第77話:約束
教会へ戻る、ユウトとセレス。
扉を開ける。
「ユウト殿」
「リフレッシュできましたか?」
そこにいたのは、ウラジオだった。
「えぇ、まぁ……」
心配をかけまいと、ユウトは短く答える。
「ところで、レグナスさんは?」
「レグナスなら、村長と話があるとかで」
「朝から出ておりますな」
その横で。
「大丈夫」
小さな声。
「私を信じて」
セレスだった。
ほとんど囁きに近い。
そして、ニコっと笑う。
「……」
ユウトは何も言わない。
その確信に、もう驚きはしなかった。
その時――
扉が開く。
ゆっくりと。
軋む音。
入ってきたのは――
「おや?」
レグナスだった。
「ユウト殿、目が覚めましたか」
穏やかな声。
「心配しましたよ」
「……」
ユウトは一歩、前に出る。
迷いはない。
「あの、お聞きしたいことがあります」
その一言で。
空気が、わずかに変わる。
「……ほう」
レグナスの目が、細くなる。
一瞬だけ。
その視線が――
ユウトではなく、隣へ向く。
シオリの姿をしたセレスへ。
ほんの一拍。
そして。
静かに、頷いた。
その瞬間。
レグナスの脳裏に、二日前の言葉が蘇る。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「これから2日間、ユウトは眠りにつきます」
「二日後、目覚めたユウトがあなたに質問をしてきます」
「その時は何も答えずに――」
「この指輪を、渡してください」
「それと……」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「……」
レグナスは何も言わない。
何も聞かない。
ただ静かに、懐へ手を入れた。
「こちらを」
差し出されたのは――
一つの指輪。
「……これって」
ユウトの目が見開かれる。
見覚えがある。
忘れるはずがない。
(認識阻害リング……)
かつて。
シオリが“バルド”として振る舞うために使っていたもの。
「……っ」
言葉が出ない。
(なぜ俺にこれを?)
(意味がわからない)
隣を見る。
彼女はただ、微笑んでいた。
優しく…
だが――
何も言わない。
その沈黙が、すべてを物語っているようで。
「……」
ユウトは、視線を戻した。
「じゃあ、帰ろっか」
あまりにも自然な一言。
「帰るって、どうやって……」
言いかけた、その時。
再び、扉が開く。
「旦那ー」
軽い声。
「迎えに来やしたぜ」
ロイドだった。
「おぉ、来たか」
「随分早かったな」
「ん?」
「なんだ、兄ちゃん達も来てたのか」
ニヤリと笑う。
「丁度いい」
「乗ってくか?」
「お前、勝手に!!」
「私が言おうとしてた事を」
「悪りぃ、旦那」
軽口が飛ぶ。
張り詰めていた空気が、ふっと緩む。
「……」
ユウトは、小さく息を吐く。
そして――
「ハハ」
久しぶりに、ユウトの顔にも笑顔が戻った。
「お願いします」
隣で。
柔らかな笑み。
「では、妻を呼んで参ります」
ウラジオもまた、穏やかに微笑んだ。
ほんの少しだけ――
心が、軽くなった気がした。
――
時を同じくして。
光の届かない、歪んだ空間。
そこには、教会にいるユウトとセレスの姿が映し出されていた。
「なぜだ……」
低い声が響く。
「なぜ、あの子が……」
その声には、わずかな動揺が混じっていた。
映し出されたセレスが、静かに口を開く。
「大丈夫」
「……!?」
暗闇の中で、息を呑む気配。
セレスはまるで、その視線に気づいているかのように――
ゆっくりと微笑んだ。
「私を信じて」
そして。
ニコっと笑う。




