第82話:デウス商会
ゴルディア郊外。
工事中の看板が立っている。
立ち入り禁止の縄が張られ、地面には資材が積まれていた。
そこへ、男が歩いてくる。
上から下まで、真っ黒な服に身を包んでいる。
腰まで伸びた長い髪。
だが、その姿に不潔さはなかった。
むしろ、異様なほど整っている。
綺麗な容姿。
静かな足取り。
男は足元を気にする素振りもなく、工事現場へ入っていく。
「おい、あんた!」
遠くから、大声が飛んだ。
男は足を止めない。
「ここは立ち入り禁止だ!」
「工事中の看板が見えないのか!」
作業員の一人が駆け寄ってくる。
「これはこれは」
黒服の男は、ゆっくりと振り返った。
「初めまして」
「……ゼルディアさん」
「なぜ、俺の名前を……」
ゼルディアの表情が険しくなる。
「知っていますとも」
「我々の情報網で、全て調査済みです」
「情報網……?」
「ラムネの転売でバルド商会から見限られ、廃業」
「やり方はどうであれ」
「あなたには、金を稼ぐ執着があるようだ」
「……」
「どうです?」
黒服の男は、静かに手を差し出した。
「我々と働きませんか?」
「我々?」
ゼルディアは眉をひそめた。
「あんた、いったい……」
「申し遅れました」
男は、胸に手を当てる。
「この度、新しく商会を立ち上げました」
「“デウス商会”の代表を務めております」
「ルイス・デウス、と申します」
「どうです?」
「転売なんて小銭稼ぎより……」
「もっと大きな富を手に入れませんか?」
「……ハハッ」
ゼルディアの口元から、笑みがこぼれた。
その時。
資材の影から、もう一人の男が現れた。
「落ちましたね」
「ええ」
ルイスは振り返らずに答える。
「君の言った通りでしたよ」
「シュウイチくん……」
「君のスキルは素晴らしい」
「ありがとうございます」
ルイスはゼルディアに目を向ける。
そして、薄く笑った。
「ようこそ」
「デウス商会へ」




