第5話:商業都市ゴルディア
ギルド内のざわめきも徐々に落ち着いて、さっきまで人だかりだった場所も、今はまばらだ。
「……で、時間どうしよう」
今夜6時に迎えが来ると言っていたが、時計を見ると後2時間もある。
やることもなく立ち尽くしていると――
「ユウトくん、時間あるでしょ?」
ケイトが、柔らかい笑顔で声をかけてきた。
「え、まぁ……」
「じゃあ、せっかくだし街の説明、聞いていく?」
「お願いします」
「まず、この街の名前だけど――ゴルディアっていうの」
ケイトは簡単な地図を広げた。
円形に広がる街。
中央に商業区、その外側に住宅区や工業区が配置されている。
「ここが商業区。ギルドや商会が集まる場所ね」
「今いるところですね」
「そう。で、外側が工業区。商品を作る場所」
(だからウラジオはあんな金を出せるのか……)
「あと、ゴルディアで商売するなら覚えておいた方がいいことがあるわ」
ケイトが少し声を落とす。
「この街には、“3つの大商会”があるの」
「大商会……」
「この街の流通、製造、販売。そのほとんどを握ってる存在」
地図の商業区を指でなぞる。
「まず一つ目――ウラジオ商会」
「……やっぱり」
「大量生産と流通が得意。とにかく規模で押すタイプね」
確かに、あの即決の仕方。
資金力と判断力の両方がある。
「二つ目は――レグナス商会」
「どんなところなんですか?」
「品質重視。高級品やブランドを扱う商会」
「ブランド……」
「ええ。“レグナスの品なら間違いない”って言われるくらい信用があるの」
(高くても売れるタイプか……)
「そして三つ目――バルド商会」
「ここは情報と仲介」
「仲介?」
「商人同士を繋げたり、新しい商売を作ったりするのが得意」
「……ブローカーみたいな?」
「そんな感じね。ただし、かなりやり手よ」
「この3つが、この街の経済をほぼ支配してる」
「……すごい世界だな」
「ええ。だから――」
ケイトは少しだけ真面目な顔になる。
「どこにつくか、もしくは距離を取るか。それがすごく大事」
(そんなやつらの一角が、俺に目をつけた……?)
(ってことは――)
(俺のアイディア、やっぱり相当ヤバいのか)
「この街はね、技術が発展してるの」
ケイトは続けて話しだす。
「建物とか車とか見たでしょ?」
「ああ、確かに。」
「でもね――娯楽が少ないの」
「娯楽……」
「便利すぎると、人って刺激に飢えるのよ」
あの光景が頭に浮かぶ。
ルービックキューブに群がる大人たち。
「だからユウトくんの商品、かなり価値がある」
「そんなにですか?」
「ええ。上手に捌けば一生食べていけるレベル」
「ええええ!」
「次に、商業ギルドの話ね」
「この街で商売するなら、基本的にギルド所属が必要」
「理由は?」
「管理と信頼」
「無許可の商売はトラブルが多いの」
「なるほど……」
「その代わり、売上の10%は納めてもらうけどね」
「……やっぱり」
苦笑する。
「ユウトくん」
ケイトが身を乗り出す。
「一番儲かるのはどんな人だと思う?」
「……、売る人…、ですか?」
「半分正解」
微笑む。
「“需要を生み出した人”よ」
「……」
「誰も知らないものを、最初に持ち込んだ人」
――ドクン。
(それって……)
(俺じゃないか)
(この世界にないものを出せばいい)
(それだけで金になる)
(しかも、いくらでも思いつく)
「ま、細けぇことはいい」
ワイトが口を挟む。
「儲けりゃ勝ちだ」
「雑すぎますよ」
「事実だろ」
「あ、ごめん。もうこんな時間」
ケイトが立ち上がる。
きっちり定時。
「私はここまで。またね」
あっさり帰っていった。
ケイトが帰ったあとは、しばらくワイトと話していた。
住むところ、安くて美味い店、ウラジオについて。
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「ユウト様、お迎えに参りました」
外には黒塗りの車。
(来たか……)
ディナー。
それは単なる食事じゃない。
大商会の一角――ウラジオが、次の一手を打ってくる場だ。




