彼岸花の紋、揃ひの証
一日だけ休むと言った間継を説得して、三日休ませることに成功した次の日。
早速、仕事着を来た彼が呼びかけてきた。
「おい、冬吾」
「はいよ~」
「鈴音の真似してんじゃねぇよ」
「あ、バレました?」
羽織の中で腕を組んで見下ろしてきた彼の服装が、なんだかいつもと違う?
うん? うーん、うん。俺、間違い探しって苦手なんだよね。すぐ飽きるし。イライラしてくるし。
「あ、何か用ありました? 仕事ですか? 準備します?」
「重世に行こうと思ってるんだが、お前もいく――」
「行きます!」
「即答かよ。お前は本当に、危機管理って言葉を知らねぇみたいだな」
聞いておきながら、間継が呆れたように鼻で笑ってきた。
重世ってあれだよね、あっちのことだよね? そんなこと改めて聞くと、連れてってもらえなさそうな気がした。
たまに重世で仕事が云々と話していたから、行けるんだろうなとは思ってたけど。
「俺、行っていいんですか?」
一応聞いてみる。
「これ着て、これ首から下げておけば、大体のことがどうにかなる」
渡されたのは、着物とペンダントだった。
「あ! わかった! 長着にワンポイントが入ってる!」
彼の長着と渡された着物、両方の襟元に彼岸花の紋。ペンダントも同じ、彼岸花をモチーフにしたものだった。
屋敷の庭を抜け、木戸の向こうに、殿のような建物があった。
なにこれ、この前探索した時なかったけど。
視線を送ると彼は、この建物は結界で守っていると教えてくれた。人間も入れないよう厳重に管理しているとか。
その建物には、大きな木製の扉が一枚だけ。
前に立った間継が右手を扉に当ててから、ふいに振り返ってくる。
「言っておくが、重世の扉は一日一往復しかできない。わかったな?」
絶対にやらかすなよ。刺すような視線に、秋臣はそっと頷く。
間継が印を組んで、そっと呼吸を置いてから言った。
「間継律、ここに重世の道を請い奉る」
彼の右手から何かが扉へ広がり、扉が黒く変色していく。それが縁まで行き渡った途端、ガタンと音が鳴った。
「こっちとあっちとでは色々違うから、少し遠回りしていく。ちょっとでも体調おかしいと思ったら……まぁ、お前だけ引き返せ」
「え、嫌ですよ!」
いつもの扉ならまだしも、この先に何があるのか――そんな道をひとりで帰るなんて……
すぐに言い返した秋臣の言葉を無視して、間継が扉を開いた。
そこにはいつもと変わらない、林道が広がっていた。
なんだ、またこの道か。そらそうだよね。
と思ったのが、しばらく前。
「間継さん……いつまで歩くんですか。長くないですか」
途中、林道が三本に分かれていて、迷わず右に進んだ彼について行くと、洞窟があった。
「遠回りするっつっただろ」
彼だけなら扉一枚潜って、すぐ重世に行けるらしい。
「ここまで遠回りしなくても、俺大丈夫ですよ」
多分。色々違う、の色々が何かわからないけど。
「明日からまた、仕事行くし、お前に体調崩されたらこっちが困るんだよ」
「え、何それ。俺超重要戦力って認められてる感じですか!? やだな~照れるな~」
「そういうことでいいから、黙ってついてこい」
そうして更に、体感として十数分、凸凹と歩きづらい洞窟の行き止まりに、それはあった。
扉には彼岸花の紋。秋臣は首から下げたペンダントと扉を見比べる。
これを下げてれば、って言ってたけど彼岸花好きすぎない? そういうことじゃない?
その間にも扉が開かれた。そこにはやはり、あの七色に光る暗闇。
「これ、あの膜なんですよね。ゆらゆらした七色闇」
その扉を通る時にもあるこれを、そう認識するようになった。
「あ?」
すると、扉を先に通りかけた間継が、訝しげにこちらを見てきた。
「お前。ああ、お前にはそう見えてんのか」
「え?」
「面白いこと聞いたな。半端な妖力を持つ人間には、境がそう見えるんだな」
「え、え!? 間継さんは違うの!?」
ふっと鼻で笑った彼が、扉先を見る。
「境界守は、扉の先の景色が見えるんだよ。だから、到着地を間違うこともない」
なにそれ、かっこいい。というか、便利すぎる。
切符払い戻しの必要がないってことじゃん。
てか、半端な妖力って……やっぱり俺には才能がないってことなのかなぁ。
秋臣はいつものように、そっと目を閉じて扉を潜った。




