↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/29

第19話 ゲート

あの校内放送から、数分後。


国立能力者養成機関。


校内には緊急警報が鳴り響いていた。


『校外約2.5キロ地点に、ゲート反応を確認。』


『周辺5キロ圏内を封鎖します。』


『生徒は指定された避難区域へ移動してください。』


教室から次々と生徒が出ていく。


一年A組も例外ではない。


「ゲート……?」


「こんな学校の近くに?」


生徒たちの間に不安が広がる。


悠真は窓の外を見ていた。


遠くの空が、僅かに歪んでいる。


「……あいつ。」


さっきの放送。


あの男の声。


偶然とは思えなかった。


「悠真。」


青木が隣に立つ。


「まさか……行くつもりじゃないよな?」


悠真は答えない。


「悠真!」


「……確かめたい。」


「何を?」


「俺を呼んだ理由を。」


青木は頭を抱える。


「お前、本当に無茶するよな……。」


悠真は木刀を手に取る。


「何も分からないまま、逃げるのは嫌なんだ。」


青木はしばらく悠真を見る。


そしてため息をついた。


「……分かった。」


「え?」


「俺も行く。」


「青木。」


「一人で行かせたら、絶対ろくなことにならない。」


二人は避難する生徒たちとは逆方向へ走り出した。


約2.5キロ先。


市街地。


すでに周囲5キロは完全封鎖されていた。


道路には討伐隊の車両。


上空には監視ドローン。


周辺住民も避難を終え、街から人の姿が消えている。


そして――。


空に巨大な裂け目があった。


ゲート。


佐伯隼人は、その異様な光景を見上げていた。


「……学校まで封鎖区域に入ったか。」


通信機から声が入る。


『はい。現在、生徒たちを校内へ収容しています。』


「分かった。」


佐伯はゲートへ視線を戻す。


「今回は……何かがおかしい。」


「何がです?」


隊員が尋ねる。


「モンスターエネルギーの反応が少なすぎる。」


その時。


ゲートが大きく揺れた。


――ゴゴゴゴゴ……。


「来るぞ!」


隊員たちが一斉に構える。


ゲートの奥から、巨大な影が飛び出した。


「モンスター確認!」


「B級!」


「迎撃開始!」


炎。


雷。


風。


複数の能力が一斉に放たれる。


モンスターが咆哮し、道路を破壊しながら突進する。


「右から来る!」


佐伯が叫ぶ。


隊員が横へ飛ぶ。


モンスターの爪が地面を削る。


「今だ!」


佐伯が懐へ入り込む。


一撃。


二撃。


モンスターの外皮に亀裂が走る。


「そこだ!」


別の隊員が能力を叩き込む。


――ドォン!!


