↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/29

第12話 第二の被害者

LIMIT BREAK DRUG事件から三日――。


IAMDA日本支部は、全国へ異例の警戒態勢を発令していた。


討伐隊。


警察。


医療支援班。


すべてが"第二の暴走"に備えて動き続けている。


しかし、その存在は一般には伏せられたままだった。


ニュースでは、


『能力者暴走事件』


そう報道されるだけだった。


国立能力者養成機関。


一年A組。


演習場。


桐谷教官の前に、生徒たちが整列する。


教官の表情はいつも以上に厳しかった。


「今日は予定を変更する。」


「まずは昨日の事件について話す。」


全員が真剣な表情になる。


教官は一本のリミットリングを持ち上げた。


「これは何だ。」


「能力を使うための装置です。」


伊藤美咲が答える。


桐谷は首を横に振った。


「違う。」


生徒たちがざわつく。


「これは。」


「お前たちを守るための装置だ。」


静まり返る演習場。


「勘違いしている奴が多い。」


「能力はリングがあって初めて使えるわけじゃない、確かにリングを使えば安定して使えるが。」


「能力そのものは、お前たち自身の中にある。」


「もし今ここでリングを外し、自分の能力を解放したらどうなると思う?」


隣にいた一年B組の男子が恐る恐る答える。


「能力が暴走する……?」


桐谷は木刀で地面を叩いた。


「そうだ、つまり自滅する。」


その一言だった。


「炎能力者なら、自分の腕が先に焼ける。」


「雷能力者なら、自分の神経が焼き切れる。」


「氷能力者なら、自分の身体が凍る。」


「風も土もすべての人間が当てはまる。」


「身体が能力に耐えられない。」


演習場が静まり返る。


「だから人類はリミットリングを開発した。」


「能力を制御し、自分を壊さないためにな。」


桐谷はリングを握り締める。


「リミットベルトも同じだ。」


「災厄級と戦えるのは、全身へ安全に能力を循環させられるからだ。」


生徒たちは改めて、自分たちの指にはめられたリングを見つめた。


「昨日暴走した被害者は。」


「薬によって、無理やり能力を解放させられていた。」


「本来、人間は能力を全開で解放すれば、自分の身体が先に壊れる。」


「その危険な状態を、薬によって強制的に引き起こされたんだ。」


大型モニターへ映像が映る。


暴走した能力者。


赤黒く浮かぶ血管。


燃え上がる黒い炎。


「LIMIT BREAK DRUG。」


「能力を増幅する薬ではない。」


「リミットリングという安全装置を、強制的に解除する薬だ。」


教室に衝撃が走る。


「つまり。」


「薬を打った能力者は、自分の身体を犠牲にして戦っている。」


「強くなる代わりに、身体は少しずつ壊れていく。」


木村彩花が小さく呟く。


「そんな……。」


青木も拳を握る。


「だからあんなに苦しそうだったのか……。」


桐谷は静かに頷いた。


「暴走者は敵だ。」


「だが同時に、被害者でもある。」


「それだけは忘れるな。」


その頃――。


IAMDA日本支部。


「局長!」


研究員が駆け込んでくる。


「横浜で異常反応です!」


黒崎蓮司が立ち上がる。


「ゲートか?」


「違います!」


「能力者です!」


モニターへ映し出されたのは、一人の女性能力者。


水属性。


田んぼへ大量の水が溢れ、道路を飲み込んでいく。


女性は涙を流しながら叫んでいた。


「止まって……!」


「お願い……!」


「止まってぇぇぇ!!」


しかし、水は止まらない。


「二人目……。」


黒崎は静かに呟く。


「薬が拡散している。」


「第2部隊、第3部隊を出動。」


「生け捕りを最優先。」


「薬のサンプルを必ず回収しろ。」


「了解!」


司令室が慌ただしく動き始めた。


一方――。


廃墟となった教会。


ステンドグラスから差し込む夕陽の中。


黒いマントの男が静かに立っていた。


右肩にはドラゴンの横顔を模した異形の装甲。


右腕のクリアパーツには、紫の光と赤い液体がゆっくりと流れている。


男は街を見下ろしながら、小さく笑った。


「順調だ。」


ローブ姿の男が尋ねる。


「次も一般人ですか。」


男は首を横に振る。


「違う。」


「次は。」


「もっと価値のある人間だ。」


その視線は、遠く離れた国立能力者養成機関へ向いていた。


「神崎悠真……。」


「能力を持たない、お前が。」


「どこまで足掻けるか。」


「見せてもらおう。」


フードの奥で口元が歪む。


その瞬間、夕日が雲に隠れ、教会は闇に包まれた。


男の姿もまた、闇へと溶けていく。


一方、訓練場。


自主練を終えた悠真は、一人リングを見つめていた。


自分には反応しない銀色のリング。


「みんなは、自分の命を守るためにこれを着けている。」


「俺には……その必要すらない。」


そう呟いた時だった。


胸の奥から、かすかな声が響く。


『……だからこそ、お前は選ばれた。』


悠真はハッと周囲を見回す。


しかし、誰もいない。


今の声は――。


風だけが静かに吹き抜けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。