第84話:セレスの弱点
街中を、ユウトとセレスは歩いていた。
いや。
正確には、ユウトだけが苦しみながら歩いていた。
「お、重い……」
ユウトの腕の中には、先ほど作ったばかりのパソコンが抱えられている。
本体。
モニター。
キーボード。
マウス。
全部合わせると、かなりの重さだった。
「なんでデスクトップパソコンなんか作ったんだ……」
ユウトは、額に汗を浮かべながら呟く。
「ノートにすればよかった……」
前を歩くセレスが、くるりと振り返る。
「ほら、早くー」
「ちょっとは手伝えよ……」
「女の子に荷物を持たせるつもり?」
「だからモテないのよ」
「うるせー!」
ユウトは歯を食いしばりながら歩く。
腕が痛い。
腰も痛い。
正直、今すぐ地面に置きたい。
だが。
これは、ようやく作り出した試作品だ。
落とすわけにはいかない。
「……」
そこで、ユウトはふと足を止めた。
(まてよ……)
「なぁ……」
ユウトは、息を切らしながらセレスを見る。
「迎えに来てもらえば良かったんじゃないか?」
「……」
セレスが黙った。
「お、おい……」
「まさか……」
セレスは、ゆっくりと視線を逸らした。
「盲点だったわね」
「オイイイイイ!!」
ユウトの声が、通りに響いた。
「このポンコツ全知全能が!!」
「なによ!」
セレスが頬を膨らませる。
「自分だって気づかなかったくせに!!」
「俺は全知全能じゃねえんだよ!」
「言い訳しない!」
「お前が言うな!」
セレスはぷいっと前を向く。
「ほら、行くよ!」
「くそー!」
ユウトは、再び重いパソコンを抱え直した。
腕が震える。
足取りは遅い。
それでも、セレスは容赦なく先を歩いていく。
(こいつの能力……)
(こんな弱点もあるのかよ……)
全てを知っているはずなのに。
なぜか、こういうところは抜けている。
ユウトは汗を流しながら、深くため息をついた。
「……次は絶対、持ち運べるやつ作る」
「それはいい考えね!」
―――
やがて。
「見えてきたわよ」
「私も少し持ってあげる!」
「今更かよ!!」
セレスが、モニターを持つ。
その時だった。
「ユウトさーん!」
正面から、青年が手を振りながら駆け寄ってくる。
「久しぶりっすね!」
ユウトは、きょとんとした。
(たしか……)
(見覚えあるんだけど)
(誰だっけ?)
「やだな!」
青年は笑った。
「リオスですよ!!」
「前に商業ギルドからここまでご一緒したじゃないっすか!」
「ああ、そうだそうだ!」
ユウトはようやく思い出したように頷いた。
「あの時はありがとな!」
「いえいえ!」
リオスは、ユウトの抱えているものに目を向ける。
「何してるんですか?」
「新商品をアメリさんに見てもらおうと思って」
「へぇ……」
リオスは、パソコンをまじまじと見る。
「重そうですね?」
「重い」
「自分、手伝いますよ!」
「マジか、助かる」
そう言いかけた瞬間。
リオスは、ちらりとセレスの方を見た。
そして、目を丸くする。
「ダメじゃないっすか!」
「女性にこんな重そうなもの持たせちゃ!」
「お姉さん、自分が持ちますよ!」
「ふふふ」
セレスは、にこっと笑った。
「ありがとうございます」
リオスは、セレスからモニターを受け取る。
その様子を見て。
ユウトは、無言で固まった。
(こいつ!!!)
「さっ、行きましょう」
「ユウト、もうすぐよ!頑張って!!」
笑顔で歩き出すセレス。
受付に着くころには、ユウトの腕は限界を迎えかけていた。
「し、死ぬ……」
ユウトは、抱えていたパソコンを床に置きたい衝動を必死にこらえる。
隣では、セレスが平然と立っている。
少し後ろでは、リオスがモニターを抱えていた。
「す、すみません」
ユウトは受付の女性に声をかける。
「ユウト様、いかがなさいました?」
「あの……」
「副社長いますか?」
受付の女性は、すぐに表情を整えた。
「確認いたします」
「シオリもいると伝えてください」
セレスが口を挟む。
「かしこまりました」
受付の女性は小さく頭を下げた。
「あちらでお掛けになってお待ちください」
「はい……」
ユウトは返事をして、待合用の椅子へ向かう。
そして。
ようやく、パソコンを下ろした。
「はあああああ……」
魂が抜けるような息が漏れる。
「大げさね」
セレスが言う。
「お前は何も持ってないからだろ……」
「私はモニターを持ってたわ」
「途中からな!!」
ユウトが恨めしそうに言うと、セレスはにこっと笑って誤魔化した。
リオスは、そんな二人を不思議そうに見ていた。
「シオリさんって、このお姉さんのことっすか?」
「まあ……」
ユウトは少しだけ言葉に詰まる。
「そうなんすね!」
リオスは、ぱっと表情を明るくした。
「自分はリオスっす!」
「よろしくです!」
リオスが自己紹介を始める。
その時だった。
奥の階段から、慌ただしい足音が聞こえてきた。
ダダダダダッ。
「シオリー!!」
アメリが、勢いよく階段を駆け下りてくる。
そのまま一直線に、セレスの方へ向かった。
「えっ」
リオスがぽかんと口を開ける。
アメリは周囲の視線など気にせず、セレスの前で足を止めた。
「シオリ!」
「本当にシオリなの!?」
セレスは、少しだけ困ったように笑う。
「うん」
「ただいま、アメリ」
その言葉に、アメリの表情が崩れた。
「……っ」
次の瞬間。
アメリは、セレスを抱きしめた。
「待って、アメリ」
セレスは、抱きしめられたまま言う。
「彼に、ここまで荷物を運んでもらったの」
そう言って、セレスはリオスに視線を向けた。
「あなたは確か……」
アメリの顔が、ぱっと明るくなった。
「リオス!!」
「え……」
リオスは慌てて背筋を伸ばす。
「そ、そんな、とんでもないです!」
「助かりました」
セレスは深く頭を下げる。
「ありがとうございます」
「い、いえ!」
リオスは顔を赤くして手を振った。
「自分、たまたま通りかかっただけっすから!」
「よくやったわ! リオス!!」
「え……」
アメリは満足そうに頷くと、セレスの手を取った。
「さっ、行きましょう! シオリ!」
その様子を…
キョトンとした顔で見つめるリオス。
そして、もう一人。
「俺はああああああああ!!?」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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セレスだけじゃなく作者も後で気づきました。




