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第25話 7年前の生存者

――翌朝。


国立能力者養成機関。


一年A組。


悠真は、ほとんど眠れないまま朝を迎えていた。


机の上には、昨夜書いたメモ。


12年前――第1の悲劇。


7年前――第2の事件。


5年前――48人失踪。


そして、その下に。


『7年前の生存者を探せ。』


悠真はその文字を見つめる。


「……生存者。」


昨日届いたメッセージ。


48人の中に生きている者がいる。


そして、次に探すべきは――7年前の生存者。


「一体、誰なんだ……。」


「悠真?」


顔を上げる。


林翔太がこちらを見ていた。


「さっきから何か考え込んでない?」


「……ちょっとな。」


「また事件のこと?」


「うん。」


林は少し心配そうにする。


「無理すんなよ。」


「大丈夫。」


悠真はメモを閉じた。


その時。


――ガラッ。


桐谷教官が教室へ入ってくる。


「席につけ。」


生徒たちが一斉に静かになる。


「今日は午前中、通常授業だ。」


「午後は基礎戦闘訓練を行う。」


いつもと変わらない授業。


だが。


悠真の頭の中には、昨日の資料庫で見つけた数字が残っていた。


47。


そして。


48人。


何かがおかしい。


「……。」


悠真は窓の外を見る。


五年前に消えた48人。


その中には、7年前の事件を生き残った二人がいる。


ならば――。


その二人を知っている人間が、学校か討伐隊にいるはずだった。


昼休み。


食堂。


一年A組の生徒たちは、いつものように昼食を囲んでいた。


「そういえば神崎。」


高橋陽斗が口を開く。


「昨日、資料庫に行ったんだって?」


悠真の箸が止まる。


「……なんで知ってる?」


「顔に書いてある。」


「書いてないだろ。」


高橋が笑う。


「まあいいけど。」


「何か見つけたのか?」


悠真は少し迷った。


だが。


「……五年前の48人について調べてる。」


その言葉に、林が反応する。


「またその話か。」


「うん。」


「でも、学校の資料なんてほとんど消されてるんだろ?」


「そうなんだ。」


悠真は答える。


「だから、別のところから調べようと思ってる。」


藤原優奈が首を傾げる。


「別のところって?」


悠真は答えなかった。


その時。


食堂の大型モニターにニュースが流れる。


『続いて、討伐隊に関するニュースです』


生徒たちの視線が集まる。


『日本対モンスター討伐隊は、過去の戦闘記録の再整理を進めています』


『特に、過去に発生した複数の大規模事件について――』


そこで画面が切り替わる。


悠真は目を細めた。


一瞬だけ。


古い写真が映った。


ZERO FORCE。


そして――。


若い頃の佐伯隼人。


その隣に。


見覚えのある男。


「……!」


悠真は立ち上がりそうになる。


だが。


写真はすぐに別の映像へ切り替わった。


「今の……。」


高橋が呟く。


「何?」


「いや……。」


悠真は座り直す。


そして。


決意する。


――佐伯に聞く。


放課後。


演習場。


訓練を終えた悠真は、佐伯隼人を探していた。


しかし。


見つからない。


討伐隊の詰所へ向かおうとした、その時。


「神崎。」


後ろから声がした。


振り返る。


佐伯だった。


「佐伯隊員。」


「俺を探してたか?」


「はい。」


佐伯の表情が変わる。


「……7年前のことか?」


悠真は驚いた。


「どうして……。」


「お前の顔を見れば分かる。」


佐伯は小さく息を吐く。


「場所を変えよう。」


二人は誰もいない訓練施設の一室へ入った。


扉が閉まる。


佐伯は椅子に座った。


「どこまで知ってる?」


「7年前に事件があったこと。」


「それから?」


「生存者が二人いたこと。」


佐伯は黙る。


「そして、その二人が……5年前に消えた48人の中にいた。」


佐伯の目が僅かに動く。


「……そこまで調べたのか。」


「はい。」


悠真は続ける。


「でも、7年前に何があったのかが分からない。」


佐伯はしばらく黙っていた。


やがて。


「……7年前。」


低い声で話し始める。


「あいつは教官だった。」


悠真は黙って聞く。


「第2部隊の第一線を退いた後、若い隊員たちを育てていた。」


「俺はその頃、別の任務に出ていた。」


