岩亀に、追はれる
岩亀。亀のような妖怪で、背に岩を背負っている。
外敵から身を守るという本能を身に着けていて、緊急時には岩に擬態する。
それを鈴音が教えてくれてから、一時間。
砂浜付近の小さな岩を手当たり次第調べていた秋臣は、汗を拭いながら一息ついた。
リュックの中から水を取り出す。
「鈴音ちゃんも、お水いる?」
手伝いらしい手伝いをせずに、駆け回っている彼女に、秋臣は一応聞いた。
「えー、いらないよー。秋臣と間接チューなんてしたくないしー」
「それ、地味に心に来るんだけど」
現世によく留まるせいか、彼女はこちらの言いまわしをよく知っていた。
「休憩してる時間ないと思うよー。こっちに慣れてない妖怪は、衰弱が早いから。早く探して―秋臣」
「そう思うなら、ちょっとは手伝ってほしいんだけど」
秋臣は時刻を見る。あと一時間で、間継の言っていた三時間経つ。
それまでに見つけ出して、ボーナスをもらないといけない。
勝手にそんなことを決めていた秋臣は、最後のひと踏ん張りで立ち上がった。
「俺が有能ってことを証明してみせる。あの怖い間継さんに、やればできるじゃねぇかって褒めさせてやる!」
よし、と拳を握り、捜索を再開した。
岩亀―岩亀―、帰り道はこっちだよー、岩亀―岩亀―、お母さんのところへ帰ろうよ~
謎の歌を歌いながら、秋臣は海の方へと足を伸ばした。
「大丈夫~、俺は怖いやつじゃないよ~。重世案内人だよ~。ほら~出ておいでー」
おうちに帰りたい子! この指とまれー!
ひざ下まで海水が浸かる場所で、手に持っていたペットボトルを掲げて、叫ぶ。
その時、僅かに海水が揺れ動いた。
「ん? 今、なんか――」
……れ、……いた。
「ん?」
今なんか聞こえた?
辺りを見渡す。背より大きな岩に囲まれている。どこだ。
間にある小さな岩へとひとつひとつへと視線をなぞっていく。
途端、激しい音と共に海水が全身にかかってきた。
「ぶえっ……!」
またこれかよ!
いつしか水面には大きな影が出来ており、見上げたところには、一段と巨大な岩が現れていた。
「へ? いわ……がめ……?」
子供の岩亀って仰ってましたよね? 子供? これが?
優に三メートルを超えるのではないかという巨大岩。その容貌が徐々に姿を変えていく。
最後に岩の中から、ぬっと頭が出てきた。
「~~! ~~~~~!」
何かが叫ばれた。何を言っているのかわからない。
巨体にしては、随分小さな口がくわっと開かれ、秋臣の手へと首を伸ばしてきた。
小さな瞳が、ペットボトルを凝視する。
「え!? あ、はい! 水!?」
どうにか我に返った秋臣が、さっと開けたペットボトルから、岩亀の口へ水を注ぐ。
全部なくなってから、岩亀が目を輝かせた(秋臣にはそう見えた気がした)。
「えっと俺、そっちの言葉知らないんだけど、君が岩亀であってるよね?」
通じるかな……
岩亀がのそりと首を回し、固まった。
「~~~! ~~~、~~~~!?」
通じていないらしい。
岩亀が小刻みに首を振る。こっちをじっと見てきた。
その目を見開かれていき……頭が秋臣を上から下までなぞった後――
一段と高い叫びが響き渡った。
巨体が更に持ち上がる。
「え?」
あ、これ知ってる。やばいやつだ。
勢いよく背を向け、走り出す。予想通り、何故か岩亀が追いかけてきた。
叫びながら、巨体とは思えないスピードで追ってくる岩亀。
「まってまってまって! 落ち着いて! 轢き殺される!
鈴音ちゃん! 助けて! 通訳して!」
間継さーーーーん!!
海に、今日一番の叫びが響き渡った。




