桃とぶどう、間継の轍
食事のデザートとして、桃とぶどうが出てきた。
間継が「いただきます」と秋臣に向かって言った。
「あ、はい。どうぞ」
実家から送られてきたのは、大量の桃とぶどうだった。メモには、お友達にもおすそ分けしてね、と書かれていた。
果物なんて高いのに……お母さん、俺が何人友達いると思ってこんな大量に送ってきたんだよ。
秋臣は友達を頭に浮かべる。湊しかいなかった。
目の前で冷えた桃を食べている間継は、佐京の部屋を探し当ててしまったことに対して、怒らなかった。
むしろ、「そうか、よく見つけたな」の一言。
逆に怖い。そのおかげで伝言はちゃんと出来たけど。
秋臣も桃を一口食べる。よく冷えているし、甘い。
「あの~、間継さん」
「あ?」
「その~、佐京さんってどこが悪いんですか?」
「……業務上の守秘義務によりお答えできません」
視線を落として、ぶどうを手にとった彼がアナウンスのように言う。
「そんなこと言わずに~。ほら、これも食べてくださいよ~」
秋臣はほとんど残った果実を皿ごと差し出した。なんの遠慮もなく受け取った間継が、ため息を挟む。
「境界守によくある病気なんだよ」
どうせ説明してもわからないだろ、といった視線を送ってきた彼。
「妖力と関係してるんですか?」
すると、間継が目を瞬かせ、観念したように言った。
「本来、妖力は人間の体には強すぎる力なんだ。器があるからすぐに病気になるわけじゃないが、器も摩耗していく」
強すぎる薬品を何度も出し入れしていれば、コップが摩耗していく。彼はそう喩えた。
「器が欠けて、妖力が体内に浸透したら、人間の体内組織が内から破壊されていくんだよ」
「な、なるほど……」
志水が陰陽師は早死にが多いと言っていたが、どうやら過労だけが原因じゃなかったらしい。
「器の大きさは人それぞれだし、一度にどれだけ妖力を使うかによっても左右されるから、病気にならずにそれなりに生きるやつもいるけどな」
「でも佐京さん。まだ四十代くらいに見えましたけど」
「間継家はそれ以外にも色々あんだよ、色々」
それ以上聞くなと言わんばかりに、果実を食べ始めた彼。
家族の話を聞いたことがなかったが、彼自体が色々無茶苦茶すぎて、そんなものだと思っていた。
病気の父がいる。親戚は? 母親は? 兄弟は?
そっと上を見ると、じとりを睨まれた。
「他人の家のことがそんな気になるのか? 母親は俺を生んで死んだし、間継家は今、俺と父だけだ。もう何百年も昔から、そういう家なんだよ」
もういいだろ、と間継が突っぱねてきた。
秋臣は、佐京が独り言のように呟いていた言葉を思い出していた。
「どうか、あの子をよろしく頼むね。仲良くしてやってほしい」
間継父、佐京さんから俺は任務を任せられたのだ。
よろしく頼む。つまり、この子を自分のようにさせないよう、導いてやってほしい。そういう重大な任務を。
記憶を想像で盛りに盛った秋臣は、ひとつ、いい案を思いついた。
「こちら秋。ターゲットは扉先へ消えた。どうぞ。
こちら臣。屋敷にターゲットの姿はなし。今回は俺用の扉も開いていってくれたようだが、これは罠の可能性がある」
ひとり二役、スパイごっこを始めた秋臣は、間継が消えた扉と、開きっぱなしの扉を見比べて、強く頷いた。
「これより、作戦を開始する」
普段使っている居間以外にも、この屋敷のことはすでに把握していた。
目的の場所は、廊下を曲がった先の一番奥にある、間継の部屋だ。ちなみに秋臣の部屋は、その数室隣である。
足音を殺し、さっと壁に背をつけた。先の廊下には、妖怪がひとり。掃除をしてくれるハキオだった。
髪は箒のように広がっていて、身長は高い。胴は極端に細く、箒が箒を持っているようにも見える。
「目標の地点に、敵発見。作戦変更するか? 送れ。一度、自陣にて機を待つ。以上」
秋臣は何事もなかったように、廊下を曲がった。




