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境界守と九官鳥  作者: 俐月
墓地編

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18/48

五時出発、都に向かふ

 


 お盆の仕事。墓地回り。

 なるほど、陰陽師というものは、なかなかに地味な仕事をしているのかもしれない。


 次の墓地はどこかなぁ。いやぁ、色んなところに墓地ってあるんだね。知らなかった。


 今日も今日とて、残留思念の囮になった秋臣は、諦めの境地でそんなことを考えていた。

 昨日の墓地から始まり、今日は朝から夕方まで三件。まだまだあるのだと思っていた彼に、間継が言った。



「明日からは各都市にいく」


「え? 墓地は?」


「そんな墓地が気に入ったなら、ひとりで行ってこい」



 いつも通りの不愛想な返しに、秋臣はじとりと睨む。



「俺~、仕事の予定は~、事前に把握しておきたいタイプなんですよ~。

 ほら、彼女とデートするときとかも~、前もって色々準備する男なんで~」



 集合時間の十五分前に着くようにいくし、彼女の好みは把握して、その時の気分によって行けるレストラン候補とか調べておくし、急に体調悪くなった時のために、薬一式とかカイロとか常に持っておくし。


 ペラペラと話し始めた彼に、今度は間継が白けた顔で彼を睨んだ。



「お前、恋人とかいたことあったのな」


「は!? あり……ますよ!」



 妄想でなら、五人くらいは! 心の中で叫んだ時、ふっと鼻で笑う声が聞こえてきた。



「嘘か。見栄も大概にしとけよ」



 嘘をつけない系男子の秋臣は、ぐっと押し黙ってしまった。

 遠慮して五人ってことにしたのに、本当は百人とか……いや、それはそれで遊びまくってるみたいで……



「そういう間継さんには、ついてこられる女性なんていないでしょうね!」



 ふんっとそっぽ向いて、言って見せた。



「何せ俺は境界守だからな」


「意味不明な言い訳しないでくれませんか!?」



 言いながらも、秋臣はちらりと彼を一瞥する。


 俺より背高いし、顔も整ってる。不愛想だけど、このクールさがかっこいい! とかいう女性はいそうだ。

 それに、この人は頭がいい(と思う)。あと陰陽師って年収どれくらいなんだ……?


 全てにおいて負けを認めそうになって、気づけば「ぐぬぬぬぬ」と呻いていた。



「わけわからん葛藤してねぇで、明日のためにさっさと寝とけよ。朝五時出発な」



 彼は、おもむろに羽織を羽織っていた。

 いつものあの、正装らしい羽織だ。



「って、間継さんどっかいくんですか?」


「鈴音とデートでもいってくる」



 デートという単語を強調した揶揄うような言葉に、秋臣の口から出かけた心配はスンと引っ込んでいく。



「なにそれ、羨ましい! いや! 鈴音ちゃんとか完全に犯罪ですからね!?」



 謎自営業を営んでいる間継律さん、青少年健全育成条例違反より逮捕か?


 秋臣の頭に、何故か目のあたりに黒い線で囲われた間継の写真が流れるニュース番組が過った。

 相手は妖狐と言えど、幼女だぞ! 幼女!



「捕まっちまえ!」



 鈴虫の伴奏に、ひと際大きな秋臣の声が響いた。

 ふすまが開く音がした。



「お前」



 ふいに振り返った間継が、おかしそうに苦笑を堪えている。



「見た目に騙されんなよ、あいつが何年生きてると思ってるんだ」


「え……?」



 ふすまが静かに閉められた。謎だけ残った部屋に、愉快げな虫たちの声だけが聞こえてきた。








 五時。夏であってもまだ暗い。



「早起きの天才の俺には、五時でも四時で楽勝ですよ」



 ふふん、と鼻を鳴らして、空を見上げた秋臣の隣で、秋臣は半分寝ていた。

 扉を潜ってたどり着いたのは、まず都心から少し離れたところだった。


 こんな時間なのに、人の往来は少なくない。スマホを取り出した間継が酷く眉を寄せ、目を細めながら何やら操作する。

 しばらくして、黒塗りの高級車が、目の前に止まった。


 運転席の窓が開かれる。黒いサングラスをかけたスキンヘッドのいかつそうな男が、秋臣をじっと見つめてきた。


 え、なに……なに!? 久しぶりに東京きて早速、何かに絡まれた!? 不運すぎない!?

 いや、今の俺には――


 秋臣はさっと間継の後ろに隠れる。盾がある!



「おはようございます」



 寝ぼけた状態のまま、間継がスキンヘッド男に小さく会釈する。



「おはようございます、間継さん。本日はどうも、よろしくお願いします」



 二人が交わした挨拶を聞いて、秋臣は両者を見比べる。

 なんだー、知り合いかー。ん? このどうみても、あちらの道の人と知り合い!?



「や、や、やっぱり……陰陽師ってあちら側なんですね!?」



 後ずさって首を引いた時、笑い声が飛んできた。



「明るい人が一緒で、朝からでも元気が出ますねー。さぁさぁ、早く乗ってください」



 若干鈍りのあるイントネーションに、掠れた声。サングラスを外してこちらを見てきた男の目元には、刀傷のようなものが見えた。


 秋臣の口から「ひえっ」と悲鳴が漏れ出る。その間にも、間継は後部座席に乗り込んでいた。



「おい、恥ずかしいからさっさと乗れ」



 黒塗りの車、和装の間継と完全に普通とは思えないスキンヘッド黒スーツ男(名誉?の負傷あり)。

 都市を回るっていうから、いつもより楽かなと思ったのに、先が思いやられる。


 途端借りてきた猫のように大人しくなった秋臣は、間継の隣に乗り込んだ。



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