第23話 7年前
――午前3時。
悠真は眠っていた。
深い眠りの中。
また、あの紫色の光が現れる。
暗闇。
その中央に、数字だけが浮かんでいた。
『7年前』
悠真はゆっくりと歩き出す。
「……また、過去か。」
一歩。
また一歩。
暗闇の先に、何かが見えてくる。
建物。
訓練場。
そして――。
聞き覚えのある声。
「全員、集合!」
悠真は目を見開く。
「……あの男。」
そこにいたのは、まだ若い謎の男だった。
右腕がある。
黒い装甲もない。
そして、その前には大勢の若い隊員たち。
その数――。
45人。
悠真は息を呑む。
「この人たち……。」
5年前に消えた遊撃隊。
その中心となった、あの45人だった。
まだ何も知らない。
まだ、あの男についていくことになる未来も知らない。
男は隊員たちを見渡す。
「今日は実戦を想定した訓練だ。」
「能力だけに頼るな。」
「武器、身体能力、判断力。」
「全部使え。」
隊員たちが一斉に返事をする。
「はい!」
悠真は、その光景を見つめていた。
「……本当に教官だったんだ。」
その時。
訓練場の隅に二人の隊員が立っていた。
周囲の隊員とは少し違う。
年齢も高い。
そして――。
悠真には見覚えがあった。
「……この二人。」
7年前の事件を生き残り、5年前に消えた二人。
まだ若い頃の姿だった。
男が二人に声をかける。
「お前たちは後方の指導を頼む。」
「了解。」
二人は敬礼する。
その光景は、ごく普通の訓練風景だった。
穏やかだった。
少なくとも――。
この瞬間までは。
――ゴゴゴゴゴ……。
突然。
地面が揺れた。
「……?」
隊員たちが動きを止める。
男が空を見上げる。
「全員、警戒!」
次の瞬間。
訓練場の外壁が――。
吹き飛んだ。
――ドォォォン!!
「うわぁぁっ!」
「何だ!?」
瓦礫が飛び散る。
隊員たちが一斉に武器を構える。
男が叫ぶ。
「全員、隊列を組め!」
「能力を解放!」
リングが一斉に輝く。
炎。
雷。
風。
大地。
様々な能力が訓練場を駆け巡る。
悠真は息を呑む。
「これが……。」
その時。
瓦礫の向こうから――。
巨大な影が現れた。
モンスター。
しかも。
ただのモンスターではない。
隊員たちの攻撃が直撃する。
――ドンッ!!
だが。
モンスターは止まらない。
「効いてない……!?」
「距離を取れ!」
男が前へ出る。
「俺が止める!」
右腕から能力が噴き出す。
巨大な一撃がモンスターを吹き飛ばす。
――ズドォン!!
「今だ!」
隊員たちが一斉に攻撃する。
だが。
モンスターが起き上がる。
そして――。
一瞬だけ。
男を見る。
「……?」
男の表情が変わる。
何かがおかしい。
まるで。
このモンスターが――。
自分を知っているような。
その瞬間。
モンスターが突進する。
「避けろ!!」
――ドンッ!!
男の身体が吹き飛ぶ。
「教官!!」
45人が叫ぶ。
男は地面を転がりながら立ち上がる。
「俺はいい!」
「お前たちは下がれ!」
しかし。
モンスターは再び襲いかかる。
男が能力を解放する。
「――来い!!」
激突。
轟音。
地面が砕ける。
悠真は、その戦いを見つめる。
「……何だよ、これ。」
夢のはずなのに。
あまりにもリアルだった。
そして――。
男の右腕が、モンスターの攻撃を受ける。
「――ぐっ!」
「教官!」
男が膝をつく。
その瞬間。
映像が大きく歪んだ。
「待って!」
悠真が叫ぶ。
だが。
夢は止まらない。
炎。
煙。
叫び声。
次々と隊員たちが倒れていく。
「やめろ……。」
悠真は耳を塞ぐ。
「もういい……。」
しかし。
最後に残ったのは――。
二人の隊員だった。
あの二人。
そして。
片腕を失った男。
三人だけが、立っている。
男は失った右腕を押さえながら、二人を見る。
何かを話している。
だが。
声が聞こえない。
悠真は必死に近づく。
「何を話してるんだ……!」
その瞬間。
二人の表情が変わった。
恐怖。
そして――。
決意。
映像が止まる。
「……っ!」
悠真は目を覚ました。
午前4時。
息が荒い。
「……7年前。」
手が震えている。
「45人……。」
そして。
「生き残ったのは、二人。」
悠真はベッドから降りる。
窓の外を見る。
「……何を話してたんだ。」
あの二人は何を知っている?
