第6話:夢の空飛ぶ車
「ユウト様、お迎えに参りました」
扉の前に立っていたのは、黒服の男だった。
背筋は真っ直ぐに伸び、無駄な動きが一切ない。
ただ立っているだけなのに、妙な威圧感がある。
その後ろには、黒塗りの車。
(……完全にVIP扱いだな)
「どうぞ、こちらへ」
ドアが静かに開かれる。
中は想像以上に広かった。
座席は柔らかく、体が沈み込む。
「すげぇ……」
思わず声が漏れる。
「初めて見る顔だな」
前の席に座っていた男が、バックミラー越しにこちらを見た。
運転手だろうか。
「ええ、まぁ……」
「旦那に気に入られたって訳だ」
ニヤリと笑う。
「……そんなにですか?」
「こんな対応するの、そうそうねぇよ」
軽い口調だが、その言葉には妙な重みがあった。
車は静かに走り出す。
音がほとんどしない。
揺れも少なく、まるで滑るように進んでいく。
(やっぱり、この世界の技術すごいな……)
そう思った、次の瞬間――
ふわり、と体が浮くような感覚。
「……え?」
窓の外を見る。
地面が、離れていく。
「……飛んでる?」
「おう」
運転手はあっさり答える。
「この街じゃ珍しくねぇよ」
(いや、十分すごいだろ……)
車はそのまま高度を上げていく。
窓の外に広がるのは、ゴルディアの全景だった。
円形の街。
中央に広がる商業区。
外側へと整然と並ぶ住宅区と工業区。
上空から見ることで、その構造がはっきりと分かる。
(本当に、管理された街なんだな……)
「どこに向かってるんですか?」
「レストランだ。旦那の行きつけのな」
「へぇ……」
「空路の方が早ぇからな」
「なるほど……」
(移動まで効率重視か)
「緊張してるか?」
「まぁ、少しは」
「ははっ、だろうな」
運転手は楽しそうに笑う。
「けど安心しろ。旦那は怖ぇ人じゃねぇ」
「そうなんですか?」
「ああ。ただ――」
一瞬、間が空く。
「金の話になると、別人だけどな」
「……」
(やっぱりそういう人か)
(大商会の一角)
(そんな人間が、わざわざ俺を呼んだ)
(目的は……)
考えるまでもない。
(俺のアイディアだ)
(囲い込みか?)
(それとも共同か?)
(最悪、奪われる可能性も……)
無意識に拳に力が入る。
「着いたぞ」
車はゆっくりと高度を下げていく。
静かに地面へ――着地した。
ドアが開く。
目の前に広がっていたのは――
一目で分かる、高級店。
落ち着いた外観。
無駄のない装飾。
だが、その空気は明らかに“格が違う”。
(ここで食うのかよ……)
「こちらへ」
黒服の男に案内され、中へ入る。
店内は静かだった。
客はいるが、誰も騒がない。
低い声での会話だけが、わずかに響く。
奥へ、奥へと進む。
一般席を抜け、さらに奥の扉の前で足が止まった。
「お待ちしておりました」
扉が開かれる。
その先には、個室。
そして――
一人の男が、椅子に座っていた。
「来たか」
ゆっくりと顔を上げる。
余裕のある表情。
鋭い目。
そして――
机の上には、見覚えのあるもの。
ルービックキューブ。
「ようこそ、ユウト殿」
男は静かに微笑んだ。
その仕草はどこまでも丁寧で、無駄がない。
「お待ちしておりましたよ」
低く、よく通る声。
圧はあるが、不思議と不快ではない。
ウラジオだった。
(……ここからが本番だ)




