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第21話 記憶の中の48人

――夢。


謎の男は、立っていた。


目の前に広がっているのは、懐かしい場所。


ZERO FORCE。


第2部隊の演習場。


「……。」


男は、自分の右腕を見る。


ある。


まだ失っていない。


傷もない。


そして――。


「教官!」


遠くから声が聞こえた。


振り返る。


そこには、若い隊員たちがいた。


45人。


まだ何も知らない。


まだ何も失っていない。


その中には、後に自分についてくることになる者たちの姿もあった。


「今日の訓練、お願いします!」


「準備はできています!」


男は、かつての自分を見つめる。


「……。」


懐かしかった。


あまりにも。


男は一歩、前へ進む。


だが――。


誰も自分に気づかない。


まるで、自分だけがこの世界から切り離されているようだった。


「……夢か。」


その時。


若い自分が、隊員たちへ向かって叫ぶ。


「全員、構えろ!」


45人が一斉に武器を構える。


そして。


その中に――。


二人の見慣れた顔があった。


男は目を細める。


「……。」


あの事件を生き残った二人。


まだ若かった頃の姿。


男は二人を見る。


「お前たちも……。」


その瞬間。


演習場の景色が歪んだ。


――ゴゴゴゴゴ……。


空が黒く染まる。


隊員たちの姿が消えていく。


男が振り返る。


「待て!」


だが。


誰もいない。


静まり返った演習場。


男の足元に、一枚の写真が落ちる。


拾い上げる。


家族写真。


妻。


そして子供。


「……。」


男の表情が変わる。


次の瞬間。


――ドンッ!!


目の前の景色が一気に崩れた。


「……っ!」


男は目を覚ました。


暗い部屋。


荒い呼吸。


右腕の義手を見つめる。


「……また、あの頃か。」


机の上には古い写真。


男はそれを手に取る。


第2部隊にいた頃の写真。


そこには――。


若き日の自分。


そして、佐伯隼人。


「……佐伯。」


男は写真を見つめる。


「お前は、今も何も知らないんだな。」


しばらく沈黙する。


そして。


写真を裏返した。


その裏には、古い日付が記されていた。


12年前。


男の目が細くなる。


「……もう12年か。」


翌朝。


国立能力者養成機関。


一年A組。


教室には、いつも通り生徒たちが集まっていた。


「おはよう、悠真。」


「おはよう。」


悠真は席につく。


だが。


頭の中には昨夜の夢が残っていた。


若い男。


45人の隊員。


そして――。


家族写真。


「……。」


夢の最後に見えたものが気になって仕方がない。


すると。


ガラッ。


桐谷教官が教室へ入ってきた。


「席につけ。」


生徒たちが静かになる。


「昨日のゲート事件について、追加の情報がある。」


教室がざわつく。


「現場周辺の調査は終了した。」


「現在、危険性は確認されていない。」


そこで桐谷は一度言葉を止める。


「ただし。」


「ゲートから現れた人物については、引き続き情報を伏せる。」


悠真は顔を上げた。


やはり。


学校も何かを知っている。


昼休み。


悠真は屋上へ向かった。


フェンスの向こうを見る。


昨日、ゲートが現れた方向。


「……。」


その時。


「神崎。」


振り返る。


佐伯隼人だった。


「佐伯隊員。」


「昨日の話、少し続きがある。」


佐伯は悠真の隣に立った。


「俺とあいつが一緒だったのは、あいつが第2部隊にいた頃だ。」


「その後、あいつは第一線を退いて教官になった。」


「俺は別の任務に移った。」


悠真は頷く。


「だから、教官時代のことは詳しくない。」


「はい。」


「だが――。」


佐伯は端末を取り出す。


「教官時代に、あいつが育てていた隊員たちがいたことは知っている。」


画面に古い資料が映る。


そこには――。


48名


という数字。


「48人……。」


「ああ。これは5年前モンスター討伐中に消えた遊撃隊の人数だ」


佐伯は続ける。


「そして、あの中には7年前の生存者が二人いた。」


悠真は目を見開く。


佐伯は端末を閉じる。


悠真がつぶやく


「……48人。」


佐伯は頷いた。


「あいつを含めればな。」


その頃。


IAMDA日本支部。


地下研究局。


黒崎蓮司は、昨日のゲート事件のデータを確認していた。


「赤色反応は?」


「既存のモンスターエネルギーと一致しています。」


「つまり、あの男が元々持っていた能力と考えていいな。」


「はい。」


黒崎は画面を見る。


「問題は紫だ。」


画面に紫色の波形が表示される。


「こちらは既存のデータと一致しません。」


「始祖種も?」


「全て照合しました。」


「……それでもか。」


「はい。」


黒崎はしばらく黙る。


「まるで……別の存在が、あの男の中にいるようだ。」


研究員が息を呑む。


「融合、という可能性は?」


黒崎は答えなかった。


ただ。


紫色の波形を見つめ続けていた。


放課後。


演習場。


悠真は木刀を振っていた。


一振り。


二振り。


三振り。


「……。」


頭の中には、佐伯の話。


48人。


そして。


昨夜の夢。


悠真は木刀を止める。


「……俺が見たのは、あの人の記憶なのか?」


その瞬間。


「神崎。」


桐谷教官が現れた。


「まだ残っていたか。」


「はい。」


桐谷は悠真を見る。


「何か分かったか?」


「まだ……何も。」


「なら、今は鍛えろ。」


「はい。」


悠真は木刀を構える。


「俺は能力がありません。」


「知っている。」


「だからこそ。」


悠真は木刀を握り直す。


「自分の力で、何ができるのか確かめたいです。」


桐谷は僅かに笑った。


「なら、振れ。」


「はい!」


悠真は再び木刀を振り始めた。


夜。


寮。


悠真は眠りについた。


――そして。


再び夢を見る。


今度は違う。


目の前に広がっていたのは――。


一軒の家。


穏やかな夕暮れ。


玄関から、一人の男が出てくる。


若い頃の謎の男。


右腕がある。


その手には――。


小さな袋。


「ただいま。」


家の中から声が返ってくる。


「おかえり。」


悠真は息を呑む。


「……家族。」


妻。


そして子供。


男は笑っている。


今まで見たことのない笑顔だった。


悠真は、その光景を見つめる。


「こんな顔……するんだ。」


その瞬間。


――ザッ。


映像にノイズが走る。


笑顔が消える。


空が暗くなる。


そして。


家の外から――。


巨大な影が現れた。


悠真の目が見開かれる。


「……!」


男が振り返る。


「逃げろ!」


妻と子供を庇うように前へ出る。


だが――。


夢がそこで途切れた。


「待って!」


悠真が叫ぶ。


しかし。


何も見えない。


暗闇の中。


一つだけ声が聞こえた。


『これが――』


『最初の悲劇。』


悠真が振り返る。


誰もいない。


ただ。


紫色の文字だけが浮かび上がる。


『記憶は真実を映す。』


そして。


その下に新たな文字。


『だが、すべての真実を映すわけではない。』


悠真は息を呑む。


「……どういう意味だ?」


文字が消える。


そして最後に。


一つだけ残った。


『五年前。』


悠真の目が見開かれる。


男はまだ知らない。


悠真が、自分の過去を見始めていることを。


そして悠真もまだ知らない。


「48人」が消えた本当の理由を。

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