第66話:妙算
食後――
教会の食堂では
片付けが始まっていた。
シスターとシシリーが
食器を洗いながら楽しそうに話している。
その少し離れた席で――
ユウト。
シオリ。
ウラジオ。
レグナス。
四人はテーブルを囲み
目の前には湯気の立つ紅茶が置かれていた。
「さて……」
最初に口を開いたのは
レグナスだった。
「既にお気づきかと思いますが……」
「私とウラジオは、この教会の出身です」
穏やかな声で語り始める。
「今でこそ魔物の出現は減りましたが」
「昔はこの辺りも頻繁に襲われましてね」
「冒険者だった私たちの両親も、その被害で命を落としました」
静かな空気が流れる。
その言葉を継ぐように
ウラジオも口を開いた。
「だからこそ……」
「我々は、あなたに感謝しているのです」
真っ直ぐにシオリを見る。
「シオリサトウ様」
「あなたのおかげで…」
「魔物の被害は格段に減りました」
「あなたのおかげで…」
「私たちのような目に遭う子供も減った」
「本当に――」
「ありがとうございます」
ウラジオとレグナスが
揃って頭を下げる。
「ちょ、ちょっと……!」
珍しくシオリが慌てた。
「頭を上げてください!」
「私のこともシオリで結構ですから!」
二人が顔を上げる。
シオリは一つ息を整え、
真面目な表情になった。
「実は……」
「今日はお二人に話があって来ました」
「その前に――」
パチン。
指を鳴らす。
次の瞬間
シオリの全身が淡く光り出した。
「お、おい……」
「いいのか?」
ユウトが小声で言う
「いいのよ」
「隠し事なしで行きましょう」
光が収まる。
そこに立っていたのは――
バルドだった。
「!?」
「なっ……!?」
ウラジオとレグナスの目が見開かれる。
堂々と胸を張り
バルドが口を開く。
「改めまして」
「バルド商会代表の――」
「バルドです」
「…………」
ウラジオは口を開けたまま固まり
レグナスも珍しく言葉を失っていた。
再び――
パチン。
光が走り
その姿は元のシオリへ戻る。
「……こういう訳でして」
シオリが少し照れくさそうに言った。
「バ、バ……シオ……えぇ??」
さすがのレグナスも
理解が追いつかない。
一方、ウラジオは――
「……あぁ、夢か」
バタん-
「今は夢で」
「あれは寝てる夢で」
「今は寝てなくて……」
椅子ごと転げ落ち
テーブルを倒しながら
現実との境界を見失っていた。
「はぁ……」
シオリがため息をつく。
「優斗、アレお願い」
「はいはい」
ユウトは倒れたテーブルを戻し
空中へ手をかざす。
すると――
目の前に
新しい紅茶のカップが現れた。
「えええ!?」
「い、今どこからそれを!?」
再び驚く二人。
だが先ほどよりは
まだ正気を保っていた。
「私と優斗は――」
シオリが静かに言う。
「他の世界から来た、転生者です」
その言葉に
レグナスの表情が変わる。
「レグナスさんなら、ご存知では?」
シオリが問う。
レグナスはゆっくり頷いた。
「ええ」
「うちにも一人おります」
「!?」
今度はウラジオが飛び起きた。
ユウトは目を細める。
(……やっぱりか)
シオリが続ける。
「その転生者について、教えていただけますか?」
少しの沈黙。
やがてレグナスは
紅茶を一口飲んで口を開いた。
「……いいでしょう」
「彼の名は――」
「シュウイチ・ヤスダ」
ユウトの視線が鋭くなる。
「“妙算”という技を使えると」
「本人は語っていました」
(スキルのことか……)
「望んだ結果へ至る計画を組み上げる」
「そういう能力だと」
(強すぎだろ……)
ユウトが内心で呟く。
だが――
レグナスは続けた。
「ただ、最近――」
「その“妙算”以上の力を持つ者が現れたと、
彼は焦っておりました」
ユウトの背に
冷たい汗が流れる。
「それって……」
レグナスは静かに微笑んだ。
「あなたです」
「ユウト殿」




