第76話:全てを知るもの
「……」
言葉が出ない。
何も、浮かばない。
頭の中を――
そのまま覗かれているような感覚。
ユウトは、息を詰めたまま立ち尽くす。
「……そう」
セレスが、小さく頷く。
「私やシオリちゃんにとって…」
「言葉は意味を持たない」
静かな声。
感情の起伏は、ほとんどない。
「相手が何を言うのか、知っている」
「相手がどう動くのかも、知っている」
一歩、湖の方へ視線を向ける。
「誰かの思いも……」
「誰かの未来も……」
「誰かの願いも……」
そして――
「すべて、知っている」
その言葉が落ちた瞬間。
空気が、ほんの少しだけ重くなった。
「……っ」
ユウトは、言葉を失う。
理解したくない。
だが――理解してしまう。
(じゃあ……)
ふと、ひとつの疑問が浮かぶ。
(あの時――)
レグナスと話していた、あの場面。
(あいつは……何を……)
思考が、そこまで進んだ瞬間。
「その答えは」
間を置かず。
セレスの声が重なる。
「レグナス本人に聞きに行きましょう」
「……は?」
反応が遅れる。
ようやく意味が追いつく。
「ちょっ――」
言いかけた瞬間。
セレスが、歩き出す。
迷いなく。
ためらいもなく。
湖を背にして。
「行くわよ、ユウト」
振り返らない。
着いてくるのが当然であるかのように。
「……っ」
ユウトは歯を食いしばる。
気持ちは追いついていない。
理解も、整理も、何一つできていない。
それでも――
足は止まらなかった。
「……待てよ」
小さく呟きながら、
その背を追う。