「だから、現場にはいなかった。」


佐伯の拳が少しだけ強く握られる。


「ある日。」


「演習場が襲撃された。」


「モンスターに?」


「ああ。」


「突然だった。」


佐伯は視線を落とす。


「訓練中の新兵たちは、ほとんど戦闘経験がなかった。」


「……。」


「多くが命を落とした。」


部屋が静まり返る。


「そして、あいつも右腕を失った。」


悠真は息を呑む。


夢の中で見た姿。


まだ右腕があった男。


その意味が、少しずつ繋がっていく。


「生存者は……二人。」


「そうだ。」


佐伯は頷く。


「二人は重傷だった。」


「それでも生き残った。」


「その二人は、その後どうなったんですか?」


佐伯は答えなかった。


数秒。


やがて。


「……5年前に消えた。」


「48人と一緒に。」


悠真の目が見開かれる。


「じゃあ……。」


「ああ。」


佐伯は言葉を続ける。


「7年前の事件の生存者二人は、5年前にあいつと一緒に消えた。」


「それだけじゃない。」


佐伯は悠真を見る。


「俺が知る限り、あいつが教官時代に育てた隊員の多くも、その遊撃隊にいた。」


悠真は息を呑む。


「つまり……48人は。」


「偶然集まった連中じゃない。」


佐伯の声が低くなる。


「同じ人間を信じていた連中だ。」


悠真は言葉を失う。


だが。


まだ一つ。


気になることがあった。


「……佐伯さん。」


「なんだ?」


「あの人は、なぜ5年前に消えたんですか?」


佐伯の表情が曇る。


「それは――。」


言葉が止まる。


「分からない。」


「ただ。」


佐伯は悠真を見る。


「あいつが消える直前。」


「俺たちの前から、何かを探していたのは覚えている。」


「何を?」


「……そこまでは知らない。」


悠真は俯く。


まだ足りない。


情報が。


あまりにも。


「でも。」


佐伯が立ち上がる。


「一つだけ言える。」


「はい。」


「7年前の事件と5年前の失踪事件。」


「この二つは、別の事件だ。」


「……。」


「だが。」


佐伯は扉へ向かう。


「二つを繋いでいる人間がいる。」


悠真が顔を上げる。


「それが――あいつだ。」


佐伯はそれだけ言って、部屋を出ていった。


悠真は一人残された。


「……。」


7年前。


右腕を失った男。


生存者二人。


そして。


5年前。


48人。


全てが、あの男へ繋がっている。


その夜。


悠真の寮。


机の上には新しいメモが増えていた。


12年前――妻子を失う。


7年前――教官時代の演習場が襲撃。


生存者――2名。


5年前――48人失踪。


悠真はペンを置く。


「……。」


ふと。


昨夜の夢を思い出す。


家族。


笑っていた男。


そして――。


巨大な影。


「本当に……あの人の記憶なのか?」


その時。


端末が震えた。


――ピッ。


メッセージ。


悠真は画面を見る。


送信者――不明。


『正しい。』


「……!」


続けて。


『七年前の二人は生きている。』


悠真の目が見開かれる。


「生きて……いる?」


さらに文字が表示される。


『だが、お前が探している場所にはいない。』


「じゃあ、どこに――。」


新しい文章。


『お前が追っている男の隣だ。』


悠真の呼吸が止まる。


その瞬間。


画面が消える。


「……。」


悠真は端末を握りしめる。


生存者二人。


今も生きている。


そして。


あの男の側にいる。


――なら。


次に調べるべきなのは。


その二人が、なぜあの男についていったのか。


その答えを知れば。


5年前の48人失踪事件にも近づける。


そして――。


同じ頃。


遠く離れた廃墟。


謎の男は、二人の人影と向かい合っていた。


顔は暗くて見えない。


ただ。


二人とも、黙って男の前に立っている。


「……まだ待て。」


男が言う。


二人は無言で頷く。


男は窓の外へ視線を向ける。


「まだ、神崎悠真の物語は始まったばかりだ。」


その言葉の直後。


遠い空。


一瞬だけ――。


巨大な黒い翼が月を覆った。


男が目を細める。


「……ドラグーン。」


そして。


静かに呟く。


「お前も、もうすぐ動き始めるか。」


夜空から、黒い影が消える。


残されたのは。


静寂だけだった。

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