っていた秋臣は、本当に震えだした彼女を見て、目を瞬かせる。

 ウロコダさんもそうだったけど、間継家って……


 ふと数日前のテロップが、頭の中に現れた。



 〖間継家の謎〗



「えっと、間継家ってそんなに有名なの?」


「君、境界守じゃないのか?」



 ハッと顔を上げた彼女が、こちらを凝視してきた。



「いや、そうとも言えるしそうじゃないとも言えるというか……」



 秋臣は、乾いた笑いで誤魔化す。境界守じゃないって言ったらどうなるか、想像つかなかった。



「最近そうなったというか、バイトなんだよね、えーと昔的にいうとなんだっけ」


「奉公人か?」


「あ、そうそう、そんな感じ」



 前に言われたのは、舎人だった気がするけど。



「間継家の大事な奉公人になんということを……!」



 だめだ、話が進まない。

 秋臣は諦めて、彼女をまず落ち着かせることにした。







 ぐすん、と鼻を啜った彼女が改めて前で正座をした。



「私はネネコと言う、とある方のもとで薬の修行をしている」



 秋臣も自分の名前を名乗った。すると彼女は、「冬吾?」と聞き返してきた。

 まだこれだ。最初はあんまり聞かない苗字だからかなと思ったけど、名乗るたびにこんな反応をされる。



「冬吾殿。とりあえずは、私の師匠のもとへご案内いたしたい。傷の手当もせねば」



 そう立ち上がった彼女に、秋臣はついていくことにした。

 いつの間にか林の中にいるし。街に行った方が間継と合流もしやすいだろう。

 というか、合流できるのかな。



「先ほどの話であるが」


「あ、そうだ。間継家」


「人世の妖怪のことはわからないが、重世では有名な話なのだ」



 牛を牽いて、僅かに前を進む彼女がぽつりぽつりと話し始めた。


 どれだけ街から遠のいていたのか、長い話を聞き、問答するのは十分すぎる道のりだった。


 ようやく街が見えてきた頃、秋臣の頭の中には、この彼が探しているという妖狐と間継家の間にある、切っても切れない縁と、彼の抱えた重い歴史だけが頭に残っていた。





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