第79話:恐ろしい運転手
「んじゃ、出発するぞー」
全員が車に乗ったことを確認し
ロイドが声をかける
その直後――
車体が、ふわりと浮き上がる。
「……え?」
ユウトは思わず窓の外を見る。
地面が、少しずつ離れていく。
(え? 飛ぶの?)
(飛行タイプの魔物に狙われるんじゃ……)
「どうかしましたか?」
驚くユウトに、ウラジオが声をかける。
「いや、来る時は地面を走行してきたので……」
ユウトが答えると、シシリーが不思議そうに首を傾げた。
「今どき地面を走る車ですか?」
「珍しいですね」
(そうじゃないんだけどな……)
「クスっ」
隣で、セレスが小さく笑う。
「たぶん、魔物を警戒してのことですよ」
ロイドが前を向いたまま説明する。
「空中で飛行タイプの魔物に襲われでもしたら、落下して危ねぇって事です」
「なるほど、そうでしたか!」
ウラジオが納得しかける。
「……」
その横で、シシリーの顔色がわずかに変わった。
ウラジオも、遅れて気づく。
「ロイド!!」
二人の顔色が悪くなる。
「安心してください」
「地上でも空中でも、走行中に魔物に襲われたら生きてられやせんから」
「安心できるか!!」
ウラジオが即座に叫ぶ。
「フフフ」
そのやり取りにセレスが笑いだした。
「ハハハッ」
それを見てロイドも笑い出す。
窓の外では、村がどんどん小さくなっていく。
隣には、シオリの姿をしたセレス。
笑い声と叫び声の中にいても。
何もかもが元通りになったわけではない。
それでも――
ほんの少しだけ。
気持ちが楽になった。
――
結局、ウラジオとシシリーの圧に押され、ロイドは地面を走行していた。
しばらく車を走らせると街が見えてきた。
外はもう暗く、夜になっていた。
大きな門-
数日ぶりにゴルディアに戻ってきた。
「地面なんて久しぶりに走ったな」
「ここからは飛んで行きやすぜ」
ロイドが言うと、車は門を潜り抜け浮かび上がる
「わぁー」
隣でセレスが外の景色を見ながら声を上げる
「綺麗」
(知ってるんじゃなかったのか…?)
セレスの素直なリアクションに車内に温かな空気が漂った。
「そう言えばユウト殿」
「明後日は商業ギルドの決算日ですな」
「明日、ラムネの利益をお渡しいたしますので」
「商会までお越しいただけますかな?」
(そう言えば…)
(忘れてたな)
「わかりました」
やがて車は降下し
ユウトのアパートの前で止まった。
「ありがとうございました」
ユウトとセレスは礼を言い、車を降りる。
「シオリ様?」
「ご自宅までお送りいたしますよ?」
ウラジオが言う。
するとセレスは、にこりと笑った。
「私の家、ユウトの隣なんです」
「…」
「コホン」
シシリーの咳払い
「これはこれは」
「私としたことが…」
「失礼いたしました」
なにやら生暖かい目で見られたが
気づかなかったことにする
「それではユウト殿、また明日」
「シオリ様も、いずれまた」
そう言うと、車は静かに走り出し
そのまま浮かび上がった。
ユウトはそれを、しばらく眺めていた。
夜の街。
遠ざかる車。
ようやく戻ってきたはずなのに。
何かが、まだ遠くに置き去りになっているような気がした。
「ユウト」
セレスが呼びかける。
「どした?」
振り向く。
セレスは、少しだけ困ったように笑っていた。
「お腹、すいたね」
「……」
ユウトは一瞬だけ固まる。
そして、ようやく気づいた。
「そう言えば、何も食べてなかったな」
「うん」
セレスが頷く。
「ご飯、食べに行こ?」
あまりにも普通の誘いだった。
だからこそ。
少しだけ、救われた気がした。
「……あぁ」
ユウトは小さく頷く。
「行くか」




