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境界守と九官鳥  作者: 俐月
墓地編

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17/49

間継家の墓、月に浮かぶ

 

 トン、と背に墓石が触れ、秋臣は固まった。

 あ、俺、今度こそ死んだ。


 手を顔に翳し、目を強く瞑った秋臣が、覚悟した瞬間だった。


 暴風が吹き荒れるような音がした。そっと目を開くと、周りには金色の膜が張られてあった。

 眼前の残留思念たちが、押しのけようと必死に食い下がってきていた。



「ど、どういう状況……?」



 目を見開いた彼は後ろを振り返った。墓石だ。墓石の中心から放たれた光が、結界のように守ってくれていた。


 人型をなして、崩して、再び成していく思念の顔が、ふいに月明かりに照らされる。

 秋臣が悲鳴を漏らす。



「残留思念ってのはな。その存在の生死にかかわらず、爆発的、もしくは一定の期間、閾値を突破した感情の塊から出来るんだよ。生霊ってあるだろ、あれがわかりやすい。

 記憶媒体がないから、自我もない。その部分だけが切り取られた思念の塊だ。だから、器を求めて妖怪や人間に憑りつく」



 間継が言っていたことが蘇った。

 なんで俺、今そんなこと思い出したの!? まさかこれが、走馬灯!?


 眼前の思念たちが、何やら呟き始めた。呪いのような言葉だった。

 間継の姿はない。鈴音もいない。なんでいないの!? 見捨てられた!?


 金色の膜が、徐々に揺れ始めるた。後ずさった彼が墓石に背を預けた瞬間、後ろから何かが聞こえた。

 ふふっとおかしそうに笑うような声だった。


 今度こそ本物の幽霊……? いや……!



「幽霊でもなんでもいいから助けて!」



 その時、後ろから衣擦れ音と足音がした。



「よかったじゃねぇか。幽霊を克服できたみたいで」



 墓石に寄り添うように、いつしかそこには間継がいた。

 不敵に笑った彼が、印を結ぶ。それを察したように金色の膜が滑らかな光を漂わせ――消えた。



「間継律、これに謹んで奏上す。念は念として、ここに形を成すことなし。鎮まり、散れ」





 ◇◇◇





 ムスッと秋臣は墓石の前で、座り込んでいた。



「毎回毎回毎回、俺だけ損な役割すぎる」


「拗ねるのはいいとしても、墓石の前に座り込むな」



 紙垂を回収し終えた間継が、淡々を言って来た。

 彼は秋臣が追い詰めたところで、思念たちが散らばらないよう、再び結界を張りなおしていたことで、来るのが遅れたらしい。


 結界ひとつにしても、紙垂で囲まないといけない。



「もっとこう、手っ取り早い浄化方法ないんですか。

 ホーリーライト! じゃじゃーん! みたいな! これじゃ俺の寿命が持ちませんよ!」


「漫画の見過ぎだろ。魔法じゃねぇんだぞ」



 こちらへ歩み寄ってきた間継が、そっと墓石を撫でる。



「まぁ、お前が逃げ込んだところがここでよかったな。思念がお前の味方してくれたんだろ」


「え?」



 思念って……



「お前、俺の説明聞いてたのか?」


「聞いてましたよ、むしろ走馬灯みたいに思い出して、もうそれはそれはしっかり覚えましたよ」



 衝撃すぎて忘れられそうにない。

 人間とか動物とか、あらゆる存在の強い感情が切り離された、あの黒い塊を。



「でも……」



 暗闇に溶け込むように立つ墓石へと振り返った。

 思念が守る? 首を傾げた時、間継がため息を吐きだした。



「悪い思念がさっきのあれで、良い思念もある。これなら覚えられるだろ」


「なるほど」


「こっち生まれの妖たちは基本、人間を守るために生まれてんだよ」



 物から生まれた付喪神、主人より先に死んでしまった動物の思念から生まれた妖怪など。

 それらは‘’良い思念‘’から、立ち上がった存在である。



「妖として生まれずに去っていくものもあるが」



 そこからさらに説明をし始めた彼を、秋臣は呆然と見上げていた。


 つまり、この墓石に眠る誰かが俺を守ってくれたのかなぁ。それとも墓石に憑く何か?

 墓地も怖くない気がする。いや、嘘ついた。



「――この時期は残留思念が特に増える。人間が色々と思い出す時期でもあるからな。

 って、聞いてんのか?」


「聞いてます聞いてますー。間継さんが薄情なのは、よーくわかりましたー」



 あんなに叫んでたのに、ぎりぎりまで来なかった。間違ったことは言ってない。


 すると、おもむろに間継が前に立ち――

 怒られると身構えた瞬間、彼は頭を垂れた。



「此度のご助力、深く御礼申し上げます」


「へ!?」



 顔を顰めた彼はさっさと踵を返してしまった。



「さっさと帰んぞ」


「え、ちょ。待って、まだ腰が抜けて……置いていかないで!」



 どうにか立ち上がり、彼を追う。

 ふいに月明かりが差し込んだ。


 なんとなく振り返ったところには、「間継家」と刻まれた墓石が淡い光を受け、こちらを見守っていた。


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