↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界守と九官鳥  作者: 俐月
墓地編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/48

陽の中がお似合ひだ

 

 ゆ、幽霊!? いや、違う。カチリという音、見落としそうなほどの火の明かりが、一瞬見えた。

 まさか本当に、こんなところに人間が……?


 間継が眉を寄せて、こちらを見てきた。



「え?」



 これはもしや……いつもの感じで、今回は人間を捕まえろっていうあの……



「いい。お前はこの階段だけ塞いでおけ。出来る限りこっちくんなよ」


「え?」



 逆に? なんで?

 羽織を脱いで渡してきた間継が、足音を殺して進み始める。


 彼を見守っていると、ふいに懐から何かを取り出した。小刀に見えた。

 不穏すぎる雰囲気に、思わず固唾を飲む。



 穴の開いたコンクリート壁に彼が差し掛かった時、「なに~?今日はまだ早くないー?」と女性の声が聞こえてきた。



「昼も夜もわかんなくなっちゃったんでしょー。あれ、今どっちだっけ」



 他の女性の声が続き、笑い声が響いた。先ほどと同じように影が揺れた。

 そちらを注視していた秋臣は、今更ながらに気づいた。影じゃない。あの黒い靄の気配だ。


 ふいに穴から女性が顔を出す。間継を認めた瞬間、表情が警戒を露わにしたがそれも一瞬で、首を傾げていた。



「誰にここ聞いたの? あの人の紹介?」


「ああ、初めてなんだが、ちょっと遊んでみたくなってな。もう一人の女の人もいるか?」



 女性に答えた間継が、背の方に小刀を隠しながら、ちらりとこちらを見てきた。その時にはもう一人の女性も顔を出し、すぐに二人がコンクリートを回ってこちらへやってきた。

 若い、自分たち同じくらいに見える。


 二人と間継が向かいあったその瞬間だった。

 左手で印が結ばれた。



「間継律が、これに謹んで奏上す。人世に根差すことなき念、その身を離れ、その身を断ち切れ」



 早口で唱えられたと同時に、振り上げた小刀が女性のひとりを裂いた。途端、彼女は糸が切れたように崩れおちる。

 隣にいた女性が、悲鳴をあげたのも一瞬、何を思ったのか逃げるのではなく、間継に襲い掛かった。


 危ない……!

 秋臣が駆けようとした瞬間、間継がさらりと身を躱して、女性の腕を掴み、伏せる。そしてその背へと小刀で振り落とした。


 秋臣がホッとしたのも束の間、女性二人の体から黒い靄が立ち込め、天井を覆う。残留思念の塊だった。


 間継が再び印を結び、天井へと右手を翳す。薄暗いビル内に、目を焼くような光が放たれた。










「言われた通り、警察に連絡しておきましたけど。匿名で」



 廃ビル内に女性二人が倒れている。危ない感じだった。


 そういう節の通報をしろと間継が言って来たのだ。小刀で斬り払った彼女たちは、無傷だった。

 どういうカラクリなのか、秋臣には人間から残留思念だけ切り離したように見えてきた。



「なんで間継さんひとりでいったんですか」



 崩れ落ちそうな階段を慎重に下りながら、前の彼に問う。


 今回自分は何もしなかった。女性相手だから大丈夫だと判断したのか? いや、あの時点で女性だとはわかっていなかった。



「あ? お前が余計なもん吸い込んだら、責任取れねぇからだよ」


「余計なもの……?」



 そんなのあったっけ? 濁ったため息が返された。



「いや、なんでもない。お前は知らなくていい」


「え!? なんですか!? 逆に気になるんですけど! 教えてくださいよ!」


「お前のお天気頭には、陽の中がお似合いだっつってんだよ」


「すごいディスってくるじゃないですか! 今回俺が役に立たなかったからですか!?

 あ、でもちゃんと時給には入れててくださいよね!」



 今回だって、何もしてないけど、このビルを歩くだけ危険だったのだ。給料をもらわないと割に合わない。

 間継は嫌そうにこちらを見て、手を払った。


 そういえば……秋臣は一度後ろを振り返る。


 どうしてこんな廃ビルに女性がいたんだろう。危ないのに。

 なんかお酒に酔ったみたいな? テンションすごく高かったけど。昼から飲んだら周りがうるさいから、ここで密会してたとか? まぁ、そういうこともあるよね。



「俺も早くお酒飲めるようになりたいなー。あと一年かー」



 そういえば、間継さんって年上だからもうお酒飲めるのか。来年、俺が成人したらあの人を酔わせてみよう。


 そんなことを思った秋臣は、シートの外に出た。薄く漂っていた雲はいつしかなくなっていて、空は真っ青に晴れ渡っている。



「あー、ようやく戻ってきたって感じ」



 一時間も経っていないのに、何故か太陽が懐かしく思えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。