第51話:悪魔
「……はぁ」
少しだけ苛立ちを滲ませたシオリが、 アメリに視線を向ける。
「アメリー、ちょっといい?」
くい、と手招きする。
アメリが静かに歩み寄る。
二人はユウトから少し距離を取り、 小声で話し始めた。
「……」
「それで……」
「えぇ……」
「やっぱり……」
ヒソヒソと続く会話。
その最中――
ちらり。
たまに2人の視線が、ユウトへ向く。
冷たい。
とても冷たい。
「……」
(なんだよ……)
居心地が悪い。
やがて――
「わかったわ」
アメリが小さく頷き、 ユウトの背後へと戻る。
「なんだよ」
シオリを睨むユウト。
「感じ悪いぞ……」
「……」
2人は何も答えない。
ただ――
距離が、近い。
「ねぇ、優斗――」
シオリが口を開く。
「優斗に見てほしいものがあるの」
「……は?」
次の瞬間――
ガシッ。
「――え?」
後ろから腕を取られる。
「ちょっ……!」
「大人しくしてください」
アメリの声。
完全に羽交い締めにされる。
「離せって――!」
無駄だった。
パチン。
シオリが指を鳴らす。
その瞬間――
背後に巨大なモニターが現れた。
画面が点灯する。
映し出されたのは――
「……」
(あれ……)
(これって……)
「それは……」
今日、自分が送った写真。
あの服。
「優斗」
シオリが静かに言う。
「この服、自分で作ったでしょ」
「……いいだろ、別に」
目を逸らす。
「ふーん?」
画面を指差す。
「ここ、破けてるよ?」
「やめろ!」
「言わないでくれ」
「ここにチェーン着けるのがポイントだった?」
「やめてくれ」
「この英語、どういう意味?」
「頼む!聞かないでくれ」
「なんでアメリに写真送ったの?」
「……」
「イケてると思ったの?」
「やめろおおおおお!!!」
叫びが、部屋に響く。
「ふふっ」
シオリが、楽しそうに笑う。
「まだあるよ?」
「……は?」
嫌な予感しかしない。
パチン。
再び、指が鳴る。
モニターが切り替わる。
「……」
映し出されたのは――
車内。
そして――
どこか得意げに窓の外を眺める男。
「……あ」
「まさか……」
ユウトの顔から、血の気が引く。
「なんで撮影されてるんだよ!!!」
思わず叫ぶ。
「防犯よ」
「バルド商会の車、全部記録してるから」
「聞いてねぇよ!!!」
画面の中のユウトが口を開く。
『これが……』
『上に立つ者の景色か』
「――やめろ!!!」
「消せ!!!今すぐ消せ!!!」
必死にもがく。
だが、アメリの拘束はびくともしない。
『今の俺には小さすぎるようだ』
「やめろって言ってんだろおおお!!!」
「ふふっ……」
シオリが肩を震わせる。
『おかえり』
「頼む……もうやめてくれ……」
声が弱くなる。
「この動画、町中に流すこともできるんだけどなー」
「お前、汚いぞ!!!」
「ねぇ、優斗――」
シオリが、にっこり笑う。
「どうする?」
悪魔のような笑顔。
「……わかった」
力なく呟く。
「分かったから……」
「もうやめてくれ……」
ぽろりと涙がこぼれた。




