第92話:モンスター襲来
私の名前はマヤ。
先日からウラジオ商会の受付嬢をしています。
この商業都市ゴルディアで、三本の指に入る大企業。
ウラジオ商会。
そこに来る人たちは、基本的にエリート揃いです。
商人。
貴族。
各地の有力者。
それに、他国の使者。
受付に立っていると、毎日いろんな人を見ることになります。
悪質なクレーマーや冷やかしもありました。
そんな輩は、私たちの業界ではモンスターと呼ばれています。
お父さん、お母さん。
私は今……
超ド級のモンスターに遭遇しています。
──────
外にいる、あの男……
ポケットを押さえながら、キョロキョロしている。
服装は黒いジャージ。
マスクとサングラスで顔を隠している。
髪はボサボサで、この商会には似つかわしくない姿。
時おりポケットの上から感触を確かめている。
そして、何度も中を気にしている。
間違いない……
ポケットの中に刃物を忍ばせている。
マヤは確信した。
意を決したのか、その男が入口を通り中に入ってきた。
警備員の位置を確認するマヤ。
受付台の不審者通報用のボタンに指を添える。
落ち着け。
研修で習った通りにすれば大丈夫だ。
その男は、警備員の前を素通りする。
「え?」
警備員ー!!
仕事しろ!
警備が止めてくれると思っていたマヤ。
予想外の展開に、思わず声が漏れる。
やがて男は、私の目前で立ち止まった。
「いらっしゃいませ」
「本日のご要件をお伺い致します」
「あの……いますか」
ボソッとした話し方で、聞き取れない。
「恐れ入ります。もう一度よろしいでしょうか?」
「ウラジオさん……いますか」
「……」
……え?
今、なんて言った?
ウラジオさん?
さん付け?
代表を?
この見た目で?
この状況で?
「恐れ入りますが」
マヤは笑顔を保ったまま、慎重に言葉を選ぶ。
「お約束はございますか?」
「約束……してま……」
「……え?」
どっちだ!
お父さん。
お母さん。
これは、かなり強いです。
身なり不審。
挙動も不審。
約束があるかも不明。
そして代表を“さん付け”で呼び出し。
役満です。
完全にモンスターです。
狙いはウラジオ社長の命。
落ち着け。
いつも通り接するんだ。
何か動きを見せたら、このボタンを押そう。
「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ユウトです」
「……」
ユウト。
その名前を聞いた瞬間。
受付の奥にいた先輩の肩が、ぴくりと動いた。
え?
何ですか?
知ってるんですか?
この人を?
「少々お待ちください」
先輩が急いで内線を取った。
そして――
数秒後。
内線の向こうで、誰かの声が跳ねた。
さらに数秒後。
奥から、慌ただしい足音が響いてくる。
ドタドタドタドタ。
え。
なに?
何が起きてるの?
「ユウト殿ぉぉぉ!!」
現れたのは――
ウラジオ代表。
本人だった。
「お待たせいたしました!」
「いや、全然待ってないです……」
そのやり取りを見て。
マヤは理解した。
この人は。
モンスターではなかった。
もっと上だ。
代表が自ら走って出迎える、正体不明の何かだった。
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