なぜ5年前、48人の中に加わった?
そして――。
なぜ謎の男についていった?
翌朝。
国立能力者養成機関。
一年A組。
悠真は教室に入る。
「おはよう。」
「……おはよう。」
席につく。
だが。
今日はいつもと違った。
頭の中に、昨夜の映像が残っている。
「……。」
そこへ。
桐谷教官が入ってくる。
「席につけ。」
いつも通りの声。
だが。
悠真は桐谷を見る。
――この人は何か知っている。
そう感じた。
放課後。
演習場。
悠真は一人で木刀を振っていた。
「……。」
一振り。
二振り。
三振り。
そこへ。
「神崎。」
「……桐谷教官。」
桐谷が歩いてくる。
「昨日、眠れなかったか。」
悠真は驚く。
「……分かるんですか?」
「顔を見ればな。」
桐谷は演習場を見る。
「何を見た?」
悠真は答えに迷う。
そして。
「……7年前の事件です。」
桐谷の足が止まった。
ほんの一瞬。
だが。
悠真は見逃さなかった。
「知ってるんですか?」
「……。」
桐谷は答えない。
「俺は夢で見ました。」
「45人の隊員。」
「そして――。」
悠真は拳を握る。
「生き残った二人。」
桐谷の表情が変わる。
「その二人について、何か知っているんですか?」
長い沈黙。
やがて。
「……それ以上は聞くな。」
「どうしてですか?」
「知らない方がいいこともある。」
「でも――。」
悠真が一歩前へ出る。
「俺は知りたいんです。」
桐谷は悠真を見る。
「なぜだ。」
「俺が狙われている理由を知りたい。」
「そして。」
悠真は木刀を握る。
「俺の前に現れたあの男が、何をしようとしているのか知りたい。」
桐谷はしばらく黙っていた。
「……そうか。」
そして。
「なら覚えておけ。」
桐谷は静かに言った。
「7年前の事件について、今も口を閉ざしている人間がいる。」
「その中には――。」
一瞬、言葉を止める。
「生き残った二人も含まれている。」
悠真の目が見開かれる。
「……やっぱり。」
「だが。」
桐谷は悠真に背を向ける。
「その沈黙には理由がある。」
「理由……?」
「それを知るのは――。」
桐谷は歩きながら言った。
「本人たちだけだ。」
夜。
どこかの廃墟。
47人の人影が並んでいる。
その前に――。
謎の男。
二人の生存者も、その中にいる。
男は二人を見る。
「……まだ覚えているか。」
二人は黙っている。
「7年前のことを。」
一人が拳を握る。
「忘れるわけがない。」
もう一人が低く答える。
「俺たちは、あの日からずっと……。」
男が遮る。
「言うな。」
二人が黙る。
男は二人を見る。
「まだ、その時じゃない。」
「……分かっている。」
男は視線を逸らす。
「お前たちが生き残った理由も。」
「俺が、お前たちを連れて行った理由も。」
「すべては――。」
男の胸元。
赤い光が一瞬だけ揺れる。
その奥に、紫色の光が重なる。
「五年前に始まったんじゃない。」
男は静かに呟く。
「もっと前から始まっていた。」
同じ頃。
悠真は眠れず、寮の窓から夜空を見ていた。
「12年前。」
「7年前。」
「5年前。」
三つの数字。
そして。
あの男。
「……全部、繋がってる。」
その瞬間。
窓ガラスに文字が浮かぶ。
『次は、最後の48人を見ろ。』
悠真の目が見開かれる。
「……48人。」
文字が消える。
代わりに――。
一枚の映像が浮かんだ。
48人が並んでいる。
謎の男。
そして47人。
その全員が――。
こちらを向いていた。
そして。
映像の中の謎の男が。
まるで悠真に話しかけるように、口を動かす。
『俺たち48人は――』
そこで映像が途切れた。
悠真は息を呑む。
「……何を言おうとした?」
答えは返ってこない。
ただ。
最後に一つだけ文字が浮かんだ。
『次で、すべてが変わる。』




