第15話 壊れた正義
佐伯隼人の異常状態から、数分後――。
ZERO FORCE第2部隊。
「佐伯隊員!」
佐伯は地面に片膝をついていた。
リミットリングが激しく明滅している。
「近づくな……!」
「でも!」
「来るなッ!!」
次の瞬間。
ドンッ!!
凄まじい衝撃が周囲を走った。
地面が砕け、隊員たちが吹き飛ばされる。
「うわぁっ!」
「佐伯隊員の能力出力がさらに上昇しています!」
佐伯の身体から、制御しきれない能力エネルギーが噴き出していた。
「ぐ……ああああっ!」
佐伯は自分の腕を押さえる。
「止まれ……!」
「俺の身体……止まれぇ……!」
しかし、能力は止まらない。
「佐伯!」
隊員の一人が叫ぶ。
「俺たちはお前を攻撃したくない!」
「だったら……!」
佐伯が顔を上げる。
「俺が……お前たちを傷つける前に……!」
佐伯は自分の剣を地面へ突き立てた。
「俺を止めろ!!」
「佐伯隊員……!」
「来るぞ!」
佐伯が地面を蹴った。
一瞬で距離を詰める。
「速い!」
隊員が盾を構える。
ガァン!!
一撃。
盾が大きくへこむ。
「ぐっ……!」
二人目が横から飛び込む。
「今だ!」
能力を使い、佐伯の動きを封じようとする。
しかし――。
「遅い!」
佐伯が身体をひねる。
剣が空を切る。
隊員は間一髪でかわした。
「この状態でも……技術は残ってるのか!」
佐伯は無言で構える。
その目には、確かな意識が残っていた。
「……俺は。」
「まだ俺だ。」
そして再び踏み込む。
その頃。
IAMDA日本支部・地下研究局。
警報が鳴り響いていた。
「能力出力、さらに上昇!」
「リング制御率、18%まで低下!」
黒崎蓮司がモニターを睨む。
「やはり……。」
研究員が振り返る。
「局長!」
「佐伯隊員のリングに、外部から信号が送られています!」
「発信源は?」
「特定できません!」
黒崎は歯を食いしばる。
「犯人は佐伯隊員を殺すつもりじゃない。」
「この状態を維持している。」
「何のために……?」
黒崎は画面を見つめる。
「実験だ。」
戦場。
佐伯が再び隊員へ突っ込む。
「止めろぉぉ!!」
ガキィン!!
隊員の武器と佐伯の剣がぶつかる。
「佐伯!」
「俺たちはお前を倒さない!」
「だったら俺を止めろ!」
佐伯の一撃。
隊員は受けきれず吹き飛ばされる。
「ぐあっ!」
「隊長!」
「俺は大丈夫だ!」
隊長が立ち上がる。
その身体には傷が増えていた。
それでも剣を構える。
「佐伯。」
「……。」
「お前が俺たちを傷つける前に。」
「俺たちがお前を救う。」
佐伯の動きが一瞬止まった。
「……救う?」
「ああ。」
「俺たちは仲間だろ。」
佐伯の目が揺れる。
「……仲間。」
その瞬間。
リミットリングが激しく光る。
「ぐっ……!」
佐伯の身体が再び震える。
「違う……!」
「俺の意思じゃ……ない……!」
能力が爆発する。
ドォン!!
