第90話:定期収入
バルド商会。
社長室。
「ふぁぁぁあああ……」
魂の抜けたような声を出すユウト。
「疲れたあああああ……」
机に顔を埋める。
「何もしてないじゃん」
セレスが突っ込む。
「してたわ……」
「最後、めちゃくちゃ偉そうに喋っただろ……」
「それだけでしょ?」
「それが疲れるんだよ……」
ユウトは机に突っ伏したまま、力なく言った。
「お疲れ様、シオリ」
アメリがセレスへ微笑む。
「素晴らしいプレゼンだったわ」
「ありがとう、アメリ」
セレスは少し照れたように笑った。
「でも、私一人じゃないわ」
「みんなのおかげよ!」
珍しく謙遜するセレス。
「ところでアメリさん」
ユウトが会話を遮るように顔を上げた。
「カップ麺の売上ってどうなりました?」
「順調ですよ!」
アメリはすぐに机の上から一枚の資料を取り出した。
「詳細はこちらへ」
ユウトは資料を受け取る。
そこには、カップ麺に関する情報が記載されていた。
在庫数。
原価率。
売上。
利益。
ユウトの視線が、ある一文で止まる。
利益。
3,500,000円。
「……」
ユウトは、無言で資料を見つめた。
「……え?」
もう一度見る。
利益。
3,500,000円。
「あの……」
「この利益の所、合ってます?」
「発売からまだ一週間ですが好調です」
アメリは満足そうに頷いた。
「単身者、夜勤労働者、商会職員を中心に売れています」
「お湯だけで食べられる手軽さ」
「保存のしやすさ」
「短時間で食事を済ませられる点」
「この三つが特に評価されています」
「そんなに……」
ユウトは資料を見つめたまま呟く。
「こちらが、ユウト様の取り分です」
厚みのある封筒を差し出すアメリ。
「……」
ユウトは、少しだけ間を置いてから受け取った。
ずしり。
手に乗る重み。
さっきまで“数字”だったものが、急に現実になる。
「……」
もう一度、資料を見る。
利益。
3,500,000円。
その半分。
ユウトの取り分。
1,750,000円。
(……マジで?)
視線が封筒に戻る。
少しだけ開いて、中を見る。
紙幣。
ぎっしり。
「……」
ゆっくり閉じる。
「……定期的に」
ぽつりと呟いた。
「これが入ってくるのか……」
「売れ続ければ、ですが」
アメリが答える。
「……」
ユウトは少しだけ黙る。
一度きりの金じゃない。
これからも入ってくる金だ。
その感覚が、じわじわと実感になっていく。
「……これ」
「働かなくてもよくなるやつじゃん」
「急に本音ね」
セレスが呆れたように言う。
「いやだって」
ユウトは封筒を軽く持ち上げた。
「一回じゃないんだろ」
「はい」
「じゃあ……」
ユウトは天井を見上げる。
「いけるな……」
「何が?」
「人生」
セレスがため息をついた。
「雑すぎるでしょ」
「いやでもさ」
ユウトは封筒を見つめる。
「前にも大金は貰ったけど」
「あれは一回きりだったし」
「これは違う」
「勝手に増えてくやつだ」
その言葉に、少しだけ実感が混じる。
「……いいな」
ぽつりと呟く。
「すごいな、これ」
自然と、顔がにやけていく。
「ユウト……」
セレスが半目で見た。
「顔が気持ち悪い……」
「うるせえ……」
そう返しながらも。
ユウトは封筒を、しっかり抱えた。




