第89話:緊急会議3
バルド…いや、ユウトは思わず間の抜けた声を漏らした。
全員の視線が集まっている。
部門長たち。
アメリ。
セレス。
全員が、バルド商会代表の言葉を待っていた。
(聞いてない)
(俺、締める役なの?)
横目でアメリを見る。
アメリは真剣な顔をしていた。
助け舟を出す気配はない。
次に、セレスを見る。
必死に笑いを堪えている。
口元がピクピクしている。
完全に楽しんでいる顔だった。
(こいつ……!)
ユウトは心の中で歯ぎしりした。
だが、ここで黙るわけにはいかない。
今の自分は、バルド。
バルド商会の代表なのだ。
ユウトは、ゆっくりと息を吸った。
そして、できるだけ低く。
落ち着いた声で口を開く。
「……皆、ご苦労だった」
会議室の空気が引き締まる。
(お)
(なんか、それっぽい)
ユウトは内心で少しだけ安心した。
「本日の話は、商会の今後を大きく左右する」
「パソコン」
「インターネット」
「通信販売」
「どれも、これまでの商売とは違うものだ」
部門長たちは真剣な表情で耳を傾けている。
(やばい)
(思ったよりちゃんと聞かれてる)
ユウトは内心で汗をかきながらも、言葉を続けた。
「各部門は、今日の説明を持ち帰り」
「自分たちの部署で何ができるか」
「何が必要になるか」
「速やかにまとめてくれ」
アメリの目が、わずかに動いた。
たぶん、間違ってはいない。
「ただし」
ユウトは、少しだけ声を低くした。
「わかっていると思うが」
「外部に漏れないよう注意するように」
会議室が静まり返る。
「情報は力だ」
「扱いを間違えれば、商会そのものを危険に晒す」
部門長たちの表情が引き締まった。
(今の、なんか偉そうだったな……)
(でもまあ、言ってることは間違ってないはず)
ユウトは内心で自分を納得させる。
「まずは、商会内で試す」
「問題点を洗い出し」
「改良し」
「それから世に出す」
「焦る必要はない」
「だが、止まる必要もない」
ユウトは、机の上のパソコンを見る。
そして、最後に言った。
「これは、バルド商会の未来になる」
数秒の沈黙。
やがて。
「かしこまりました」
カザフが静かに頭を下げた。
それを合図に、他の部門長たちも一斉に姿勢を正す。
「承知しました」
「任せてください!」
「すぐに検討します」
「技術開発室でも確認するっす」
「人員配置の案をまとめます」
それぞれの声が重なった。
会議は、静かに終わりへ向かっていく。
その中で。
セレスだけが、満足そうにユウトを見ていた。
(……後で覚えてろよ)
心の中でそう呟いた。




