五時出発、都に向かふ
お盆の仕事。墓地回り。
なるほど、陰陽師というものは、なかなかに地味な仕事をしているのかもしれない。
次の墓地はどこかなぁ。いやぁ、色んなところに墓地ってあるんだね。知らなかった。
今日も今日とて、残留思念の囮になった秋臣は、諦めの境地でそんなことを考えていた。
昨日の墓地から始まり、今日は朝から夕方まで三件。まだまだあるのだと思っていた彼に、間継が言った。
「明日からは各都市にいく」
「え? 墓地は?」
「そんな墓地が気に入ったなら、ひとりで行ってこい」
いつも通りの不愛想な返しに、秋臣はじとりと睨む。
「俺~、仕事の予定は~、事前に把握しておきたいタイプなんですよ~。
ほら、彼女とデートするときとかも~、前もって色々準備する男なんで~」
集合時間の十五分前に着くようにいくし、彼女の好みは把握して、その時の気分によって行けるレストラン候補とか調べておくし、急に体調悪くなった時のために、薬一式とかカイロとか常に持っておくし。
ペラペラと話し始めた彼に、今度は間継が白けた顔で彼を睨んだ。
「お前、恋人とかいたことあったのな」
「は!? あり……ますよ!」
妄想でなら、五人くらいは! 心の中で叫んだ時、ふっと鼻で笑う声が聞こえてきた。
「嘘か。見栄も大概にしとけよ」
嘘をつけない系男子の秋臣は、ぐっと押し黙ってしまった。
遠慮して五人ってことにしたのに、本当は百人とか……いや、それはそれで遊びまくってるみたいで……
「そういう間継さんには、ついてこられる女性なんていないでしょうね!」
ふんっとそっぽ向いて、言って見せた。
「何せ俺は境界守だからな」
「意味不明な言い訳しないでくれませんか!?」
言いながらも、秋臣はちらりと彼を一瞥する。
俺より背高いし、顔も整ってる。不愛想だけど、このクールさがかっこいい! とかいう女性はいそうだ。
それに、この人は頭がいい(と思う)。あと陰陽師って年収どれくらいなんだ……?
全てにおいて負けを認めそうになって、気づけば「ぐぬぬぬぬ」と呻いていた。
「わけわからん葛藤してねぇで、明日のためにさっさと寝とけよ。朝五時出発な」
彼は、おもむろに羽織を羽織っていた。
いつものあの、正装らしい羽織だ。
「って、間継さんどっかいくんですか?」
「鈴音とデートでもいってくる」
デートという単語を強調した揶揄うような言葉に、秋臣の口から出かけた心配はスンと引っ込んでいく。
「なにそれ、羨ましい! いや! 鈴音ちゃんとか完全に犯罪ですからね!?」
謎自営業を営んでいる間継律さん、青少年健全育成条例違反より逮捕か?
秋臣の頭に、何故か目のあたりに黒い線で囲われた間継の写真が流れるニュース番組が過った。
相手は妖狐と言えど、幼女だぞ! 幼女!
「捕まっちまえ!」
鈴虫の伴奏に、ひと際大きな秋臣の声が響いた。
ふすまが開く音がした。
「お前」
ふいに振り返った間継が、おかしそうに苦笑を堪えている。
「見た目に騙されんなよ、あいつが何年生きてると思ってるんだ」
「え……?」
ふすまが静かに閉められた。謎だけ残った部屋に、愉快げな虫たちの声だけが聞こえてきた。
五時。夏であってもまだ暗い。
「早起きの天才の俺には、五時でも四時で楽勝ですよ」
ふふん、と鼻を鳴らして、空を見上げた秋臣の隣で、秋臣は半分寝ていた。
扉を潜ってたどり着いたのは、まず都心から少し離れたところだった。
こんな時間なのに、人の往来は少なくない。スマホを取り出した間継が酷く眉を寄せ、目を細めながら何やら操作する。
しばらくして、黒塗りの高級車が、目の前に止まった。
運転席の窓が開かれる。黒いサングラスをかけたスキンヘッドのいかつそうな男が、秋臣をじっと見つめてきた。
え、なに……なに!? 久しぶりに東京きて早速、何かに絡まれた!? 不運すぎない!?
いや、今の俺には――
秋臣はさっと間継の後ろに隠れる。盾がある!
「おはようございます」
寝ぼけた状態のまま、間継がスキンヘッド男に小さく会釈する。
「おはようございます、間継さん。本日はどうも、よろしくお願いします」
二人が交わした挨拶を聞いて、秋臣は両者を見比べる。
なんだー、知り合いかー。ん? このどうみても、あちらの道の人と知り合い!?
「や、や、やっぱり……陰陽師ってあちら側なんですね!?」
後ずさって首を引いた時、笑い声が飛んできた。
「明るい人が一緒で、朝からでも元気が出ますねー。さぁさぁ、早く乗ってください」
若干鈍りのあるイントネーションに、掠れた声。サングラスを外してこちらを見てきた男の目元には、刀傷のようなものが見えた。
秋臣の口から「ひえっ」と悲鳴が漏れ出る。その間にも、間継は後部座席に乗り込んでいた。
「おい、恥ずかしいからさっさと乗れ」
黒塗りの車、和装の間継と完全に普通とは思えないスキンヘッド黒スーツ男(名誉?の負傷あり)。
都市を回るっていうから、いつもより楽かなと思ったのに、先が思いやられる。
途端借りてきた猫のように大人しくなった秋臣は、間継の隣に乗り込んだ。




