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第18話 失われた英雄

あの夜から、二日――。


国立能力者養成機関では、以前にも増して警備が強化されていた。


校門には討伐隊。


校舎内には警備員。


そして、生徒たちのリミットリングは毎朝点検されるようになった。


だが――。


犯人の姿は、どこにもなかった。


一年A組。


朝のホームルーム。


教室には、どこか落ち着かない空気が漂っていた。


「なあ……。」


林翔太が周囲を見渡す。


「最近、毎日警備員いるよな。」


「当然でしょ。」


藤原優奈が答える。


「私たち自身が狙われたんだから。」


「……そうなんだよな。」


青木翔が悠真を見る。


「悠真。」


「ん?」


「昨日の夢……本当にあの男だったのか?」


悠真は少し黙った。


「分からない。」


「でも……。」


拳を握る。


「俺は確かに、あいつの過去を見た。」


「ZERO FORCEの隊員たちと一緒にいた。」


その言葉に、高橋陽斗が反応する。


「ZERO FORCEの元隊員……?」


「たぶん。」


「なら、内部事情を知っていてもおかしくない。」


教室の空気が重くなる。


その時。


ガラッ。


桐谷教官が入ってきた。


「席につけ。」


生徒たちが一斉に静かになる。


「今日は実戦訓練を行う。」


演習場。


生徒たちはそれぞれ武器を構える。


桐谷教官が説明する。


「今回の訓練は、能力を使った近接戦闘。」


「実戦では、能力だけで戦うことはできない。」


「武器。」


「身体能力。」


「判断力。」


「すべてを組み合わせろ。」


悠真は木刀を握る。


相手は――。


高橋陽斗。


「神崎。」


高橋が槍を構える。


「手加減はしない。」


「分かってる。」


開始の合図。


――ピッ!


高橋が一瞬で距離を詰める。


「速い!」


悠真が木刀で受ける。


ガァン!


衝撃で腕が痺れる。


「くっ……!」


高橋が槍を引く。


次の一撃。


悠真は横へ飛ぶ。


槍が地面を叩く。


「まだだ!」


悠真が踏み込む。


木刀を横薙ぎに振る。


高橋が槍の柄で受ける。


「前より速くなったな。」


「……!」


悠真がさらに踏み込む。


「だったら――!」


木刀を振り上げる。


高橋は槍を構える。


「ここだ。」


二人が同時に動く。


――ガキィン!!