モンスターが倒れる。


「討伐完了!」


隊員たちが息を吐く。


だが。


佐伯だけは動かなかった。


「……待て。」


「どうしました?」


「まだだ。」


佐伯はゲートを見る。


モンスターが出てきた。


それなのに。


ゲートが消えない。


むしろ――。


先ほどより大きく揺れている。


「何かいる。」


その瞬間。


コツ。


足音が聞こえた。


隊員たちの表情が変わる。


コツ。


もう一歩。


「……人?」


誰かが呟いた。


ゲートの奥。


そこに、人影が立っていた。


「ありえない……。」


隊員の一人が後ずさる。


「ゲート内部には入れないはずだ。」


「いや。」


別の隊員が震えた声で答える。


「入ることはできる。」


「でも――。」


全員が知っている。


ゲート内部の環境に、人間の肉体は耐えられない。


だからこそ。


ゲートの向こうへ行くことは、事実上の不可能だった。


「まさか……。」


人影が一歩前へ進む。


そして。


ゲートの外へ出た。


誰も動かなかった。


男は普通に立っている。


呼吸している。


傷もある。


血も流れている。


それでも――。


生きている。


「……嘘だろ。」


「人間が……。」


「ゲートから出てきた……?」


隊員たちの顔から血の気が引く。


佐伯でさえ、言葉を失っていた。


男は黒いマントを纏っている。


装甲は傷だらけ。


ところどころ塗装が剥がれ、内部の機械が露出している。


そして――。


左肩。


そこには巨大なドラゴンの頭部を模した異形のアーマーが取り付けられていた。


男はゆっくりと顔を上げる。


「……止まれ!」


隊員が叫ぶ。


「それ以上近づくな!」


男は止まらない。


一歩。


また一歩。


リミットリングが一斉に起動する。


武器が構えられる。


「警告する!」


男は無言。


その右腕が僅かに動く。


異形の機械義手。


クリアパーツの内部を、赤い液体と紫色の光が流れている。


「……何なんだ。」


隊員が呟く。


佐伯は男を見つめる。


その姿。


その声。


そして――。


どこかで見たことのある気配。


「お前……。」


男が佐伯を見る。


そして。


初めて口を開いた。


「……佐伯。」


佐伯の瞳が大きく開く。


「……なぜ、俺の名前を知っている。」


男は答えない。


ただ佐伯を見つめている。


その瞬間。


佐伯の脳裏に、一瞬だけ映像が走った。


若い頃の自分。


仲間たち。


そして――。


まだ右腕のある、一人の隊員。


「……!」


頭痛が走る。


「ぐっ……!」


佐伯が頭を押さえる。


「佐伯隊員!」


隊員が駆け寄る。


だが。


男はその隙に、ゲートへ振り返った。


「待て!」


佐伯が叫ぶ。


男が振り返る。


その視線が――。


佐伯から離れ。


遠くへ向く。


そこには。


封鎖区域の外からこちらを見ている――。


悠真がいた。


「……!」


悠真と男の視線が重なる。


一瞬。


男は何も言わなかった。


ただ。


悠真を見つめる。


そして――。


口元だけが僅かに動いた。


悠真には聞こえない。


何を言ったのかも分からない。


次の瞬間。


男の周囲を紫色の霧が包む。


「待て!」


佐伯が駆け出す。


しかし。


霧が晴れた時。


男の姿は消えていた。


残されたのは――。


静まり返ったゲートだけ。


「……今の、何だったんだ。」


青木が呟く。


悠真は答えない。


ずっとゲートを見ている。


「悠真?」


「……俺を見てた。」


「え?」


「あいつ。」


悠真は木刀を握り締める。


「確実に、俺を見てた。」


その時。


ゲートが突然大きく揺れ始めた。


「全員、下がれ!」


佐伯が叫ぶ。


ゲートが急速に縮んでいく。


そして――。


消えた。


完全な静寂。


隊員たちも、誰も動かなかった。


やがて一人の隊員が呟く。


「……ゲートから人間が出てきた。」


「しかも。」


「生きていた。」


佐伯は答えない。


ただ、ゲートが消えた場所を見つめている。


そして。


地面に何かが落ちていることに気づいた。


「……何だ?」


佐伯が拾い上げる。


古い写真だった。


若いZERO FORCEの隊員たち。


その中に――。


まだ右腕を失っていない、あの男。


佐伯の表情が凍る。


「……。」


悠真も写真を見る。


「この人……。」


佐伯は答えない。


写真の裏には、何も書かれていなかった。


ただ。


写真の端に、小さな血痕だけが残っていた。


その夜。


IAMDA日本支部。


黒崎蓮司は、ゲート事件の映像を何度も再生していた。


「停止。」


映像が止まる。


ゲートから男が出てくる瞬間。


「……ありえない。」


研究員が震えた声で答える。


「はい。」


「ゲート内部の環境では、通常の人間は活動できません。」


「それは知っている。」


黒崎は映像を睨む。


「問題は――。」


男の姿を拡大する。


「こいつが、どうやって出てきたのかだ。」


研究員が答える。


「現在、原因は不明です。」


黒崎はしばらく黙る。


そして。


「……この男を最優先監視対象に指定しろ。」


「名前は?」


黒崎は答えなかった。


まだ、名前すら分からない。


ただ一つ。


分かっていることがある。


あの男は――。


人間が生きて帰れない場所から、生きて出てきた。


そして。


その男が、なぜか神崎悠真を見ていた。


深夜。


廃墟となった建物。


男は一人、窓の外を見ていた。


右腕のクリアパーツの中で、紫色の光が揺れる。


その隣を赤い液体が流れていく。


男は小さく呟いた。


「……まだ早い。」


そして。


机の上に置かれた一枚の写真を見る。


若き日のZERO FORCE。


写真の中では。


まだ誰もが笑っていた。


男は写真を伏せる。


「神崎悠真。」


その声だけが、暗闇に響いた。


「お前なら――。」


そこで言葉を止める。


男は窓の外へ視線を向ける。


遠くには、国立能力者養成機関の明かり。


「……いや。」


「まだ、何も知らなくていい。」


男はその場を立ち去った。


その頃。


悠真は寮の部屋で、昼間の光景を思い返していた。


ゲート。


あの男。


そして――。


自分を見た、あの目。


「……あいつは。」


悠真は窓の外を見る。


「一体、何者なんだ。」


答えはまだ――。


闇の中だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。