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第29話 隠蔽された重要人物

――翌朝。


国立能力者養成機関。


一年A組。


教室には、いつも通り生徒たちの声が響いていた。


「なあ、昨日の夜のニュース見た?」


林翔太がスマホを片手に話す。


「旧訓練棟が崩れたってやつ?」


木村彩花が答える。


「そうそう。なんか事故らしいけど。」


「事故で建物があんなに壊れるか?」


高橋陽斗が呟く。


悠真は三人の会話を聞きながら、机の下で端末を握っていた。


画面には、昨夜見つけた言葉。


『49人目』


「……。」


誰なんだ。


48人に含まれていない。


それなのに、事件に関係している。


悠真は昨夜からずっと考えていた。


だが――。


一つだけ、引っかかっていることがある。


あの男は、49人目について何も言っていなかった。


もし本当に49人目が存在するなら。


なぜ、資料には48人しか残っていない?


「神崎。」


突然、声をかけられる。


「え?」


顔を上げる。


高橋がこちらを見ていた。


「今日、ぼーっとしてないか?」


「……ちょっと考え事。」


「昨日の件?」


「うん。」


高橋は少し黙った。


「無茶するなよ。」


「分かってる。」


その時。


教室の扉が開いた。


「席につけ。」


桐谷教官が入ってくる。


生徒たちが席に戻る。


桐谷は教壇に立つと、いつもより真剣な表情で口を開いた。


「今日の予定を変更する。」


教室が静かになる。


「昨日、学校周辺で発生した事件を受け、しばらく実戦形式の訓練を中止する。」


「代わりに、基礎訓練を徹底する。」


生徒たちから小さなどよめきが起きる。


「最近、事件が続いている。」


桐谷は続ける。


「だが、焦って強くなろうとするな。」


「戦場では、焦った人間から倒れる。」


悠真は黙って聞いていた。


その言葉は。


今の自分に向けられているような気がした。


昼休み。


食堂。


悠真は友人たちと昼食を取っていた。


「午後、基礎訓練だけか。」


林がため息をつく。


「最近ずっと事件の話ばっかりだし、仕方ないんじゃない?」


優奈が答える。


「でもさ。」


木村が箸を止める。


「昨日の旧訓練棟って、昔の第2部隊が使ってた場所なんでしょ?」


「そうらしい。」


高橋が答える。


「だったら、何か残ってるかもな。」


悠真の手が止まる。


「……。」


高橋が悠真を見る。


「どうした?」


「いや。」


悠真は笑う。


「なんでもない。」


だが。


頭の中では昨夜の資料が蘇っていた。


七年前。


第2の事件。


五年前。


48人の失踪。


そして――。


49人目。


「……。」


その時。


食堂の大型モニターがニュースへ切り替わった。


『昨日発生した旧訓練棟の倒壊について、現在も調査が続いています。』


生徒たちが画面を見る。


『なお、警察および討伐隊は、事件性は低いと――』


そこで映像が切り替わった。


『また、北部地域では、災厄級始祖種ドラグーンのものとみられる反応が――』


悠真が顔を上げる。


画面に映る。


巨大な黒い翼。


遠くから撮影された、不鮮明な映像。


「ドラグーン……。」


悠真は呟く。


胸の奥が、またざわついた。


なぜだ。


ただ名前を聞いただけなのに。


まるで――。


自分の中の何かが反応しているような。


その瞬間。


画面が一瞬だけ乱れた。


――ザザッ。


映像にノイズが走る。


そして。


ほんの一瞬。


画面の端に、見たことのない文字が表示された。


DRAGOON


悠真の目が見開かれる。


次の瞬間には、通常のニュース映像へ戻っていた。


「……今の。」


「どうした?」


林が尋ねる。


「いや……。」


悠真は画面を見つめる。


「なんでもない。」


放課後。


基礎訓練。


演習場。


「構えろ!」


桐谷の声が響く。


生徒たちが一斉に武器を構える。


「今日は能力を使わない。」


「純粋な身体能力と武器操作だけで行う。」


悠真は木刀を握る。


周囲では他の生徒たちが動き始めていた。


走る。


避ける。


打ち込む。


悠真も一人で訓練を続ける。


一振り。


二振り。


三振り。


以前よりも。


明らかに身体が動く。


高橋との訓練。


佐伯との戦い。


そして、これまで積み重ねてきた時間。


