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第28話 最初に見つけた者

――旧第2部隊訓練棟。


薄暗い廊下。


悠真は木刀を構えたまま、目の前の人物を見つめていた。


「……あの日、最初にモンスターを見つけたのは……あの男だった。」


「どういう意味ですか?」


人影は答えない。


ただ、ゆっくりと廊下の奥へ歩き始める。


「ついてこい。」


「……。」


悠真は警戒しながら後を追った。


古びた扉を抜ける。


そこには、かつて第2部隊が使用していた訓練記録室があった。


壁には古い写真。


訓練中の隊員たち。


そして――。


中央に立つ、若き日の謎の男。


右腕も失っていない。


悠真は写真を見つめる。


「……。」


人影が口を開く。


「七年前。」


「ここで、あいつは新兵たちの訓練をしていた。」


「45人。」


悠真が反応する。


「……45人。」


「そうだ。」


人影は古い端末を起動する。


モニターに当時の記録が映し出される。


『訓練開始』


『参加人数――45名』


『担当教官――第2部隊所属・教官』


悠真は画面を見つめる。


「これが……七年前の事件?」


「まだ事件は起きていない。」


画面が切り替わる。


訓練場の映像。


45人の新兵。


その前に立つ謎の男。


「全員、周囲を確認しろ。」


映像の中の男が指示を出している。


「実戦では、一瞬の油断が命取りになる。」


新兵たちが一斉に動く。


悠真は映像を見ながら呟く。


「……普通の訓練ですね。」


「ああ。」


人影が答える。


「少なくとも、最初はな。」


映像の時刻が進む。


午前10時。


午前10時30分。


午前11時。


何も起こらない。


そして――。


午前11時17分。


画面が一瞬だけ乱れた。


「……?」


悠真が画面に顔を近づける。


「今の……何ですか?」


「分からない。」


人影が答える。


「記録には残っていない。」


映像が復旧する。


謎の男が突然、訓練を止めていた。


「全員、止まれ。」


45人が動きを止める。


男は空を見上げる。


「……何かいる。」


「え?」


「教官?」


男が周囲を見渡す。


そして――。


「全員、訓練棟へ戻れ!」


新兵たちがざわつく。


だが。


次の瞬間。


――ズンッ。


地面が揺れた。


「……!」


悠真が息を呑む。


画面の奥。


木々の間から巨大な影が現れる。


モンスター。


だが。


普通の個体ではない。


「これが……。」


「そうだ。」


人影が答える。


「七年前、あの場所を襲ったモンスターだ。」


映像の中で。


男が叫ぶ。


「全員、戦闘態勢!」


45人が武器を構える。


男も前へ出る。


「俺の指示から離れるな!」


モンスターが咆哮する。


――ゴオオオオッ!!


新兵たちが一斉に攻撃を開始する。


爆発。


銃撃。


能力の閃光。


だが。


モンスターは止まらない。


「強すぎる……。」


悠真が呟く。


映像の中で。


男が次々と指示を飛ばしていく。


「右側を固めろ!」


「負傷者を下げろ!」


「二人一組で動け!」


冷静だった。


最後まで。


「……。」


悠真は息を呑む。


この男は。


最初から新兵を捨てるつもりだったわけではない。


むしろ。


必死に守ろうとしている。


だが――。


映像の中で。


モンスターが突進する。


「避けろ!」


――ドォン!!


画面が激しく揺れる。


映像が途切れた。


「……ここから先は?」


悠真が尋ねる。


「記録が壊れている。」


人影が答える。


「だから、誰も詳しいことを知らない。」


「でも。」


人影は画面を見る。


「生き残った者が二人いる。」


悠真は息を呑む。


「……今も、あの男と一緒にいる二人。」


「そうだ。」


その時。


訓練棟の外から――。


カン。


金属音。


悠真が振り返る。


「誰かいる?」


人影の表情が変わる。


「……まずい。」


「え?」


「ここにいることが知られた。」


廊下の奥。


足音が近づいてくる。


一歩。


また一歩。


悠真は木刀を握り直す。


「討伐隊?」


「違う。」


人影が答える。


「もっと厄介だ。」


その瞬間。


廊下の照明が一斉に消えた。


「!」


暗闇。


そして。


紫色の光。


悠真の目の前に、文字が浮かび上がる。


『見つけた。』


「……!」


次の瞬間。


窓ガラスが――。


バンッ!!


