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第10話 暴走する力

「対象を確認!」


「LIMIT BREAK DRUG使用者です!」


東京都新宿区。


炎と黒煙が立ち昇る市街地。


道路には横転した車。


割れたガラス。


逃げ惑う人々。


その中心で、一人の男が咆哮を上げていた。


「ガァァァァァァッ!!」


理性はすでにない。


全身から赤黒いモンスターエネルギーが噴き出し、皮膚はひび割れ、血管は異常なほど膨れ上がっている。


周囲のアスファルトが音を立てて砕けた。


「住民の避難は!?」


「完了率九十二パーセント!」


「残る住民は北側ビル内に取り残されています!」


その報告を聞いた一人の男が前へ出る。


ZERO FORCE第2部隊。


佐伯隼人。


腰の剣を静かに抜く。


「総員、包囲。」


「対象はモンスターじゃない。」


「元・一般市民だ。」


隊員たちの表情が引き締まる。


「可能なら生け捕り。」


「だが、市民を最優先に守れ。」


「了解!」


隊員たちが一斉に散開する。


その瞬間。


暴走した男が隊員の一人へ飛び掛かった。


「速い!」


ドゴォォォン!!


拳が地面へ叩き付けられる。


コンクリートが吹き飛び、巨大な穴が開いた。


「通常の能力者じゃない……!」


「能力を制御できていない!」


男は苦しそうに頭を抱える。


「熱い……。」


「苦しい……。」


「助けてくれ……。」


その声は一瞬だけ、人間だった。


しかし次の瞬間。


「ウオオオオオォォォ!!」


再び理性が消えた。


周囲へ衝撃波が広がる。


「散開!」


佐伯が叫ぶ。


隊員たちは素早く距離を取る。


「隊長!」


「この出力、人間じゃありません!」


「分かってる。」


佐伯は男を見据えた。


(これが……。)


(LIMIT BREAK DRUG。)


(能力を解放する代わりに、人間そのものを壊す薬か。)


男は停車していた大型トラックへ近付く。


片手で持ち上げた。


「まさか……!」


「投げるぞ!」


佐伯が地面を蹴る。


「防げぇぇ!!」


トラックが空中を舞う。


その先には避難しきれていないビル。


佐伯は能力を解放する。


「リミットリング——解放!」


全身を強化された身体が、一瞬でトラックの前へ飛び込む。


「ぐっ……!!」


剣を叩き込み、軌道を逸らす。


トラックはビルの手前へ激突し、大爆発を起こした。


隊員たちは息を呑む。


「隊長が止めた……。」


しかし。


煙の向こうから再び男が現れる。


傷一つ負っていない。


「再生している……?」


佐伯の表情が変わる。


「モンスターエネルギーが暴走して肉体を修復しているのか。」


「厄介だな。」


その頃。


国立能力者養成機関。


一年A組。


全員が演習室の大型モニターを見つめていた。


誰一人、言葉を発しない。


画面に映るのは、現実。


「これが……。」


林翔太が震える。


「人間同士の戦い……。」


伊藤美咲は拳を握る。


「苦しそう……。」


悠真は画面から目を離せなかった。


(助けてくれ……。)


暴走者が漏らした一言。


あの言葉だけが頭から離れない。


「教官。」


悠真が静かに口を開く。


桐谷教官は視線を向ける。


「なんだ。」


「もし……。」


「薬を打たれた人を助ける方法があるなら。」


「救えるんですか。」


演習室が静まり返る。


桐谷教官は少しだけ目を閉じた。


「……分からん。」


「まだ誰にも分からない。」


その答えに、悠真は唇を噛んだ。


新宿。


暴走者は限界を迎えていた。


「アァ……。」


身体が崩れ始める。


皮膚が黒く変色し、モンスターエネルギーが暴走する。


黒崎蓮司から通信が入る。


『佐伯!』


『これ以上は危険だ!』


『モンスターエネルギーが臨界に達している!』


『下がれ!』


佐伯は男を見つめた。


「……。」


男は涙を流していた。


「助……け……。」


その瞬間。


ドォォォォォン!!!


凄まじい爆発。


黒いモンスターエネルギーが空へ吹き上がる。


衝撃波が街を駆け抜けた。


静寂。


そこには、もう誰も立っていなかった。


数時間後。


IAMDA日本支部・地下研究局。


分析室。


黒崎蓮司は机の上へ置かれた注射器の破片を見つめていた。


「薬の成分は。」


研究員が首を横に振る。


「解析不能です。」


「既知のモンスターエネルギーとも一致しません。」


黒崎は静かに目を閉じる。


「……最悪だ。」


「完成してしまった。」


研究室には重い空気が流れる。


「局長。」


「これを作った人物は……。」


黒崎はゆっくり答えた。


「まだ分からない。」


「だが。」


「必ず止める。」


その頃――。


人気のない地下施設。


テレビにはニュース速報が流れていた。


『新宿暴走事件——死亡者一名、負傷者三十七名。』


『IAMDAは薬物による事件の可能性も含め調査を進めています。』


男は静かにテレビを消した。


机の上には、同じ赤いラベルの注射器。


一本。


二本。


三本。


いや、それだけではない。


ケースの中には、数十本ものLIMIT BREAK DRUGが並んでいた。


男は一本を手に取り、小さく笑う。


「データは取れた。」


その背後で、黒いローブをまとった人物が口を開く。


「次は、どうしますか。」


男は迷うことなく答えた。


「改良を続ける。」


「次こそは——」


「**"成功作"**を生み出す。」


地下施設に、不気味な笑い声が響く。


その計画が、やがて日本だけでなく世界全体を巻き込む戦いへと発展することを——


この時、まだ誰も知らなかった。

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