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境界守と九官鳥  作者: 俐月
出会い編

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13/48

岩亀に、追はれる

 



 岩亀。亀のような妖怪で、背に岩を背負っている。

 外敵から身を守るという本能を身に着けていて、緊急時には岩に擬態する。


 それを鈴音が教えてくれてから、一時間。


 砂浜付近の小さな岩を手当たり次第調べていた秋臣は、汗を拭いながら一息ついた。

 リュックの中から水を取り出す。



「鈴音ちゃんも、お水いる?」



 手伝いらしい手伝いをせずに、駆け回っている彼女に、秋臣は一応聞いた。



「えー、いらないよー。秋臣と間接チューなんてしたくないしー」


「それ、地味に心に来るんだけど」



 現世によく留まるせいか、彼女はこちらの言いまわしをよく知っていた。



「休憩してる時間ないと思うよー。こっちに慣れてない妖怪は、衰弱が早いから。早く探して―秋臣」


「そう思うなら、ちょっとは手伝ってほしいんだけど」



 秋臣は時刻を見る。あと一時間で、間継の言っていた三時間経つ。

 それまでに見つけ出して、ボーナスをもらないといけない。


 勝手にそんなことを決めていた秋臣は、最後のひと踏ん張りで立ち上がった。



「俺が有能ってことを証明してみせる。あの怖い間継さんに、やればできるじゃねぇかって褒めさせてやる!」



 よし、と拳を握り、捜索を再開した。


 岩亀―岩亀―、帰り道はこっちだよー、岩亀―岩亀―、お母さんのところへ帰ろうよ~


 謎の歌を歌いながら、秋臣は海の方へと足を伸ばした。



「大丈夫~、俺は怖いやつじゃないよ~。重世案内人だよ~。ほら~出ておいでー」



 おうちに帰りたい子! この指とまれー!


 ひざ下まで海水が浸かる場所で、手に持っていたペットボトルを掲げて、叫ぶ。

 その時、僅かに海水が揺れ動いた。



「ん? 今、なんか――」



 ……れ、……いた。



「ん?」



 今なんか聞こえた?


 辺りを見渡す。背より大きな岩に囲まれている。どこだ。

 間にある小さな岩へとひとつひとつへと視線をなぞっていく。


 途端、激しい音と共に海水が全身にかかってきた。



「ぶえっ……!」



 またこれかよ!


 いつしか水面には大きな影が出来ており、見上げたところには、一段と巨大な岩が現れていた。



「へ? いわ……がめ……?」



 子供の岩亀って仰ってましたよね? 子供? これが?


 優に三メートルを超えるのではないかという巨大岩。その容貌が徐々に姿を変えていく。

 最後に岩の中から、ぬっと頭が出てきた。



「~~! ~~~~~!」



 何かが叫ばれた。何を言っているのかわからない。


 巨体にしては、随分小さな口がくわっと開かれ、秋臣の手へと首を伸ばしてきた。

 小さな瞳が、ペットボトルを凝視する。



「え!? あ、はい! 水!?」



 どうにか我に返った秋臣が、さっと開けたペットボトルから、岩亀の口へ水を注ぐ。

 全部なくなってから、岩亀が目を輝かせた(秋臣にはそう見えた気がした)。



「えっと俺、そっちの言葉知らないんだけど、君が岩亀であってるよね?」



 通じるかな……


 岩亀がのそりと首を回し、固まった。



「~~~! ~~~、~~~~!?」



 通じていないらしい。


 岩亀が小刻みに首を振る。こっちをじっと見てきた。


 その目を見開かれていき……頭が秋臣を上から下までなぞった後――



 一段と高い叫びが響き渡った。

 巨体が更に持ち上がる。



「え?」



 あ、これ知ってる。やばいやつだ。


 勢いよく背を向け、走り出す。予想通り、何故か岩亀が追いかけてきた。

 叫びながら、巨体とは思えないスピードで追ってくる岩亀。



「まってまってまって! 落ち着いて! 轢き殺される!

 鈴音ちゃん! 助けて! 通訳して!」



 間継さーーーーん!!



 海に、今日一番の叫びが響き渡った。



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