何かが外から叩きつけられた。


悠真が飛び退く。


「何だ!?」


人影が叫ぶ。


「逃げろ!」


「でも――。」


「今は戦うな!」


「なぜですか!」


「お前の相手じゃない!」


その言葉と同時に。


訓練棟の壁が大きく揺れた。


――ドンッ!!


天井から埃が落ちる。


悠真は歯を食いしばる。


「……くそっ!」


人影が扉を開ける。


「こっちだ!」


二人は裏口へ走る。


その直後。


訓練棟の正面が――。


轟音とともに崩れた。


数分後。


旧第2部隊訓練棟。


崩れた建物の前。


一台の車両が停車する。


中から討伐隊員たちが降りる。


「内部にいた人物は?」


「確認できません!」


「神崎悠真は?」


「……それも不明です!」


その報告を聞いた男が車両から降りる。


佐伯隼人だった。


「……神崎。」


佐伯は崩壊した建物を見る。


「なぜここに来た……。」


その時。


地面に何かが落ちていることに気づく。


古い金属プレート。


佐伯が拾い上げる。


刻まれていた数字は――。


47


「……。」


佐伯の表情が変わる。


一方。


悠真は旧訓練棟から少し離れた場所まで逃げていた。


息を切らしながら振り返る。


「……あの人は?」


隣にいた人影は無事だった。


「逃げた。」


「一体、何だったんですか?」


「分からない。」


「でも――。」


悠真は崩れた建物を見る。


「俺を狙っていたように見えました。」


人影は答えない。


ただ。


小さな端末を取り出した。


画面には一つの映像。


七年前の記録。


そして。


その最後に一瞬だけ映っていたもの。


「これを見ろ。」


悠真が覗き込む。


そこには。


モンスターと戦う謎の男。


その背後。


倒れている新兵たち。


そして――。


画面の端。


二人の新兵が立っている。


「……生存者。」


悠真が呟く。


だが。


次の瞬間。


二人の背後に――。


謎の男が現れる。


悠真の目が見開かれる。


「……!」


男は二人に何かを言っている。


音声はない。


だが。


二人は武器を下ろした。


そして。


男の後ろへ歩いていく。


映像が終了する。


「この後、二人はどうなったんですか?」


人影は静かに答える。


「記録上は――。」


「七年前の事件で保護された。」


「だが。」


少し間を置く。


「その記録は、五年前に消えた。」


悠真の表情が変わる。


「五年前……。」


「そうだ。」


「48人が消えた事件。」


悠真は息を呑む。


「つまり……。」


人影は頷く。


「七年前の生存者二人は――。」


「五年前、48人と一緒に消えた。」


夜。


遠く離れた廃墟。


謎の男は、二人の人物と向かい合っていた。


二人は黙っている。


男が尋ねる。


「今日、誰かに会ったか?」


二人は首を横に振る。


「そうか。」


男は窓の外を見る。


「ならいい。」


その時。


一人が口を開く。


「……神崎悠真は?」


男は答えない。


しばらくして。


「まだ追わせる。」


「なぜですか?」


男は静かに言う。


「自分で真実を探した人間は――。」


一瞬。


目を伏せる。


「最後まで、その答えを求めるからだ。」


男は二人に背を向ける。


「まだ、何もするな。」


「俺たちは48人。」


その言葉だけが。


静かな廃墟に響いた。


同じ頃。


悠真の部屋。


机の上。


旧訓練棟から持ち帰った資料。


悠真は一枚の写真を見つめていた。


そこには。


七年前の事件直前の45人。


そして。


その前に立つ謎の男。


悠真は写真の端にある二人の隊員を見る。


「……この二人。」


そして。


別の資料。


五年前。


遊撃隊・48名


悠真は二枚の資料を並べる。


「七年前の二人が……五年前の48人の中にいた。」


さらに。


あの男。


七年前。


五年前。


二つの事件。


悠真は息を呑む。


「……全部、繋がってる。」


その瞬間。


窓ガラスに紫色の文字が浮かんだ。


『ようやく、ここまで来た。』


悠真は立ち上がる。


文字が変わる。


『だが、まだ一人足りない。』


「……一人?」


最後の文字。


『48人ではなく――49人だ。』


悠真の目が見開かれる。


「……49人?」


文字が消える。


部屋には。


悠真の声だけが残った。


「……あと一人って、誰なんだ?」

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