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最強の創造スキルを手に入れた俺、異世界で大儲けできると思ったら現代科学より上でした  作者: おりこー3


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第53:タナベのスキル

うら飯屋へ向かう車内。


運転席には、黒服の男。

助手席には、親父――タナベ。


そして後部座席には、バルドとユウトが並んで座っていた。


車体が静かに浮かび、 夜の街へと滑り出す。


窓の外には、無数の灯り。

静かな沈黙。


その時――



「これが……」


バルドが、ゆっくりと窓の外を眺めながら口を開く。



「上に立つ者の景色か」


「……」


ユウトの顔が引きつる。


(やめろ!!)

(なんで擦るんだよ!!)


肩身が狭い。

逃げ場もない。

前方から、小さな震え声が聞こえた。



「……プッ」


助手席。

タナベが肩を震わせている。


(お前も!)

(笑うな!!)


なんとか平静を装うユウト。


だが耳は赤い。

そうこうしているうちに、 車体がゆっくりと下降を始める。


街の灯りが近づき、 見慣れた通りへと戻っていく。


その瞬間――



「おかえり」


タナベが振り返りもせず、ぽつりと言った。



「……っ」


(お前も黙れ!!!)


後部座席で拳を握るユウト。



「ふはははは!」


バルドが堪えきれず笑い出す。



「……」


(こいつら……!)


車内の空気は妙に楽しげだ。


ただ一人――

運転手だけが、 状況を理解できず無言だった。


そしてもう一人――

恥ずかしさで、 今すぐ逃げ出したい男がいた。



「到着いたしました」


黒服の男が、淡々と告げる。

車は静かに停止する。


目の前には―

うら飯屋


「ありがとう」

「お疲れさま」

「ゆっくり休んでくれ」


バルドが言う。


(もういいって…)


「それでは失礼いたします」


黒服の男は深く一礼すると、 静かに車を走らせ、夜の通りへ消えていった。


残された3人の前で、 タナベが慣れた手つきで店の戸を開ける。


ガラガラ――

古びた引き戸が、 懐かしい音を立てた。


中は昼間とは違い、 静かな闇に包まれている。


タナベが壁のスイッチに手を伸ばす。

パチン。


一つ、また一つと灯りが点き、 店内に柔らかな橙色の光が広がった。


年季の入った木のカウンター。

磨かれた調理台。

壁に掛けられた手書きの品書き。



「どうぞ」


タナベに促され、 バルドとユウトがカウンター席へ座る。

椅子が小さく軋む。



「さて、何にしましょう」


タナベが穏やかに尋ねた。



「カルボナーラと……」


バルドがメニューも見ずに言う。



「タルトタタン」


「……」


(できるのか?)

(タルトタタンってなんだよ)

(明らかにその姿に似合わないものだろ……)


白髪混じりの年配男が、 真顔で洒落た注文をする姿に違和感しかない。



「じゃあ、俺も……」


半信半疑のまま、 ユウトも同じものを頼んだ。


「あいよ!」


(こいつのキャラはなんなんだ…)

(ブレブレじゃねぇか…)



タナベは軽く頷くと、 迷いのない手つきで調理を始める。


鍋の湯気。

フライパンの音。

香ばしい匂い。


手際は異様なほど美しかった。


しばらくして――

目の前に皿が置かれる。


卵とチーズの濃厚な香りを纏ったカルボナーラ。

リンゴが艶やかな焼き色のタルトタタン。


「……」


ユウトは言葉を失う。


「すげぇ……」


思わず漏れた本音。


少しだけ――

タナベのスキルを見直した。


一口、口に運ぶ。



「……!」


ユウトの目が見開かれた。


濃厚なのに重すぎず、 滑らかなソースが麺に絡む。

胡椒の香りと旨味が一気に広がり、 思わず無言になる。


(うまい……)

(なんだこれ……)


感激したまま、 夢中でフォークを動かす。

ふと、横を見る。



「……」


いつの間にか、 バルドの姿が消えていた。

そこにいたのは―― シオリ。



「ところで」

「その変身みたいなのって、何なんだ?」


ユウトが口を開く。



「あぁ、これ?」


シオリは指にはめたの小さな装飾具を外して見せる。


銀色の輪に、 薄い宝石が埋め込まれていた。



「認識阻害リング」

「これを着けてると、 周囲には私が“想像した姿”に見えるのよ」


「へぇ……」

「それもお前の発明か?」


「もちろん!」


胸を張るシオリ。



「こんな可愛らしい少女が商会なんて始めても、舐められるだけだからね」


「バルドの姿で資金を集めて元の姿で発明する。 気づけばこの街の中心ってわけ」


得意げに笑う。



「そうかよ……」


ユウトは呆れたように返した。


だが、 少しだけ感心もしていた。


―――


食事を終え、 2人は店を出る。


夜風に当たりながら、 アパートへ戻る頃には 街の灯りもまばらになっていた。


互いの部屋の前で立ち止まる。



「じゃあね、優斗―」

「おやすみ」


シオリが柔らかく笑う。



「あぁ……」

「おやすみ」


短く返すユウト。


シオリは隣の部屋へ入り、 扉が静かに閉まった。


ユウトも自室の扉を開ける。

中に入り、 灯りを点ける。


ぱっと照らし出されたのは――


黒いカーテン。

黒いソファ。

黒い机。

黒いベッド。


黒一色の家具たち。



「……」


少しだけ沈黙。



「良いじゃねぇか……」


誰に言うでもなく呟く。


そのまま、 真っ黒なベッドへ倒れ込む。

天井を見つめながら、思い返す。


(「じゃあね、優斗」)

(「おやすみ」)


「……」


静かに目を閉じる。


(詩織に……また会えた)


胸の奥に、 じんわりと温かいものが広がっていく。


気づけば、 口元が少しだけ緩んでいた。


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