少しずつ。


だが確実に。


自分は変わっている。


「……もっとだ。」


悠真は木刀を握り直す。


「まだ足りない。」


その瞬間。


――ドクン。


胸の奥が脈打った。


「……っ?」


悠真が動きを止める。


頭の中に。


一瞬だけ映像が流れた。


暗闇。


巨大な翼。


黄金の瞳。


そして――。


自分の手。


その手に、黒い鱗のようなものが浮かんでいる。


「……何だ、今の。」


頭を押さえる。


「神崎!」


桐谷が気づく。


「どうした!」


「大丈夫です!」


悠真は顔を上げる。


だが。


胸の奥に残った感覚は消えない。


ドラグーン。


なぜ自分は――。


あいつを見るたびに、こんな感覚になる?


訓練終了後。


悠真は一人で演習場に残った。


木刀を地面に置く。


「……ドラグーン。」


小さく名前を呟く。


その瞬間。


――ドクン。


まただ。


今度ははっきりと。


頭の中に声が響いた。


『……まだ早い。』


悠真が振り返る。


誰もいない。


「誰だ?」


返事はない。


ただ。


演習場の地面に、一瞬だけ黒い影が映った。


翼。


巨大な翼。


悠真が目を凝らす。


すると。


影は消えた。


「……。」


何だったんだ。


その時。


端末が振動する。


メッセージ。


送り主は――不明。


悠真が開く。


『49人目を探すな。』


「……!」


続けて。


『お前が探しているものは、もうお前の中にある。』


悠真の表情が変わる。


「……俺の中?」


さらに一行。


『ドラグーン。』


画面が暗転する。


悠真は息を呑んだ。


「……ドラグーンが、俺の中に?」


だが。


すぐに端末は通常画面へ戻った。


「……そんなわけない。」


自分は完全不適合者。


適合率――0.00%。


モンスターエネルギーを受け入れることすらできなかった。


それなのに。


なぜ。


ドラグーンという名前だけが。


自分の中で引っかかる。


夜。


廃墟。


謎の男は一人、窓の外を見ていた。


ローブの人物が後ろに立つ。


「神崎悠真が、ドラグーンについて知り始めています。」


男は答えない。


「計画を変更しますか?」


「必要ない。」


男は静かに言った。


「まだ、あいつは何も知らない。」


「ですが――。」


「それに。」


男は空を見る。


遠く。


雲の向こう。


何か巨大なものが動いたように見えた。


男は目を細める。


「ドラグーンが動く理由は、俺にも分からない。」


それ以上は語らなかった。


深夜。


悠真の部屋。


机の上には、これまで集めた資料。


7年前――第2の悲劇。


5年前――48人失踪。


そして。


新しく書き足した。


49人目――不明。


悠真はペンを置く。


「……。」


分からない。


事件も。


あの男も。


49人目も。


そして。


自分自身も。


悠真はベッドへ横になる。


目を閉じる。


――その瞬間。


再び夢が始まった。


暗闇。


何もない。


ただ。


遠くに一つの光。


悠真が歩いていく。


近づく。


近づく。


そして。


光の中に――。


巨大な黒い翼が浮かび上がる。


「……ドラグーン?」


黄金の瞳が開く。


悠真を見つめる。


だが。


襲ってこない。


ただ。


じっと見ている。


悠真も動けなかった。


そして。


初めて。


声が聞こえた。


低く。


遠く。


それでも確かに。


『……お前か。』


「……!」


悠真が息を呑む。


『ようやく――。』


『見つけた。』


その瞬間。


夢の世界が崩壊した。


「――っ!」


悠真が飛び起きる。


午前3時。


荒い呼吸。


心臓が激しく鳴っている。


「……今の。」


悠真は胸に手を当てる。


そして。


窓を見る。


そこには。


紫色の文字が浮かんでいた。


『49人目を探す必要はない。』


悠真は息を呑む。


文字が変わる。


『お前自身が、49人目だから。』


「……俺が?」


文字は消える。


静かな部屋。


悠真は一人、呆然と立ち尽くす。


そして。


誰も知らない場所で。


遥か北方。


夜空を覆うほど巨大な黒い翼が――。


ゆっくりと動いた。

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