隊員たちが一斉に吹き飛ばされる。
「制御率、5%!」
研究員が叫ぶ。
黒崎の表情が変わる。
「このままじゃ身体がもたない。」
「では、どうしますか!?」
黒崎は数秒黙った。
そして。
「リングを破壊する。」
研究員が驚く。
「ですが、それでは能力制御が完全に失われます!」
「分かっている。」
「今の佐伯隊員は、リングが正常に機能しているから暴走している。」
「なら、外すしかない。」
「しかし――!」
黒崎はモニターを見る。
「このままでは、どちらにせよ身体がもたない。」
戦場。
佐伯は膝をついた。
「……もう……。」
息が荒い。
「俺を……。」
「俺を殺してくれ。」
隊員たちが息を呑む。
「何を言ってるんですか!」
「俺が……仲間を傷つける前に……。」
佐伯は剣を握る。
「終わらせろ。」
その瞬間。
通信が入った。
『佐伯。』
黒崎の声だった。
「……局長?」
『今からお前のリミットリングを破壊する。』
佐伯の目が見開かれる。
『その瞬間、お前は自分自身の力で能力を抑えなければならない。』
『できるか?』
佐伯はしばらく黙っていた。
そして――。
「ああ。」
立ち上がる。
「俺を誰だと思ってる。」
「ZERO FORCE第2部隊隊員の中でも精鋭だぞ、あまり舐めてもらっちゃ困るな。」
苦し紛れに強がる佐伯を隊員たちが見ている。
「俺は……。」
佐伯は自分のリングを握る。
「仲間を守るために戦ってきた。」
「こんな薬なんかに――。」
「俺の意思を奪わせてたまるか!!」
「今だ!」
黒崎の指示。
遠隔操作が開始される。
リミットリングが赤く発光する。
「うおおおおお!!」
佐伯が叫ぶ。
能力がさらに膨れ上がる。
「ぐああああっ!」
そして――。
バキィィン!!
リミットリングが砕け散った。
その瞬間。
暴走していた能力が一気に周囲へ拡散する。
「佐伯!!」
隊員たちが叫ぶ。
煙の中。
佐伯は立っていた。
全身から力が漏れ出している。
しかし――。
先ほどまでの暴走とは違う。
ゆっくりと呼吸を整える。
「……止まれ。」
能力が揺れる。
「止まれ……。」
さらに集中する。
「俺の力だ。」
そして。
「俺が制御する。」
――静寂。
能力が、ゆっくりと消えていく。
佐伯はその場に膝をついた。
「……終わった。」
隊員たちが駆け寄る。
「佐伯!」
「大丈夫だ……。」
佐伯は苦しそうに笑う。
「……まだ生きてる。」
隊員の一人が涙を浮かべる。
「当たり前ですよ。」
「俺たちが助けるって言ったでしょう。」
佐伯は少しだけ笑った。
「ああ。」
「……そうだったな。」
その頃。
国立能力者養成機関。
一年A組。
教室のモニターに、速報が表示される。
『ZERO FORCE隊員、暴走状態から回復』
『被害者は現在、医療施設へ搬送』
青木が息を吐く。
「よかった……。」
伊藤も胸を撫で下ろす。
「助かったんだ……。」
悠真は黙って画面を見つめていた。
佐伯の姿を思い出す。
以前、自分と戦った男。
そして、自分の動きを認めてくれた男。
悠真は拳を握った。
「……絶対に。」
「こんなことを続けさせない。」
深夜。
廃工場。
男はモニターを見つめていた。
そこには、佐伯の戦闘データが表示されている。
「……素晴らしい。」
ローブの人物が尋ねる。
「失敗では?」
男は首を横に振る。
「違う。」
「十分なデータが取れた。」
「リミットリングを破壊しても、能力者は自力で制御できる。」
「つまり……。」
男は画面を切り替える。
そこには大量の戦闘データ。
「身体能力。」
「精神力。」
「適合率。」
「能力制御。」
一つずつ並んでいく。
「必要な条件が少しずつ見えてきた。」
ローブの人物が尋ねる。
「次は……?」
男は答えなかった。
ただ、一枚の資料を取り出す。
そこには――。
国立能力者養成機関
そして、一年A組の名前。
男の指が、ある名前の上で止まる。
神崎悠真
「……次は。」
男の口元が僅かに笑う。
「もっと面白い実験をしよう。」
同じ頃。
悠真は一人、訓練場で木刀を振っていた。
カン。
カン。
カン。
佐伯の言葉が頭に残っている。
「俺は……仲間を守るために戦ってきた。」
悠真は木刀を止める。
「……守るために戦う。」
父の言葉が重なる。
『強さは能力じゃない。誰かを守る覚悟だ。』
悠真は木刀を握り直した。
「俺も……。」
「もっと強くならないと。」
その瞬間。
遠くで、何かが光った。
悠真が振り返る。
しかし、そこには誰もいない。
ただ――。
校舎の屋上。
一瞬だけ、人影が見えた。
そして次の瞬間。
消えた。




