第93話:ユウトの提案
「ささっ、こちらへどうぞ、ユウト殿」
ウラジオに案内され、通路を進むユウト。
振り返ると、受付の女性がこちらを見ていた。
(前にもあったな……)
ときおり、ポケットの上から封筒の感触を確かめる。
(ちゃんとある!)
(落としてない!)
社内とはいえ、油断できない。
ユウトは辺りをキョロキョロと見回した。
「ところで……」
ウラジオが話し出す。
「そのサングラスとマスクはいったい……」
「いや、」
「その……」
「ちょっと……変装を……」
「そ、そうですか」
「ゆ、ユウト殿ほどの方なら当然ですな」
「ハハハ」
ウラジオは笑って流した。
長年の商人の勘で、詳しく聞かない方が良いと判断したのだ。
(あれ?)
(詳しく聞いてくれないのか?)
(何があったか話したいのに……)
そして、応接室の扉の前で立ち止まる。
「こちらへ」
ウラジオに案内され、中に入るユウト。
相変わらず綺麗すぎて落ち着かない。
そこには、すでにレイヴンが待機していた。
(普通、レイヴンが案内して、ウラジオが待ち構えてるよな)
(嫌な予感がする……)
「ありがとうございます」
とりあえず礼だけは言っておく。
ユウトは、ふかふかの椅子に座った。
「さて……」
正面に座るウラジオ。
「まずは、こちらを」
ウラジオがレイヴンへ目で合図を送る。
レイヴンは、書類をテーブルに置いた。
そこに記載されていたのは、ラムネに関する内容。
売上。
在庫。
原価。
利益。
ユウトは、書類へ視線を落とす。
「……」
利益 2,800,000円。
カップ麺ほどではないが、十分すぎる数字だった。
「こちらが、約束の報酬でございます」
差し出された封筒を受け取るユウト。
「おかげさまで、ラムネは大人気です!」
ウラジオはにっこり笑う。
「ただ……」
(ほらきた!)
「日に日に売上が落ちてきております」
(やっぱりか……)
(ラムネは、お祭りでたまに飲むから良いってのもあるよな……)
「多分、みんな飽きてきたのかもしれませんね」
「ええ」
ウラジオは、少し言いにくそうに頷いた。
「その通りです」
「初めは物珍しさから人気が出ましたが……」
「ここ数日は、目に見えて売上が落ちておりました」
ユウトは、もう一度資料に目をやる。
確かに、在庫数が多い。
需要に、供給が追いついた。
それが原因か。
さすが、ウラジオ商会。
売れると見れば、一気に広げる。
だが、広げすぎれば希少性は落ちる。
「多分、希少性がなくなったのも原因かも」
ユウトがぽつりと呟いた。
「なるほど……」
ウラジオの目が、商人のものに変わる。
「希少性、ですか」
「毎月、一日だけ限定で販売するのはどうです?」
「例えば“毎月〇日はラムネの日”って印象を作って」
「その一日だけで売上を確保するとか」
「ほう……」
ウラジオが身を乗り出す。
「毎月、決まった日だけ販売ですか……」
「そうです」
ユウトは頷いた。
「いつでも買えるようになると、特別感がなくなるんですよ」
「でも、買える日が決まってたら」
「その日に買わなきゃってなる」
「なるほど……」
「希少性を、意図的に作るわけですな」
「あとは…」
「新しい味を追加して」
「期間限定の新商品なんて良いかもしれませんね」
ウラジオは顎に手を当て、ユウトへ視線を向ける。
「ユウト殿」
「なかなか、商人らしくなってきましたな」
「そ、そうですか?」
これは転生前によく見た売り方だ。
土用の丑の日に鰻。
バレンタインデーにチョコレート。
本当は年に一度くらいにしたいところだが。
少し欲が出て、毎月と言った。
「レイヴン」
「はい」
「販売日を限定した場合の人員配置」
「在庫数」
「告知方法」
「各店舗への振り分け」
「それらをすぐに試算してくれ」
「承知しました」
レイヴンが即座に頷く。
(早い……)
(動きが早すぎる……)
ユウトは若干引いた。
「それから、ユウト殿」
「はい?」
「その“ラムネの日”という言葉」
「非常に良いですな」
「え?」
「毎月その日になれば、客がラムネを思い出す」
「店に足を運ぶ」
「ついでに別の商品も買う」
「つまり」
ウラジオはにっこり笑った。
「一日を、商売の装置に変えるわけです」
「……」
(そこまで考えてなかった)
(商人こわ……)




