第61話:大商人の器
うら飯屋。
昼下がりの店内で
ロイドは飯を食いながら昨夜を思い出していた。
椅子にしがみつき
「今それどころではない!」
「私にはまだ、やることがある!」
と駄々をこねるウラジオの姿を。
「あれが旦那のライバルだと?」
ぽつりと呟く。
「分からねぇもんだな……」
その横で親父が腕を組んでいた。
「おい、まずいぞ」
「ん?」
「あいつ、俺の料理を気に入ったらしい」
「俺の腕を見込んで、
金持ち連中に料理を作らされるかもしれん」
真顔だった。
「それは無いから安心しろ」
ロイドが即答する。
その時――
外が騒がしい。
「だから、お前があの時……!」
「違うって!優斗が……!」
入口の扉が勢いよく開いた。
「いつもの!」
「いつもの!」
声を揃えて入ってきたのは、
ユウトとシオリだった。
ロイドが目を細める。
「なんだ兄ちゃん」
「数日見ない間に、
ずいぶん見違えたな?」
「何騒いでんだ、お前ら……」
「あぁ、ロイドか」
「それがさっきレグ――ッツ!」
ユウトが言いかけた瞬間、
見えない位置からシオリが腕をつねった。
「なんでもありません」
「ちょっとデート中のいざこざで」
シオリが割り込む。
(なにすんだよ!)
ユウトが小声で抗議する。
(ウラジオ商会に、
レグナスとの接触を悟られるじゃないの)
(……あぁ、そうか)
すぐ納得した。
「そうかい……」
ロイドは苦笑する。
「それにしても兄ちゃん」
「女とのデートに、こんな汚ねぇ店選ぶなんて」
「どんなセンスしてんだ?」
笑いながら言う。
「お前今日何回汚ねぇって言うんだ!」
親父が即座にツッコんだ。
さっきまでの言い争う空気が、
一気に和やかになる。
ロイドはふと、
シオリに完全に主導権を握られているユウトを見て、
昨夜奥様に怒鳴られていたウラジオを思い出した。
「フッ……」
「商人ってのは、皆こうなのかねぇ」
ぼそりと呟く。
「そういや姉ちゃんとは初めてだったな」
「ロイドだ。よろしくな」
「カオリです」
「よろしくお願いします」
(また偽名かよ……)
ユウトは心の中で突っ込む。
「あら?」
シオリがカウンターの上を見る。
まだ片付いていない器が残っていた。
「この店に、他にお客さんが来たの?」
珍しい光景だった。
「あぁ」
「ついさっき帰ったけどな」
親父が答える。
「へぇー、珍しい」
ユウトが素直に驚く。
「うるせえよ!」
親父が即ツッコミ。
二人はカウンターに並んで座る。
しばらくして――
ユウトの前には定食。
シオリの前には、
やたら洒落た料理。
「いただきます!」
二人は同時に食べ始めた。
その様子を見ながら、
ロイドはさっきの――
レグナスのことを思い返す。
「……」
「まさかな」
小さく鼻で笑う。
「フッ」
「旦那の酒がまた進みそうだ」




