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境界守と九官鳥  作者: 俐月
墓地編

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22/48

廃ビルの影、ふいに揺らぐ

 


 志水が運転する車で、本日四件目の場所へ着いた。

 都心から少し離れた青いシートで覆われたビルだった。


 一軒目がちょー高級そうなビルで、二件目が都内で一番土地代が高い場所のショッピングモールで、三件目が何故か地下鉄で、四件目が……


 秋臣は、シート前に張られた工事看板を見る。文字は雨風に晒されたせいか、掠れてほとんど読めなかった。着工日が、もう数年前だ。



「え、なに? いきなり幽霊案件?」



 まだ昼だよ? 正午すぎたばかりなのに、なんでこの辺りこんなに暗いの? お日様どこいった?

 ビルと前の紙を三度、秋臣が見比べている間に、間継の姿は中に消えていた。



「ちょ、間継さん。これ終わったら昼ご飯にしましょうよ。ねぇ、ねぇ、ひとりでいかないで!? 俺帰っちゃうよ!?」



 後ろを振り返るが、志水と車はもうない。どこいった、あのSP。

 仕方なく、秋臣は間継を追って、柵の中に入ることにした。


 かつては、何かのビルだったのだろう、剥き出しのコンクリートの構造がそう物語っていた。

 マンションではない。商業ビルだったように思える。


 解体工事途中で放り出されたのか、至るところに瓦礫が落ちていた。

 秋臣は間継にすぐ追い付いた。昼に入って空は薄曇りになり、シートで全方面覆われた中は更に薄暗い。



「間継さん、何探してるんですか」



 ゆっくり歩き進めながら辺りを見渡している彼にそっと尋ねる。彼は足元に落ちている何かを見て、首を捻っていた。



「ここらで憑かれたやつがいるって報告があってな」


「え、人間? 間継さん妖怪専門でしょ?」


「俺は妖怪専門だよ。ただ、ちょっと放っておけない事情がある」



 間継の近くまで進んだ秋臣が、足元を見る。見かけない物が落ちていた。

 ガラスの破片と、筒状のガラス? あと何故か銀紙とか、小さなストローとか、誰かここで料理でもしてたの?



「余計なもの拾ったり食うなよ。あと走ったり騒いだりもするな」



 それだけ言って、間継はさっさと進みだした。



「俺のこと犬か何かだと思ってるんですか!? こんな場所にあるもの拾い食いなんてしませんよ!」



 家なら落ちても、三秒ルールで食べるけど!


 前を行く背は、どこか険しい雰囲気を漂わせていた。

 階段に差し掛かった。当然のように上がっていく彼を見て、秋臣は戦慄を覚える。


 案の定、足をかけるとコンクリートの端が、欠け落ちていった。



「だから何探してるのか教えてくださいよ」


「あ? さっき憑かれた人間がいるって言っただろ」


「下ならまだしも上にいる気はしませんけど!」



 こんな廃ビルの上までいくのは、ネットの配信者か、幽霊好きか、自殺願望者だけだろ!

 すると前から、呆れたようなため息が聞こえてきた。



「今日は説明も面倒だから、とりあえず人間か、妖怪か、変なものあったら教えろ」



 俺だって人間相手に仕事なんてしたくねぇんだよ。はー、面倒くせぇ。近くに妖怪の住処さえなきゃ放っておくのに。そもそも人間が憑かれるなんて自業自得なんだよ。なんで俺が人間の尻ぬぐいまでしなきゃなんねんだよ。


 よほど疲れてるのか、それほど人間相手の仕事をしたくないのか、珍しくぶつぶつと文句を言い始めた間継。


 いや、それだけ喋れるなら、説明してくれてもいいだろ。

 てか、この人。全人類が敵だと思ってるのか?


 怪訝に思った秋臣が、彼の肩辺りの彼岸花の刺繍を見つめていた時、突然その背が止まった。



「うぉっ」



 ギリギリ止まろうとしたが、その背にぶつかる。足元でがらりと音がした。

 後ろを見た秋臣は、ひやりとした。



「ちょっと! せめて俺が上がり切って止まってくださいよ! 俺が階段から転げ落ちたらどうしてくれるんですか!」



 くわっと目を見開きながら、最後の一段を上がり、間継を覗き込んだ。しっと、口元に手をあてた彼はじっと一点を見つめていた。


 なに……? 秋臣もそちらを見る。間が抜け落ちたコンクリート壁の先で、ふいに影が揺らいだ。


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