武器がぶつかる。


その瞬間。


高橋が足を滑らせた。


「しまっ――。」


悠真は咄嗟に木刀を止めた。


高橋の目の前で、木刀が止まる。


「……。」


高橋が悠真を見る。


「今、止めたな。」


「当たったら危ないから。」


「実戦なら?」


悠真は答えられなかった。


桐谷が遠くから叫ぶ。


「神崎!」


「はい!」


「戦場で迷えば、自分も仲間も死ぬぞ!」


悠真は木刀を見る。


「……はい。」


高橋は槍を下ろす。


「だが。」


「?」


「お前らしい。」


高橋が小さく笑った。


訓練終了後。


悠真は一人で演習場に残っていた。


桐谷の言葉が頭から離れない。


「迷えば……死ぬ。」


その時。


「神崎。」


振り返る。


佐伯隼人だった。


「佐伯隊員!?」


「久しぶりだな。」


まだ完全には回復していない。


しかし、自分の足で立っている。


「もう大丈夫なんですか?」


「大丈夫とは言えないな。」


佐伯は苦笑する。


「でも、寝てるだけってのも性に合わない。」


悠真は少し笑う。


「……この前は、ありがとうございました。」


「何が?」


「俺の動き。」


「前に戦ったときより良くなったって言ってくれたこと。」


佐伯は一瞬黙った。


「覚えてたのか。」


「はい。」


佐伯は悠真を見る。


「なら、もっと良くなれ。」


「え?」


「次に戦う時は――。」


佐伯が拳を握る。


「俺が本気を出しても追いつけないくらいにな。」


悠真も木刀を握る。


「分かりました。」


二人の間に、短い沈黙が流れる。


その時。


佐伯の表情が変わった。


「……神崎。」


「はい?」


「一つだけ聞きたい。」


「何ですか?」


「最近、夢を見るか?」


悠真の動きが止まる。


「……どうして?」


「俺も、事件の後から変な夢を見る。」


佐伯は空を見上げる。


「昔のことだ。」


「ZERO FORCEに入ったばかりの頃。」


「仲間と戦っていた時の夢。」


悠真は目を見開く。


「佐伯さんも……?」


「ああ。」


佐伯は少しだけ苦しそうに笑う。


「でも、妙なんだ。」


「夢の中の記憶が……一部だけ消えてる。」


「まるで誰かに、そこだけ隠されてるみたいに。」


悠真は思い出す。


あの男。


そして――。


夢の中で見えた、過去。


「……俺も。」


「え?」


「同じような夢を見ました。」


佐伯の表情が変わる。


「そうか。」


その瞬間。


――ピッ。


二人のリミットリングが同時に反応した。


「……!」


赤い警告表示。


UNKNOWN SIGNAL


「何だ!?」


桐谷が演習場へ駆け込んでくる。


「全員、警戒態勢!」


しかし。


警告はすぐに消えた。


「……止まった。」


桐谷がリングを見る。


「今の信号……。」


佐伯が呟く。


「俺の事件の時と同じだ。」


その頃。


IAMDA地下研究局。


黒崎蓮司がモニターを睨んでいた。


「発信源は?」


「特定できません!」


「またか……。」


「しかし、今回は一つだけ違います。」


研究員が画面を拡大する。


そこには二つの反応。


佐伯隼人


神崎悠真


「二人のリングが、同時に反応しています。」


黒崎の表情が険しくなる。


「……偶然じゃない。」


「では、何が目的で?」


黒崎は答えない。


やがて。


「二人の過去を繋げようとしている。」


夜。


廃工場。


黒いマントの男が、一人で古い写真を見ていた。


写真には若き日のZERO FORCE。


その中央に、明るく微笑む男。


隣には――。


佐伯と同じ部隊章をつけた隊員。


男は写真を指でなぞる。


「……あの頃は。」


「俺も、信じていた。」


ローブの人物が尋ねる。


「何を?」


「正義を。」


男は答える。


「仲間を。」


「そして、この組織が人を守る場所だと。」


一瞬。


男の顔から憎しみが消える。


そこにいたのは、ただの若い兵士だった。


「家族を失っても。」


「俺は戦った。」


「モンスターに奪われたなら、他の誰かを守ればいいと思った。」


拳を握る。


「だから、裏切られた時も……。」


声が止まる。


「……まだ信じようとした。」


ローブの人物は黙っている。


男は写真を伏せた。


「だが。」


「俺の右腕を奪ったあいつは。」


「俺より先に昇格した。」


「そして――。」


男の目が冷たくなる。


「俺だけが、捨てられた。」


その瞬間。


男の周囲に紫色の霧が広がる。


霧の中に、一つの映像が浮かぶ。


燃える街。


逃げ惑う人々。


そして――。


幼い子どもの姿。


男は目を閉じる。


「……もう二度と。」


「同じ思いをする人間を作らない。」


ローブの人物が問う。


「だから、能力者たちを実験に?」


男は答える。


「違う。」


「俺が壊したいのは――。」


男は振り返る。


「この世界の『正義』だ。」


翌朝。


悠真は一人、校舎の廊下を歩いていた。


昨夜の出来事が頭から離れない。


佐伯との会話。


夢。


UNKNOWN SIGNAL。


そして、あの男。


その時。


廊下の窓に、紫色の光が映った。


「……!」


悠真が振り返る。


誰もいない。


しかし。


ガラスに、一瞬だけ文字が浮かんだ。


「夢は記憶を隠さない。」


悠真の目が見開かれる。


文字はすぐに消えた。


「……どういう意味だ?」


その瞬間。


校内放送が鳴り響く。


『緊急警報。』


『校外に未確認のゲート反応を確認。』


『全生徒は直ちに――』


放送が途切れる。


そして。


別の声が割り込んだ。


『神崎悠真。』


悠真が凍りつく。


『お前が知りたいなら――。』


『来い。』


一瞬の沈黙。


『次は、お前自身の目で見せてやる。』


放送が切れる。


悠真は拳を握る。


「……逃げるわけないだろ。武器は、、、何もないよりマシか。」


木刀を背負う。


そして――。


校外へ向かって走り出した。

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