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境界守と九官鳥  作者: 俐月
墓地編

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16/48

百鬼夜行、後に従ふ

 



 夏の長い陽が落ちて、夜は更けていた。更けているどころじゃない。もう少しで零時だ。

 ひやりとした空気が、肌を撫でる。


 お盆から涼しくなると、昔の人たちは言ったみたいだけど……



「寒い! 怖い! 帰りたい!」



 秋臣は両腕を抱え、叫んだ。叫ばないと怖気に飲み込まれそうだった。

 何故なら――



「なんで! 俺ら! お盆真っただ中の深夜に! 墓地にいるんですか!」



 目の前には墓石、墓石、墓石。目の届く範囲全体に広がっている。

 月明かりもない。曇りだ。墓石に刻まれた文字すら読み取れない不穏さが、更に恐怖感を刺激した。



「なんでって仕事に決まってんだろ」



 悠々と墓地を見渡した間継が振り返る。



「そんなこと聞いてませんよ! 陰陽師ってあれですか!? ブラック企業なんですか!?」



 お盆初日。今日は一日ゆっくりしておけ、と休暇を貰ったから、迎え火でもしようかなぁと思っていた。

 もう慣れ親しんだ扉を使って、都内のスーパーで野菜を買って、帰ってきたら。


「仕事いくから、用意しとけ」


 と、間継が言って来た。この男にとっての一日は、二十四時間ではないらしい。


 行先も仕事内容も教えられず(いつものことだ)、たどり着いたのがこの墓地だった。


 まず墓地の周りに、紙垂を張り巡らせた。ひとりになるのが怖かった秋臣は、間継の後ろをつきまとっていた。

 そして、今に墓地の中央部にいる。



「俺は、幽霊が、一番怖いんですよ!」



 人間なら逃げればいいし、最近では妖怪もそうだけど、幽霊はわけが違う。どんなに足が速くて、あいつらは神出鬼没で、撒くことが出来ない。


 想像を膨らませた秋臣は、恐怖に体を震えさせた。



「だから、幽霊なんていないっつってんだろ。残留思念の説明、もう一度最初からしてやろうか?」


「いや、いいです。今説明されても頭に入ってこないんで」



 前の仕事を終えて、間継はいくつかしっかり説明してくれた。

 その半分も覚えていない秋臣が、首を振る。



「そんな怖いなら、さっさと終わらせるぞ。ちょっとお前が囮になればすぐ済む」



 間継の言葉に、秋臣は引き締めた唇をぴくりと引きつらせる。



「囮って……?」


「ほら」



 間継がとある方向へと指さした。そこには、もう何度も見てきた黒い靄。



「お前の大好きな鬼ごっこしてこい」



 いつの間にか背に回っていた彼に、背中を強く押し出された。

 待ってましたと言わんばかりに、靄たちが集まってくる。



「鬼はあんただろおおおおおお!」









 墓地に叫び声が響きわたる。もうかれこれ、十数分秋臣は墓地を走り回っていた。


 その間に、残留思念はどんどん集まっており、彼の後ろには百鬼夜行さながらの、行列が出来ている。

 今まで見てきた残留思念とは似ても似つかない。人型だったり動物だったり、色んな形をしていた。



「俺の知ってる仕事と違うんだけど!」



 息も切れ切れに、秋臣が空へと言い放つ。

 残留思念? もうこれ完全に幽霊だろ! なんなの! どういうこと!?



「まだですか!間継さん! 俺、死ぬんですけど! むしろ殺したいんですか!」



 あれに飲み込まれたら、俺どうなるの? 俺も幽霊になるの!?

 後ろを振り返った秋臣は、すでにパニックに陥っていた。


 あれ、そういえば――なんか、なんだっけ。残留思念。なんか前に説明された。



「覚えてないよ!!」



 ひとり叫んだ途端、何かに足が引っかかった。どうにか転倒を避けた秋臣が、手をついたのは……



「ひえっ! すみません!」



 一段と大きな墓石だった。

 後ろには大木がある。伸びに伸び、地面にまではみ出した根っこに足が引っかかったらしい。


 その木には紙垂。その墓石の周りだけ半円状に広がっており、向こう側は木々の群れだった。

 激しい既視感がした。


 結界の行き止まり……つまり。



「間継さあああああああん!」



 結界の外に出れば逃げられるけど、そうするとこの苦労が無駄になる!


 凄まじい勢いで、残留思念たちが秋臣へと向かっていた。

 人や動物の形をしていた靄たちが、途端形を崩して大きな塊になり、一直線にぶつかってくる。



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