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第13話 狙われた討伐隊

LIMIT BREAK DRUG事件から四日――。


横浜で発生した第二の暴走事件は、無事に収束した。


被害者は生存。


第2部隊と第3部隊によって保護され、現在はIAMDAの医療施設で治療を受けている。


しかし――。


事件の裏には、明らかに何者かの意図があった。


そしてIAMDAは、その事実を公表していなかった。


IAMDA日本支部・地下研究局。


黒崎蓮司は、モニターに表示された二つの事件記録を見つめていた。


「一人目と二人目。」


「能力の系統がまったく違う。」


研究員が資料を手にする。


「炎属性と水属性。」


「適合率も大きく異なります。」


黒崎は腕を組む。


「それでも薬は正常に作用した。」


「はい。」


「つまり……。」


黒崎は画面を切り替えた。


そこには、LIMIT BREAK DRUGの成分分析結果が表示されていた。


「奴らは、能力そのものを研究している。」


研究員が息を呑む。


「能力を……?」


「違う。」


黒崎は静かに答える。


「能力者の限界を調べている。」


研究室に沈黙が流れた。


「一人目は一般人。」


「二人目も一般人。」


「次は――。」


黒崎は日本地図を見つめる。


「討伐隊か。」


その頃。


国立能力者養成機関。


一年A組。


朝のホームルーム。


生徒たちはいつも通り席についていた。


しかし、昨日までとは少し違う。


誰もがLIMIT BREAK DRUG事件を意識している。


林翔太がスマートフォンを見ながら呟く。


「またニュースやってるぞ。」


「横浜の事件。」


木村彩花が画面を見る。


『第二の能力者暴走事件について、IAMDAは――』


そこで放送が途切れる。


「また情報規制か……。」


青木翔が呟いた。


斎藤蓮が鼻で笑う。


「当然だろ。」


「俺たち学生に教える必要なんてない。」


「でも……。」


伊藤美咲が口を開く。


「被害者の人、大丈夫なのかな。」


斎藤は答えなかった。


その時。


ガラッ。


桐谷教官が入ってくる。


いつもの木刀。


しかし、今日は表情が違った。


「全員、席を立て。」


生徒たちが一斉に立ち上がる。


「演習場へ移動する。」


「はい!」


演習場。


一年A組が整列すると、桐谷教官の隣に一人の男が立っていた。


黒い制服。


胸元には――。


ZERO FORCE


の紋章。


「紹介する。」


桐谷が言う。


「日本対モンスター討伐隊、第2部隊所属。」


「佐伯隼人だ。」


以前、悠真と模擬戦を行った隊員だった。


佐伯は軽く手を上げる。


「久しぶりだな。」


生徒たちがざわめく。


「今日は特別訓練だ。」


桐谷が続ける。


「最近の事件を受け、討伐隊との合同訓練を行う。」


大沢健吾が目を輝かせる。


「討伐隊と!?」


「そうだ。」


佐伯が前へ出る。


「実戦では能力だけに頼るな。」


「リングが破損することもある。」


「能力を使えない状況もある。」


「そんな時、最後に頼れるのは自分の身体と技術だ。」


悠真は黙って聞いていた。


佐伯が生徒たちを見渡す。


「今日は二人一組で近接訓練を行う。」


「能力の使用は禁止。」


生徒たちが驚く。


「えっ?」


「能力なし!?」


「そうだ。」


佐伯は笑った。


「お前たちがどこまで自分自身を鍛えているかを見る。」


悠真は木刀を握った。


能力がなくても――。


これは、自分にとって不利な訓練ではない。


むしろ。


自分が最も得意とする領域だった。


訓練が始まる。


青木と大沢。


木村と伊藤。


斎藤と高橋。


次々と組み合わせが決まっていく。


悠真は一人だった。


「神崎。」


佐伯が呼ぶ。


「俺とやるぞ。」


悠真は少し驚いた。


「はい。」


二人が向かい合う。


周囲の生徒たちも自然と集まってくる。


「また神崎と佐伯隊員だ。」


林が呟く。


斎藤は腕を組む。


「今度こそ差が出るだろ。」


佐伯が木刀を構える。


「始め。」


一瞬。


悠真が踏み込む。


カンッ!


木刀がぶつかる。


佐伯の攻撃を受け流し、悠真が横へ回り込む。


「速いな。」


佐伯が笑う。


悠真はさらに踏み込む。


だが――。


「甘い。」


佐伯の木刀が悠真の肩の寸前で止まる。


「そこまで。」


悠真は息を整える。


「ありがとうございました。」


佐伯は木刀を下ろす。


「前対戦したときより動きが良くなった。」


「本当ですか?」


「ああ。」


佐伯は少しだけ笑った。


「お前は能力がない分、自分の身体をよく理解している。」


その言葉を聞いて、悠真は拳を握った。


その日の夕方。


ZERO FORCE第2部隊。


隊員たちは帰還準備をしていた。


佐伯は装備を確認している。


「佐伯。」


同僚が声を掛ける。


「明日の巡回、お前が担当だ。」


「了解。」


「最近、妙な事件が続いてる。」


「分かってる。」


佐伯はリミットリングを確認する。


その時だった。


リングが一瞬だけ赤く点滅した。


「……?」


佐伯が眉をひそめる。


しかし、すぐに通常状態へ戻る。


「何だったんだ?」


同僚が尋ねる。


「分からない。」


佐伯はリングを見つめる。


「整備班に見てもらう。」


深夜。


街の明かりが消えた廃工場。


そこに、黒いマントの男が立っていた。


目の前にはモニター。


そこへ映っているのは――。


佐伯隼人。


「第2部隊。」


ローブの人物が呟く。


「かなりの戦闘経験があります。」


男は静かに答える。


「だからこそ価値がある。」


「次の対象に?」


「ああ。」


男は画面へ手を伸ばす。


佐伯のデータが表示される。


適合率――不明


戦闘経験――高


能力制御――高


身体能力――極めて高


男は笑った。


「今までの二人とは違う。」


「こいつなら――。」


モニターが切り替わる。


そこには一つの文字。


LIMIT BREAK


「どこまで耐えられるか。」


男は静かに呟いた。


「確かめてみよう。」


翌朝。


ZERO FORCE第2部隊。


佐伯は一人、出撃準備をしていた。


その時。


通信が入る。


『佐伯隊員。』


『第七区画にゲート反応。』


「了解。」


佐伯は装備を手に取る。


しかし。


彼の知らないところで――。


リミットリングの内部に、極小の異物が混入していた。


それは、通常の検査では発見できないほど小さかった。


同じ頃。


国立能力者養成機関。


悠真は朝の訓練場にいた。


木刀を振る。


一振り。


二振り。


三振り。


その時。


胸の奥に、またあの声が響いた。


『……近づいている。』


悠真の動きが止まる。


「誰だ……?」


返事はない。


しかし。


遠くの空から――。


かすかな雷鳴が響いた。


悠真は空を見上げる。


その視線の先。


まだ誰も知らない場所で。


第三の実験が始まろうとしていた。


そして今回の標的は――。


一般人ではない。


人類を守るために戦う、討伐隊員だった。

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