第71話:揺れる炎、揺れる運命
燃え上がる炎。
歓声。
拍手。
火祭りは最高潮を迎えていた。
「おおおおおっ!!」
人々の声が夜空に響く。
ユウトはその光景を見上げながら、どこか落ち着かなかった。
(……なんだ、この感じ)
胸の奥がざわつく。消えない。
その隣で、
「ちょっと待ってて」
シオリが、ふいに言った。
「は?」
「すぐ戻るから」
そう言って、人混みの中へと消えていく。
「お、おい――」
呼び止める間もなかった。
――――――
広場の端。
レグナスが静かに炎を見つめている。
その背後に、
「レグナスさん」
シオリの声。
「……おや」
振り向く。
二人は、短く言葉を交わす。
周囲の喧騒に紛れ、その内容はユウトには聞こえない。
ただ――
レグナスの表情だけが、わずかに変わった。
ほんの一瞬だけ、“理解した”という顔。
そして、静かに頷いた。
シオリもまた、小さく頷き返す。
そして――
何かを手渡したように見えた。
それだけで、会話は終わった。
――――――
「お待たせー」
戻ってきたシオリ。
「どこ行ってたんだよ」
「ちょっとね」
軽く笑う。何もなかった顔。
だが、そのまま自然にユウトの隣へ戻る。
ほんの少しだけ、距離が近い。
「……レグナスと何話してた?」
「内緒」
即答だった。
「は?」
「そのうち分かるよ」
軽く言う。
だがその言葉は、妙に重かった。
「ほら、見て」
シオリが炎を指さす。
「もうすぐだよ」
「何がだよ」
ユウトが眉をひそめる。
その時、
「……?」
ふと、違和感。
シオリが、こっちを見ていた。
ほんの一瞬。
すぐに視線は炎へ戻る。
「なんだよ」
思わず言う。
「ん?」
「いや、今……」
言いかけてやめる。
シオリは普通に笑っていた。
「なに?」
「……いや、なんでもねぇ」
気のせいかもしれない。
そう思った。
――だが。
少しだけ遅れて、また視線が来る。
今度は気づかないふりをした。
理由は分からない。
けど、なぜか何も言わない方がいい気がした。
その瞬間だった。
――ゴォン
低い音。
空気が震える。
「……?」
誰かが顔を上げる。
次の瞬間、炎が大きく揺れた。
そして――遠くの湖が光る。
それ自体は、いつもと同じ光景のはずだった。
だが、違う。
揺れている。
まるで鼓動のように。
一定の間隔で、強く、弱く。
炎と湖が、同じリズムで脈打っていた。
「な、なんだ……?」
「湖が……変じゃないか?」
ざわめきが広がる。
「こんな光り方……」
「見たことねぇぞ……」
人々がざわつき始める。
ユウトは目を細める。
ただ光っているだけじゃない。
“何かに応えている”ような光。
「……来た」
シオリが呟く。
あまりにも自然に。
ユウトは思わず、シオリの方を見る。
だが、シオリはもう湖を見ていた。
その目は、最初から分かっていたように静かだった。
「詩織、お前――」
言いかける。
だが、シオリは振り向かない。
ただ、ひとつだけ。
「……優斗」
呼ばれて、顔を向ける。
シオリは一瞬だけ、安心したように笑った。
「――うん」
それだけ。
何かを確かめるように。
その目は、もう誤魔化していなかった。
そしてすぐに、視線は湖へ戻る。
炎が揺れる。
湖が脈打つ。
夜は、静かに壊れ始めていた。




