第97話:新商品3
ユウトの部屋。
ベッドでゴロゴロするユウト。
「はぁ……疲れた」
結局、帰りも周りを気にしていたからな……
──────
「ユウト様!」
「安全のため、地上を走行します!」
「頼む」
「ユウト様!」
「あの男、こちらを見ていませんか?」
「本当だ」
「念のため遠回りします!」
「あいつもだ!」
「なんでみんなこっちを見るんだよ!」
"街中で地上を走る車が珍しかった。"
──────
「さて……」
ユウトは起き上がり、テーブルの前に立った。
「始めるか」
明日、ウラジオ商会に持っていく試作品。
車内でも食べられる飯。
片手で持てて。
すぐ食えて。
ちゃんと腹にたまる。
ユウトは手を広げた。
イメージするのは――
丸いバンズ。
焼き目のついたパテ。
刻んだ玉ねぎ。
ピクルス。
ケチャップ。
マスタード。
それらが一つにまとまった完成品。
次の瞬間。
皿の上に、完成したハンバーガーが現れた。
「うん」
見覚えのある形。
問題は味だ。
ユウトは、ハンバーガーを手に取った。
「いただきます……」
小さく呟き、かぶりつく。
もぐ。
「……」
噛む。
飲み込む。
「こんな味……だったよな……?」
もちろん、ハンバーガーを食べたことはある。
だが――
(いつも期間限定とか新商品を買っちゃうからな……)
普通のハンバーガー。
シンプルなやつ。
それを、はっきり思い出せるほど食べていたかと言われると、少し怪しい。
「まあ……」
ユウトはもう一口食べる。
「これはこれで、うまい」
少なくとも、商品としては十分いける。
手軽で。
食べやすくて。
腹にもたまる。
悪くない。
「次」
ユウトは再び手を広げる。
イメージする。
さっきのハンバーガーに、チーズを加えたもの。
熱で少し溶けたチーズが、パテに絡んでいる完成品。
「チーズバーガー」
テーブルの上に、チーズバーガーが現れた。
普通のハンバーガーにチーズが入っただけ。
それだけのはずなのに。
見た目の安心感が違った。
「これは分かる」
ユウトは、少しだけ自信ありげに呟いた。
チーズバーガー。
それなら記憶にある。
ダブルだったが……
ユウトはすぐにかぶりついた。
「おっ!」
思わず声が出る。
(この味、覚えてる!)
全ての材料が、自分の居場所を見つけたような一体感。
シンプルなのに、洗練された味。
「懐かしいな……」
ぽつりと呟く。
少しだけ、胸がきゅっとした。
別に、特別な思い出があるわけではない。
高級な食べ物でもない。
ただ、何でもない日に食べていた味。
学校帰り。
ゲームの合間。
昼まで寝て起きた休日。
夜に腹が減って、なんとなく買いに行った時。
そんな、どうでもいい時間の味。
だからこそ。
妙に懐かしかった。
「……次」
ユウトは気を取り直す。
最後は、少しだけ気合いを入れた。
バンズ。
パテ。
レタス。
マヨネーズ。
甘辛いテリヤキソース。
照りのある色。
少し焦げたような香り。
そこまで細かく思い浮かべた瞬間。
ユウトの手が止まった。
「……テリヤキバーガー」
テーブルの上に、完成したテリヤキバーガーが現れる。
その匂いだけで、胸の奥が少し揺れた。
「……」
ユウトは、それをゆっくり手に取る。
テリヤキバーガー。
転生前。
幾度となく食べた味。
安く済ませたい時も。
ちょっとだけ贅沢したい時も。
何を食べるか考えるのが面倒な時も。
結局、これを選んでいた。
ユウトは、静かに口を開ける。
そして、かぶりついた。
「……っ」
甘い。
しょっぱい。
爽やかな酸味のマヨネーズ。
レタスの食感。
パテに絡む、あのソース。
舌に蘇る。
あの味。
「うっ……」
自然と、涙が溢れた。
「……なんでだよ」
自分でも分からない。
ただのハンバーガーだ。
ただのテリヤキ味だ。
なのに。
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
転生前に幾度となく食べた味。
あの世界にいた頃の、何でもない日常。
それが今、舌の上に戻ってきた。
「……うまい」
ユウトは小さく呟いた。
「うまいな……」
涙を拭うこともせず、もう一口かぶりつく。
そこには、もう戻れない世界の味があった。
「次……」
ユウトは、少しだけ鼻をすすりながら手を広げる。
今度は、さらに大きいものをイメージした。
バンズ。
パテ二枚。
刻んだレタス。
玉ねぎ。
チーズ。
ピクルス。
マヨネーズベースのソース。
普通のハンバーガーよりも、明らかに厚い完成品。
テーブルの上に、巨大なバーガーが現れた。
見た目の圧が違う。
「これ……」
ユウトは、完成した巨大なバーガーを見つめた。
見た目の迫力が、さっきまでのものとは違う。
「食べ切れるか?」
思わず呟く。
片手で持つには少し大きい。
いや。
かなり大きい。
ユウトは両手で持ち上げた。
ずっしりしている。
(中央のバンズの上の部分って、どこに行ってるんだ?)
(3枚に切ってるのか?)
少し疑問が浮かんだ。
「まあ……」
「いいか……」
ユウトは口を開け、かぶりつく。
「……っ」
口いっぱいに、味が広がった。
肉。
チーズ。
レタス。
玉ねぎ。
ピクルス。
ソース。
それぞれが混ざり合って、さっきまでとは違う満足感がある。
「……うま」
思わず声が漏れた。
だが、問題もあった。
「……でかい」
口の周りにソースがつく。
具が少しずれる。
レタスがこぼれる。
ユウトは慌てて皿の上に戻した。
「これは……」
「うまいけど、食べにくいな」
車内で食べるには、少し向いていないかもしれない。
だが。
店で出すなら強い。
腹を空かせた客には刺さる。
「……これは別枠だな」
ユウトはぼそっと呟く。
どれも、転生前に食べたことのある味。
それを再現できるかは、ウラジオ商会次第。
「明日はこの四つでいいか……」
「包み紙……か」
ユウトは小さく呟く。
「商品が分かる紙にしたいんだけど」
「名前だよな……」
ウラジオバーガーの包み紙。
ウラジオチーズバーガーの包み紙。
テリヤキバーガーの包み紙。
ウラジオビッグバーガーの包み紙。
「そうだ!」
“運転中に食べないでください”
それぞれの包み紙に注意書きも記載し、創造した。
「包み方……」
「多分こんな感じだよな……」
ユウトは、完成したバーガーを包み紙で包む。
不格好だが、見覚えのある姿がそこにあった。
「ふぅ……」
「できた!!」
ユウトは満足げにため息をついた。
「もう食べれないし、セレスに持っていくか……」
部屋を出るユウト。
隣の扉をノックする。
コンコン。
……。
コンコン。
………。
「あれ?」
コンコンコン。
コンコココンコン-コンコン。
「出てこないな」
コンコンコココン-コココンコン。
(ちょっと楽しくなってきたな……)
その時――
「うるっさあああい!!」
後ろから声が聞こえた。
振り向くと、寝間着姿の女性がこちらを睨みつけている。
「って、えええええ!?」
さらに、何かに驚き出した。
(やべっ、怒られる)
(そうだ!)
ユウトは慌てて、包みに入れたハンバーガーを差し出した。
「すいません。夜遅くに……」
「向かいの部屋に越してきたユウトです」
「これ、良かったらどうぞ」
「では、おやすみなさい」
試作品のハンバーガーを渡して、逃げるように部屋へ戻るユウトだった。




